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【掌編】『魔法の解かれた先で』(第十四話)

【前回までのあらすじ】

 父の死を信じきれない王子は、シュバルツに胸の内を打ち明ける。幼い頃に父を失った彼は、「生きている望みがあるなら会っておくべきだ」と静かに語った。その言葉に背中を押された王子は、北方へ向かう決意を固める。そして旅への同行を願うと、シュバルツも快く応じた。こうして二人は城を抜け出す準備を始め、翌夜の旅立ちを誓い合うのだった。

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※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は、実在のものとは一切関係ありません。◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 第十四話

 翌日の昼過ぎ、シュバルツがコソコソとあたりの目を気にしながら、いくつもの荷物を抱えて私の部屋を訪れた。
「恐らく誰にも見つかってはいないと思います――」
 彼はそう言って、手にした道具や何に使うのか分からないようなものを、次々と机の上に並べていく。

「殿下、ひとまず旅に必要そうなものを集めてまいりました」
 机の天板が見えなくなるほど敷き詰められた品々に、私は思わず呆然とする。
「こんなに必要なのか?」
 旅というものはもっと身軽なものだと思っていた。金貨の入った革袋とちょっとした着替えがあれば十分ではないのか。
 しかしシュバルツは当然のように頷く。
「備えあれば憂いなし、と申しますので」
「我々は北へ向かうだけだぞ」
「だからこそです」
 彼は真面目な顔でそう言うと、水袋の口を確かめながら続けた。
「街道沿いまで行けば宿もありますが、そこにたどり着くまでに森や山を越えなければいけません。雨で足止めされるかもしれませんし、道を間違えることもありえます」
「道を間違える?」
 思わず聞き返す。
「道はまっすぐ続いているものではないのか」
 シュバルツの手が止まった。彼はしばらく私の顔を見つめ、それから小さく笑った。
「殿下はヴァルド様の鷹のような目を甘く見過ぎです。真正面から進めば、すぐに城へと連れ戻されて終わりですよ」
「確かにヴァルドならやりかねない……」

 私は腕を組みながら改めて机の上へと視線を落とす。小型のナイフ、干した獣の肉、革製の水袋、厨房で見たことのあるような道具がいくつかと、体をすっぽりと包めそうな毛布などなど……。

 ふと、端にある黒っぽい石に目が留まり、手を伸ばす。
「これは何だ」
 目の前でかざすとゴツゴツとした形をしていた。シュバルツが顔を上げる。
「ああ、それは火打石です。この火打金と打ち付けて火を起こすために使うのです」
「火打石……火打金?」

 私はシュバルツの手から火打金を受け取り、まじまじとそれらを見つめた。
 火というのは廊下を灯すランプや暖炉で揺らめいているあの『火』のことだろうが、あれはこんな小さなものから放たれるものなのか。そもそも――。
「火というのは人間が起こすものなのか」
 荷物を整理していたシュバルツの手が止まった。やがて彼はまるで神に祈るように天井を仰ぐ。
「殿下――」
 シュバルツは虚空に向けてため息を吐いたあと言葉を続けた。
「いくら殿下と言えども、あまりに世の中のことを知らなすぎます」
「失礼な……」
 私は火打ち石を手の中で転がした。

 廊下のランプや暖炉にせよ、火というものはいつも気づけばそこにあるものだった。しかし、それが生まれる瞬間というのを目にしたことがなかった。
 火を起こすというのは、いったいどういうことなのだろう。この二つを打ち付ければ火が起こるのか。私は何となく石と金属を打ち合わせようとする。

 その瞬間だった。
「殿下!?」
 シュバルツが飛び上がるようにしてこちらへ駆け寄ると、慌てて私の手首を掴みあげた。
「いきなりどうした!?」
「それはこちらの台詞です!」
 シュバルツはゆっくりと私の手から火打石を回収すると、安堵に満ちた息を吐いてわずかに声を荒げた。
「こんな所で火を起こしたら、旅に出るどころではありませんよ!」
 大きく腕を広げて、慌てるように怒る様子が妙に可笑しくて、私は思わず吹き出す。

「お前、そんなふうに怒るんだな」
「私は怒ってだなんて……」
 シュバルツもようやく自分の慌てぶりに気付いたらしく、困ったような笑みを浮かべた。

 ――その時だった。
 コンコン、と扉を叩く音が響き、和やかだった部屋の空気が一瞬にしてピンと張りつめた。

掌編『魔法の解かれた先で』
 
第十五話に続く


 第十四話のご拝読
 ありがとうございます✨️

【次回の見どころ👀】
 旅の準備が進む中、ヴァルドの冷たい視線が王子の心を揺るがせる。

📔第十五話の更新は
6/8(月)19:30を予定しています。

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結城斗永|掌編小説・詩のようなものを書きます✍🏻 私の物語は皆様からいただいた一杯の珈琲の味。 よろしければ応援よろしくお願いいたします。