いのちの祝福

椿サイドの話



鳥なんて嫌いだった。

冬の間、家人が餌をやるものだから、
春になっても図々しく庭へ居着くようになった。

枝へ勝手に降り立ち、
葉を揺らし、好き勝手に鳴く。
私の根元に糞尿まで落とした。許さない。

その上、巣まで作った。

細枝が重たく軋むたび、
私は不機嫌に葉を揺らした。

――ここは、静かな庭だったのに。
木蓮と私の庭だったのに。

けれど、家人は庭に訪れる者が増えたことを喜んでいた。


鳥を見上げて、眩しそうに目を細めた。


その顔を見ると、追い払えなくなった。


春の光は柔らかくて心地よい。

木蓮は相変わらず上から全部を見ているし、
草花たちは風に揺れながら笑っていた。

穏やかな庭だった。

ずっと続くと思っていた。

けれど、
家人は少しずつ老いていった。
庭へ降りてくる回数が減った。

鋏を持つ手が遅くなった。
縁側から私を見上げる時間が、長くなった。

私は、なんとなく分かってしまった。

ああ。

このひとは、永遠ではない。

庭に出る人が変わった。
今度はなんだと私は身構えたけれど、その人は、巣立ったあとの枝を静かに整えていった。

鳥に傷つけられた細枝を落とし、
絡まった古い蔓をほどき、
荒れた土へ、新しい土を混ぜていく。

慣れた手だった。

けれど、乱暴ではなかった。

「……チャドクガが沸いてる」

低い声がした。

葉裏へ潜んでいた毛虫たちは、
いつの間にか私を食い荒らしていた。

ーー気づいてくれた。

チャドクガに集られたのは一度目ではない。
これくらい平気だと思っていたけど、見つけてもらえて心底安堵した。
蝕まれていく感覚は、いいものではない。

植物である私は、声を上げることができないのだから。

庭師は黙ったまま、傷んだ葉を切り落とした。
薬を撒いて、幹へそっと触れる。

「もう大丈夫」

自分だけで確認していた。
私に話しかけているわけでもないのに、
その手の優しさが直に伝わった。

ーー春は、本当に温かい。

その手の温かさに、私は静かに溶けた。
どうやら椿は無意識のうちに張り詰めていたらしかった。



あなたは私を生かしてくれた。
生きていることがこんなに気持ちいいなんて、久しぶりに思った。

生きててよかった。
あなたも、生まれてきてくれてありがとう。
あなたが、この世に居てくれてよかった。



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雪国ゆり☃️8月は庭師木々花 肝臓腫瘍で治療中のぐーちゃんの治療費として、大切に使わせていただきます。心から感謝です。