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【掌編】『魔法の解かれた先で』(第五話)

【前回のあらすじ】

 王子は父への複雑な想いを抱えたまま、側近ヴァルドのもとで統治学を学び始める。かつて先王が使用人たちと笑い合っていた頃の城は、父の失踪後、冷たく閉ざされた場所へ変わっていた。民との距離を説くヴァルドの言葉に、王子は自分自身もまた“王”へ剪定されていることを感じ始める――。

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※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は、実在のものとは一切関係ありません。◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 第五話

 講義が終わると、ヴァルドは次の用事があるからと足早に書庫を出ていった。私はそのまま書庫の机に残されていた書簡の束へと手を伸ばす。

 封筒をひとつずつ開けながら内容を確認していく。他国とのやり取りも王族の重要な務めだ。とはいえ、その大半は形式ばった挨拶や貿易に関する確認事項ばかりで、正直なところ面白いものではない。 

 何通目かの封筒に見覚えのある紋章が目に入った。百合の花を咥えた金色の鳩。
 エミュニア王国の紋章だった。
 思わず指先が止まる。首を小さく回して辺りに誰もいないか確認する。軽く咳払いをして私は封筒の口を開いた。

 差出人はエミュニア王妃だった。内容は至って普通である。季節の挨拶から始まり、近況の報告。両国の友好関係への感謝。
 淡々とした文章を追いながら、私はどこか肩透かしを食らったような気分になった。

 まったく、何を期待していたのだろう。ため息が漏れる。しかし、最後に添えられていた小さな追伸に思わず目が留まった。

『娘も庭の樫の木を見つめながら、毎晩のように王子に会いたいと申しております』

 私は思わず吹き出した。静まり返った書庫に、自分の細い笑いがやけに大きく響いた気がして慌てて口元を押さえる。

「エレノア姫――」

 私の口から自然と漏れた名前に少し気恥ずかしくなって窓の外へ目をやると、ちょうど視線の先に樫の木が見えた。

 

 数年前、私がまだ十歳を少し超えたあたりだった。食事会に招かれ、初めて隣国エミュニアへと訪れた日のことだ。

 私の国から出向いたのは私と数人の側近だけ。ヴァルドも別の用事で同席できず、外交の席に出るのも不慣れだった私は、緊張のあまり胃の辺りが重くなっていた。

 食事会まではまだ時間があるからと、案内役の騎士に連れられて広い庭園を歩いていた時だった。
「ああ、もう少しなのに!」
 どこからか少女の声が聞こえた。
 私は思わず立ち止まり、声のする方を見上げた。すると、大きな樫の木から伸びた枝に、私よりいくらか年下に見える少女が跨るようにして座っていた。

 淡い空色のドレス。陽光を受けて輝く金色の髪の上ではリボンが風に揺れる。まるで絵本の挿絵から飛び出してきた妖精のようだった。それが私とエレノア姫の初めての出会いだった。

「姫様、何をしているんですか!」
 騎士の男が慌てたような声を上げた。エレノアはうれしそうにこちらを見下ろしながら声を上げた。
「ねぇ、見て! 鳥の巣ができているの!」
 そして満面の笑みを浮かべる。見ればエレノアの跨る枝の先に、確かに小さな鳥の巣があった。


掌編『魔法の解かれた先で』
 
第六話に続く


 第五話のご拝読
 ありがとうございます✨️

【次回の見どころ👀】
 エミュニア王国の姫エレノアとの出会いにより、王子の心に未知の感情が湧き上がる。王子とエレノアの今後やいかに。

📔第六話の更新は
5/30 (土)19:30を予定しています。

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結城斗永|掌編小説・詩のようなものを書きます✍🏻 私の物語は皆様からいただいた一杯の珈琲の味。 よろしければ応援よろしくお願いいたします。