インターンは“目的”じゃない——採用の本質を見失わないために
「今年も、インターンはやりますか?」
採用担当の若手がそう尋ねてきたのは、秋の会議が終わった直後のことだった。
資料の中には、今年度の採用実績と来年度の採用計画。その隣には、学生の傾向や競合他社の動きが丁寧にまとめられていた。
「主要企業の採用計画達成率が上がっているそうです。やっぱり、インターンが功を奏してるみたいで——」
そう言って彼は、少し誇らしげに記事を見せてきた。
たしかに、記事には「学生とのミスマッチが緩和」と書かれていた。でも僕は、素直にうなずけなかった。
——本当に、そうなのだろうか。
——ミスマッチは、そんなに簡単に減るものなのか。
心の中に、静かに疑問が浮かんだ。
採用の現場に十数年いると、「時代の波」というものを何度も見る。
「通年採用」
「ジョブ型」
「ダイレクトリクルーティング」
「人的資本経営」
新しい言葉が出てくるたびに、多くの企業が一斉に動き出す。
でも、どれも本質は変わらない。
「人と組織が、どう出会い、どう関係を築いていくか」
この一点に尽きる。
だから僕は、どんなに世の中が変わっても「採用の目的は何か?」を問い直すようにしている。
——インターンをやることが目的になっていないか?
——採用を“数字合わせ”にしていないか?
——内定率や達成率の裏に、どんな現実があるのか?
記事を読むと、「前年比1.4%増」「達成率95.2%」といった数字が並んでいた。でも、その数字は“採用活動の質”を表しているわけではない。言ってしまえば、“結果”にすぎない。
問題は、その結果がどう生まれたのかだ。
僕が人事になったばかりの頃、社長にこう言われたことがある。
「採用活動は“出会いの場”だと思え。選ぶ場ではない」
当時はその言葉の意味がよくわからなかった。
でも今なら、少しだけ理解できる。
インターンを通じて学生が企業を知る。企業が学生を知る。それは“出会い”のための手段であって、“選抜”のための仕掛けではない。
ところが最近では、インターンがどんどん“採用の前倒し”になっている。学生にとっても、企業にとっても「選ばれるかどうか」「評価されるかどうか」が中心になってしまっている。
“体験”の名を借りた“選抜”。
“学び”の名を借りた“査定”。
それが現場のリアルだ。
もちろん、すべての企業がそうだとは言わない。本気で学生に学びを提供しようとしている企業もある。
「うちの仕事の難しさを、ちゃんと知ってほしい」
「社会人としての視野を広げる場にしたい」
そうした真摯な姿勢で取り組む企業があるのも確かだ。
でも、僕が見てきた限り、その数は決して多くない。むしろ、「他社がやってるから」「ナビサイトで評価されるから」「学生に印象を残したいから」といった理由で始めたケースの方が多い。
そうして“やること”が目的化していく。
——インターンは目的じゃない。
——採用の「質」を高めるための手段の一つだ。
そこを履き違えると、どんなに形式を整えても意味がなくなる。
「ミスマッチが減る」と言うけれど、そもそも“マッチ”とは何だろう。
性格診断で数値が近いこと?
志望動機が丁寧に書かれていること?
説明会でうなずいていたこと?
本当にそうだろうか。
僕が考える“マッチ”とは、「お互いが一緒に働くイメージを具体的に持てている状態」だ。学生が“この会社なら自分の力を発揮できそう”と思い、企業が“この人となら未来を描ける”と思えるかどうか。
そのためには、「表面的な理解」ではなく「相互理解」が必要だ。
インターンは、その入口になり得る。でも、入口でしかない。本当のマッチは、入社後の対話や経験を通して少しずつ育まれていくものだ。
だから僕は、インターンを過信しない。
あくまで“きっかけ”にすぎない。
ある年、僕たちの会社でも大規模なサマーインターンを実施した。テーマは「課題解決ワーク」。学生たちはグループに分かれ、与えられた経営課題に取り組む。最終日は役員の前でプレゼンを行う——そんな形式だった。
運営チームは何カ月も準備を重ねた。学生からのアンケート評価も高く、広報的にも成功といえるイベントだった。
ただ、ひとつだけ違和感が残った。
終了後、参加した学生のうち、実際に選考に進んだのは全体の半分以下。さらに、内定まで進んだのはごくわずかだった。
なぜか。
——彼らは、僕たちの会社を“好き”にはなったけれど、“理解”はしていなかったのだ。
発表会での雰囲気、社員の人柄、オフィスの雰囲気。そこに惹かれた学生は多かった。でも、仕事内容や責任の重さ、働くリアリティまでは伝えきれなかった。
“魅力”は伝わっても、“現実”が伝わっていなかった。そのギャップが、入社後のミスマッチにつながる。
採用の世界では、「母集団」「歩留まり」「達成率」といった言葉が飛び交う。もちろん、それも大切な指標だ。でも、数字だけを追いかけていると、いつの間にか「人」を見失う。
「どんな学生を採りたいのか」ではなく、「どんな学生が欲しいのか」という言葉にすり替わる。
似ているようで、まったく違う。
“採りたい”のは、会社の未来を一緒につくる仲間。“欲しい”のは、今の穴を埋める即戦力。
その違いを意識できるかどうかで、採用活動の方向性は大きく変わる。
最近の学生を見ていると、本当に真面目だと思う。自己分析も、企業研究も、エントリーシートも、丁寧に準備している。でも、同時にこう感じることがある。
——みんな「正解」を探しすぎている。
「どんな志望動機が評価されるか」
「どんな発言をすれば印象がいいか」
「どんな企業が将来安定しているか」
そこにあるのは、“相手に合わせた答え”であって、“自分の軸”ではない。
だから僕は、面接で必ずこう聞くようにしている。
「あなたにとって“働く”とは何ですか?」
それに明確な答えを持っている学生は、驚くほど少ない。でも、それでいいと思っている。大切なのは、すぐに答えを出すことではなく、考え続けることだから。
インターンが本当に意味を持つのは、学生が「自分と向き合う時間」として活用できたときだ。企業にとっても、「学生を選ぶ時間」ではなく、「学生を理解する時間」にできたときだ。
たとえば、ある学生はインターンを通じて、自分にはチームで動くより個人で集中する方が向いていると気づいた。別の学生は、プレゼンでうまく話せず落ち込んだが、それをきっかけに「自分の課題が明確になった」と前向きに捉えた。
——それこそが、インターンの価値だ。
“就活の予行演習”ではなく、“自分の可能性を知る時間”。そこにこそ、本当の学びがある。
数字の裏には、いつも“人の物語”がある。1.4%増も、95.2%も、その中には一人ひとりの人生がある。誰かが内定を得て、誰かが落ち、誰かが迷いながら次の道を探している。
採用担当として僕ができるのは、その「一人ひとりの物語」にちゃんと向き合うことだと思っている。
「この学生は、何を大切にしているのか」
「この会社で働くことは、その人にとって幸せか」
「この出会いは、互いにとって意味のあるものか」
インターンがその対話のきっかけになるなら、やる価値はある。でも、「やらないと採用できないから」「数字を上げるために」という理由でやるのなら、むしろやらない方がいい。
採用とは、“人を見極めること”ではなく、“人と関係を築くこと”だ。その本質を見失わない限り、どんな時代でも良い採用はできる。
ミスマッチを減らすために必要なのは、制度や仕組みじゃない。
——本音で話せる対話の場だ。
——現場と人事が、同じ方向を向く文化だ。
そして何より、「人の可能性を信じる心」だと思う。
夜、社内のチャットに若手からメッセージが届いた。
「今年のインターン、目的をもう一度整理してみました。“学生に選ばれるため”ではなく、“学生と出会うため”。そこを軸に企画を練り直してみます」
画面を見ながら、少し笑った。
伝わっているじゃないか。
数字ではなく、想いで動く採用。
効率ではなく、誠実で積み上げる採用。
その積み重ねの先にこそ、「ミスマッチのない関係」が育っていくのだと思う。
夜、寝る前。
朝陽(あさひ)が布団に入りながら、小さな声で言った。
「パパ、今日ね、ママに怒られたんだ」
「どうしたの?」
「ちゃんと片付けたのに、“まだやってないでしょ”って言われたの」
その言葉に、思わず苦笑した。
——あぁ、それ、僕もよくあるなと思ったからだ。
「片付けた」の基準が、親と子で違う。本人の中では“ちゃんとやった”なのに、大人の目から見ると“まだ中途半端”。それで、「やってない」と言われてしまう。
朝陽は少しうつむいて、「なんかイヤな気持ちになる」とつぶやいた。僕はその気持ちが、すごくよくわかった。
仕事でも、家庭でも、人はみんな“自分の基準”で世界を見ている。だからこそ、すれ違いが起こる。インターンでの「ミスマッチ」も、結局は同じ構造なのだと思う。
「できてるつもり」
「伝わってるつもり」
「理解してるつもり」
その“つもり”が積み重なると、関係は少しずつずれていく。でも、ずれること自体が悪いわけじゃない。大事なのは、そのズレに気づいたときに、ちゃんと“話そう”と思えるかどうかだ。
「じゃあ、朝陽はどう片付けたの?」
僕は朝陽に聞いた。
「ランドセルは閉めたよ。でも中のノートは机の上に出したまま」
——なるほど、それは“途中”だった。
「ママの“片付けて”は、“全部しまってね”だったんだと思うよ」
そう伝えると、朝陽は少し考えてから答えた。
「そっか、今度から“どこまで片付ける?”って聞いてみる」
その言葉を聞いて、僕は小さく頷いた。
ミスマッチは、話せば小さくなる。
沈黙すれば、大きくなる。
それは家庭でも、職場でも、きっと同じだ。
僕たちはみんな、違う“片付け方”で生きている。違う“基準”を持って、同じ空間で過ごしている。だからこそ、対話が必要になる。
朝陽と話しながら、インターンのことを考えていた。
理解とは、“合わせること”じゃない。
お互いの違いを知った上で、「どうやって一緒に過ごせるか」を探ること。
採用も、家庭も、人間関係の本質は同じだ。ズレを恐れず、話し続けること。その積み重ねの中にこそ、ほんとうの「マッチ」が生まれていく。
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湯鶴の裏方より
スキを押してくださった方へ、湯鶴の言葉をひとつ、おみくじと共にお送りします。
たまたま出会ったようで、どこかで必要としていたかもしれないひとことを、そっと手渡せたらと思っています。
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人と向き合う仕事のなかで感じた葛藤、気づき、あたたかさ——。そんな日々を綴った有料マガジン『人事としての湯鶴 —— 組織の中で、人を見つめる日々』があります。
採用、評価、育成、退職——組織のなかにある“決断の裏側”と、“目の前の一人”との対話を、物語として丁寧に描いています。
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