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短編小説|また来ますね

noteで、
映画『トゥルーマン・ショー』
の感想を書き終え、公開ボタンを押した。

見出し画像には、
映画館でもらった上映案内を、
館名が写らないように切り取って使った。

記事には、

1人の男性の暮らしが、
本人だけが知らないまま、
世界中に放送されている映画だ。

わたしの生活なら、
初回で最終回やと思う。

と書いた。

しばらくして、
いつもの3人からコメントが届いた。

最初は、ファルコン3号さん。

バスティさん、こんばんは!
今回も、観ていないのに内容が浮かびました。
今度、観てみます!

次は、アトリエUさん。

懐かしいです。
明るい街並みが、
後半になるほど不気味に見えるんですよね。

また来ますね

最後は、月の半券さん。

素敵な記事、ありがとうございます。
最高ですよね。

コメントを書いてくれるのは、
ほとんど同じ3人だった。

顔も本名も知らない。

けれど、
ファルコン3号さんが
黒いバイクで各地を旅していることも、

アトリエUさんが
古い映画が好きなことも、

月の半券さんが
短いコメントしか書かないことも知っていた。

わたしも3人の記事を読みに行った。

読み終えると、スキをつけていた。



2週間に1度くらい、
土曜日の夜に名画座へ行く。

家に帰り、感想を書く。

記事の最後には、
次に観る予定の映画も書いていた。

スキは、いつも5つか6つ。

それでも、題名を決め、文章を直し、
公開するまでの時間が好きだった。

誰かが読んでくれれば、
また感想を書こうと思えた。



その夜、noteを見ていると、
質問箱を使っている人の記事が目に入った。

わたしも深く考えずに、質問箱を開設した。

受付範囲は、「だれでも」にした。

質問は匿名で届くらしい。

コメント欄では聞きにくいことも、
尋ねてくれるかもしれないと思った。



翌朝、質問箱を開くと、
初めての質問が1つ届いていた。

どうして、懐かしい映画ばかり観ているんですか?
新作は観ないのですか?

『子どものころ、
 父に連れられて映画館へ行ったことを、
 懐かしい映画を観ると思い出せるから』

そう答えて、公開した。

誰が送ったのかは分からない。

それでも、
質問されるのは思ってたよりうれしかった。


匿名の質問は続いた。

いつも1人で映画館へ行くのですか?

プロフィール画像はバスティさん本人ですか?
すごく、かわいいです!

どの質問にも、きちんと返事をした。


それからしばらく、
質問は途切れずに届いた。

今週の金曜日に台風が最接近するみたいです。
映画館へ行くなら、気をつけてくださいね。

わたしは、
『ご心配ありがとうございます。
 土曜日の夜に行く予定なので、
 そのころには通り過ぎていそうです。
 大丈夫そうですね』
と返した。

上映中はポップコーンを食べる派ですか?

『はい、食べます。
 キャラメルじゃなくて、塩派です』

いつも席は決まっていますか?
どのへんの席が好きですか?
わたしは一番後ろです。

『一番後ろです。
 だいたい真ん中に座ります』

大阪って、こういう昔の映画を上映してる映画館、
けっこうあるんですか?

『大阪ちゃいますよー。でも関西です。
 近くにある名画座は1館だけです』

映画を観たあとは、
どこか寄って帰ることってありますか?

『ほとんどないです。
 駅まで歩いて、電車で帰ります』


質問箱って、すごいな。

画面の向こうに、
わたし自身のことまで知りたい人がいる。

どれも、
答えて困る質問には思えなかった。

質問が増えてきたので、
いくつかのやり取りを記事にまとめることにした。

題名は、
『映画のことと、わたしのこと』
にした。

その記事には、
初めて30のスキがついた。


次の質問が届いた。

バスティさんの記事を読んで、
わたしも名画座へ行ってみたくなりました。
いつも行っているのは、なんという映画館ですか?

返事を書きかけて、やめた。

映画館の名前まで、言う必要はない。



次の土曜日の夜。

記事で予告していた、
『グレムリン』を観に来た。

最初はかわいかった生き物が増えていき、
気づいたころには、
手に負えなくなっている映画だ。


薄暗い中で、客席が広がっている。
思っていたより、人が入っていた。
20人、いや、もっといる。

今日は、よう入ってるな。

いつもの、
一番後ろの列の真ん中が空いていた。
そこへ向かった。

席へ向かう途中、
何人かと目が合った。

どの人も、
すぐに目をそらした。

甘いポップコーンの匂いが、
客席まで流れてきていた。

わたしが席に着いてから、
同じ列の出口に近い通路側に、
男性が1人座った。

そのあとも、
客が何人か入ってきた。


予告編が始まり、暗くなった。

1つ前の列の、
わたしの真正面に男が座った。

わざわざ真ん前に座らんでもええのに。


本編が始まった。

スクリーンでは、
小さな生き物が愛嬌のある声を上げていた。

ポップコーンを口に入れた。

すると、1つ前の席の男が振り返った。


「バスティさん、こんばんは」


え?

指につまんでいたポップコーンが、
膝に落ちた。


前の男の顔は逆光でよく見えない。
笑っていることだけは分かった。

男は、わたしの隣の空席を見た。

「ほんまに1人なんや。よかった」

「え……誰ですか?
 何がよかったんですか?」

「それは、あとで」

男は、スクリーンへ顔を戻した。


……なんなん、この人。


わたしは鞄を抱え、立ち上がった。

「すみません……」

通路側の男性が、
足元の荷物を引いてくれた。

その前を通り抜けようとして、
男性の足を踏んでしまった。

ごめんなさいと言えずに、手を合わせた。

映画の音を背中に受けながら、
客席を出た。

ロビーにも立ち止まらず、
映画館の外へ向かった。


冷えた館内から、
真夏の熱気の中へ出た。

「バスティさん!」

後ろから、男の声がした。

足が止まった。

「映画……
 最後まで観ないんですか?」

振り返った。

40歳くらいの男が、
映画館の入口に立っていた。

全身、黒い服だった。

短い髪が、
汗で額に張りついていた。

知らない顔だった。


「……誰ですか」

男は笑った。

「ファルコン3号です。あれ見てください」

男は駐輪場を指さした。

黒いバイク。

ファルコン3号さんの記事で、
何度も見たバイクだった。

「……え」

黒いバイクと男を、交互に見た。

「バスティさんと会ってみたくて。
 やっと会えた。ほんま、うれしい」

男は、
駐輪場のバイクまで歩いた。

わたしは、
映画館の入口から動かなかった。

「なんで……ここにいるんですか」

男はバイクに掛けていたヘルメットを手に取り、
後ろのケースから、
もう1つのヘルメットを取り出した。

2つのヘルメットを持って、こちらへ戻ってきた。

「いつもスキくれるから、
 今日はスキ返したいなって。
 家まで送りますよ」

男は笑った。

「その前に、
 ちょっと寄りたいとこあるんですけど」

「……どこですか」

男は、嬉しそうに笑った。

「着いたら分かりますよ」

「……いえ。大丈夫です。自分で帰ります」

「ここからやと、駅まで結構歩きますよね?
 これから電車乗るんですよね?」

「……なんで、そこまで知ってるんですか」

男の笑顔が止まった。


「あ、そっか。緊張してるん?」

すぐに、同じ笑顔に戻った。

わたしは1歩下がった。

「あの……すみません。
 もう、質問とか、コメントとか……
 送らんといてください」

男は何も言わなかった。

ヘルメットを持ったまま、
わたしを見ていた。

買い物袋を持った人たちが、
歩道を通り過ぎていく。

「……帰ってください」

鞄の持ち手を握り直した。


「ずっと、話してきたやん」

「……話してないです」


「毎回、返事くれた。
 お父さんの話もしてくれたやん」

「……質問、あなたが送ってたんですか」

男の頬が引きつった。

「でも……わたしたち、
 知り合いじゃないです」

男は、まばたきもせず、わたしを見ていた。

「……じゃあ、
 今までのは、何やったんですか?」

「わたしが記事を書いて……
 コメントに返事してただけです」

「それだけなん?」

「それだけです」


車が何台も交差点を通り過ぎた。

男は、まだこちらを見ていた。


「今日は、一緒に帰らないんですね」

「今日だけじゃないです」


「……へー、分かりました」

男の声が、急に明るくなった。

「今日、いつものバスティさんとちゃうんですね」

「……何言ってるんですか」

男は答えなかった。

もう1つのヘルメットを、
バイクの後ろのケースへ戻した。

それでも、
しばらく乗ろうとしなかった。

わたしが映画館の入口へ1歩下がると、
男も1歩、こちらへ近づいた。

「ついてこんといてください! 帰って!」


やがて男は、
ヘルメットをかぶり、
黒いバイクへまたがった。

エンジンをかけた。

走り出す直前、
ヘルメットの奥から声がした。


「今日は、帰りますね」


黒いバイクは、
ゆっくりと交差点を曲がった。

姿が見えなくなっても、
わたしはその場から動けなかった。

映画館へ戻り、
しばらくロビーで待った。

外を何度確認しても、
黒いバイクは見えなかった。

友人に電話をかけ、
切らずにいてほしいと頼んだ。

人の多い道を選んで駅へ向かった。

駅に着いてからも、
何度か後ろを振り返った。


家までの帰り道も、
黒いバイクがいないか確かめた。


家に着いたことを友人に伝え、
電話を切った。

すぐに鍵をかけた。

エアコンをつけても、
背中の汗がなかなか引かなかった。

カーテンを引き、
窓際の机でパソコンを開き、
noteにアクセスした。

ファルコン3号さんをブロックし、
質問箱も閉じた。

更新を休むことを、
短い記事で知らせた。

理由には、
「少し夏バテ気味なので」とだけ書いた。


休止を知らせた記事には、
しばらくして、2件のコメントがついていた。

アトリエUさん。

あらら。
無理せず、ゆっくり休んでください。

本当に、一番後ろの真ん中に座るんですね。

また映画のお話を読める日を待っています。

月の半券さん。

お大事にしてください。

バスティさん、今日は途中で出ちゃいましたね。
グレムリンはあそこから面白くなるのに残念です!

そうそう、踏まれた足はもう大丈夫です(笑)

こんなに長いコメントは、初めてだった。

読み終えても、画面を閉じられなかった。


スマートフォンが鳴った。


これまで見たことのない名前から、
3件目のコメントが届いた。

おはよう。
念のため、こんにちは、こんばんは。

カーテン、真ん中が少し開いていますよ。

また来ますね





読んでくださって、本当にありがとうございます。

この作品は、
ウィル さん の人との距離感についての記事と
コメントで出た「夏だし、ひんやりホラー系」
という話がヒントになって生まれました。
ありがとうございました🙇

※本作はフィクションです。


ご紹介くださった記事

これまでに僕の作品を読んで、
記事にしてくださった方々がいます。
本当にありがとうございます🙇

書いてくださった記事は、
どれも大切に読ませていただきました🥹


ちなみに先日、
トウガラシを収穫しました。

種を取り出しているときに、
うっかり目をこすってしまって、
30分くらい悶えました🥲


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結城 開人 読んでくださって、本当にありがとうございます。 そのお気持ちが、とても励みになります。