いのちの祝福
椿サイドの話
*
鳥なんて嫌いだった。
冬の間、家人が餌をやるものだから、
春になっても図々しく庭へ居着くようになった。
枝へ勝手に降り立ち、
葉を揺らし、好き勝手に鳴く。
私の根元に糞尿まで落とした。許さない。
その上、巣まで作った。
細枝が重たく軋むたび、
私は不機嫌に葉を揺らした。
――ここは、静かな庭だったのに。
木蓮と私の庭だったのに。
けれど、家人は庭に訪れる者が増えたことを喜んでいた。
鳥を見上げて、眩しそうに目を細めた。
その顔を見ると、追い払えなくなった。
春の光は柔らかくて心地よい。
木蓮は相変わらず上から全部を見ているし、
草花たちは風に揺れながら笑っていた。
穏やかな庭だった。
ずっと続くと思っていた。
けれど、
家人は少しずつ老いていった。
庭へ降りてくる回数が減った。
鋏を持つ手が遅くなった。
縁側から私を見上げる時間が、長くなった。
私は、なんとなく分かってしまった。
ああ。
このひとは、永遠ではない。
*
庭に出る人が変わった。
今度はなんだと私は身構えたけれど、その人は、巣立ったあとの枝を静かに整えていった。
鳥に傷つけられた細枝を落とし、
絡まった古い蔓をほどき、
荒れた土へ、新しい土を混ぜていく。
慣れた手だった。
けれど、乱暴ではなかった。
「……チャドクガが沸いてる」
低い声がした。
葉裏へ潜んでいた毛虫たちは、
いつの間にか私を食い荒らしていた。
ーー気づいてくれた。
チャドクガに集られたのは一度目ではない。
これくらい平気だと思っていたけど、見つけてもらえて心底安堵した。
蝕まれていく感覚は、いいものではない。
植物である私は、声を上げることができないのだから。
庭師は黙ったまま、傷んだ葉を切り落とした。
薬を撒いて、幹へそっと触れる。
「もう大丈夫」
自分だけで確認していた。
私に話しかけているわけでもないのに、
その手の優しさが直に伝わった。
ーー春は、本当に温かい。
その手の温かさに、私は静かに溶けた。
どうやら椿は無意識のうちに張り詰めていたらしかった。
あなたは私を生かしてくれた。
生きていることがこんなに気持ちいいなんて、久しぶりに思った。
生きててよかった。
あなたも、生まれてきてくれてありがとう。
あなたが、この世に居てくれてよかった。
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肝臓腫瘍で治療中のぐーちゃんの治療費として、大切に使わせていただきます。心から感謝です。