張替日記|そこに価値を見出す ~丸椅子・折りたたみ椅子の張替~
連載「椅子と手のひら張替日記」
「僕以外全員、捨てて新しい椅子を買った方がいいって言ったんです。」
椅子を引き取りに来てくださった際に、笑いながらそんなことをおっしゃられ、うれしそうに椅子を見つめてくださるのが私もとてもうれしかった。
以前、こんな記事を書いた。
時に、買い替えた方が明らかに金額が安いであろう椅子のお問い合わせを頂くことがある。
(・・・なんて、返信したらいいだろう?)
はじめの頃はいつもそんな風に悩んでいた。
悩んでいた理由は、
新しいものを買うよりも修理する方が安いとみんな思っているだろうから。やはりみんなコストが考えるべき一番のことだろうと、私は思っていたからだ。「購入時の値段=そのものの価値」だと。
この記事の冒頭、当店では最低料金というものを設けているという話を書いている。
当店では、最低料金というのを設けている。
どんな依頼でも、最低いくらはもらいますという料金。
いくら以下ではお仕事は承っておりません、という料金。
それは、椅子をお持ち頂いたお客様とその椅子にしっかりと向き合うという私の覚悟の数字だ。
開業して10年。
事業を続ける中で確信したことが1つある。
それはどこに価値を見出すかってことだ。
もちろん、金額の事は最重要事項の一つだ、それがビジネスだもの。
技術も重要だ、だってそれをサービスとして売っているのだもの。
じゃあ、「価値」とは一体何だろう?
張り替えも修理も決して安くない。
そんな中、当店のInstagramでこの記事にある丸椅子の投稿を見つけ、それがとても気に入ったのでそんな風に張り替えてほしいというお問い合わせが来たのです。
私は今回も当店で承る依頼の最低料金についてご案内します。
「それでも、張り替えますか?」
と。
「買った方が安いってわかっているんです。でも、今までボロボロだった椅子が、ある日突然張り替えられてそこにあったら驚くでしょ。」
丸椅子・折りたたみ椅子の張替
「どこでお使いですか?」とたずねると、「会社の事務所で使っています。」という。従業員の皆さんも座るし、お客さんも座る。取引先のお客さんが荷物を置いたりもする。
「さすがにちょっとボロボロで・・・」
そんなお話に、張り屋としてはがぜん力が湧きます。
先ずは丸椅子から、
張り方は上部に添付した記事と同じ、針金を使用した張り方です。

生地が破れて、中のクッション材やフレームが見えています。

3色で美味しそう。脚キャップも付け替えています。



左:布を貼っていないとチップウレタンが見えています 右:布を貼っています

生地を丸く裁断して、針金を通しながら端を縫います。
そして、生地をかぶせて針金をねじって絞めていけば完成です。
複雑な作業ではないのだけれど、この針金を絞めていくのが、なかなか力任せには出来ないポイントの1つ。
今回は、一回針金を締める時に針金が切れてしまったのでやり直しました。
ねじり終わった先端を、手に当たってケガしないよう処理して完了です。




スタッキングも可能!
折りたたみ椅子の張替




ついでに丸をどうやって張るか、張り方を説明してみたいと思います。
丸の張り方









丸を張る時のポイントは生地の織を利用することです。
縦糸横糸のある生地はバイアス方向に伸びるという事を知っていると、ある程度皺を消していくことも出来るのです。
そして、必ず同じ力で引っ張り、張るということ。
シンプルなものほど、この基本がそう簡単でないって事が分かってしまう。
見積やお問合せの時点で、
「買った方が安いですね。」
と返信を頂き、依頼につながらないことは山ほどある。
けれど、実際に依頼を頂けているという現実がある。
10年経った今でも新規のお客様が来られるのです。
当店へ来られているという事、そこには金額だけではない価値を、お客様自身がすでにお持ちだから。
それに加えて、出会えたことがまた一つの価値になれるような店づくりをしたいもんだと思いながら、今日も張り替えに励みます。
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古い椅子を張り替えて展示販売する「座と輪のコイス展」の開催に使わせて頂きます。宜しくお願いします!