張替日記|きれいにすることへの葛藤と思い出の名残 ~ダイニングチェアの座面張替~
連載「椅子と手のひら張替日記」
その昔、
もう10年前くらいかな、
とある古道具屋さんでこんなことを言われた。
「張り替えてしまえば、それはもう古道具ではない。」
と。
それよりもっと昔、
椅子張りを始めた頃に、工場長が話していた失敗談がある。
「椅子のフレームの傷もきれいに直してあげたら、後々思い出の傷だったとクレームを頂いたことがある。」
と。
”新品のように蘇ります”
という宣伝文句もよく見かけるし、
”新品のようになりました!”
という喜びの声もよく見かけるけれど、
長年使いこんだからこそ刻まれるものもある。
一体何が正解なのか。
私にはいつもそんな悩みがつきまとっている。
だからこそ、持ち主のお客さんの顔が見たく、何に困っているのかと、たくさんお話を伺いたい。
そのために会社ではなく、こうやって小さな店を営んでいるのだから。
ダイニングチェアの座面張替
最近は公式LINEを活用くださることもちょこちょこ増えてきて、導入したかいがあったかなと思っている昨今です。
(公式LINEはホームページよりご確認ください。)
そんな中、お問合せ頂いた1通のLINE。
「おじいちゃん、おばあちゃんの使っていた食卓椅子を残したい」
というお子様方(お孫さん)のご希望だそうで、
お持ち頂いた時は、古い生地を剥がしておられ、ご自身で挑戦されようとした後でした。

今では、インターネットでウレタン(クッション材)と生地がセットのものが購入出来たりもするので、ご自身で張り替えをされることはそうハードルは高くないと思うのですが、クッション材を新しくした後の曲線を張るのはそう容易なことではないかもしれません。
張るにはやはりちょっとしたコツがあるのですが、いかなる動画でもそのコツは説明しがたいような気がします。
今回ご依頼くださったお客様もそう思われていたようで、お引き取りの際に「自分じゃこんなに綺麗に張れない!」とおっしゃってくださり、何だかうれしく、やはり初心忘れるべからずと心に刻んでみたりしたのでした。
ボウズ張りは椅子張りの基本ですから。
(※ボウズ張りとは、一枚の生地で張り包むことです。)
張り替えは、古い生地を剥がすことがやはり一苦労で、そこまでやって頂いたのに、張るまで辿り着けないのはなんだかいいとこ取りしちゃったみたいでもどかしいなぁ。
やっぱりワークショップしてみようかしら…
やりたい人いますかね?
なんて、すでに張替を依頼してくださったお客様に相談するのも何だかおかしいのだけれど。
さてさて、張替えに話を戻して、
すべて綺麗にしたいとおっしゃられれば、フレーム部分の塗装や籐の張り替えも可能であることをお伝えし、
今回は座面のみの張り替えをご希望されました。籐も破れてないですし。





余分な生地をカットして



座面の張り替えだけをご希望だったのだけれど、どうしても籐の塗装剥げと椅子の笠木部分の塗装剥げが気になり、こういう補修はご家庭ではなかなか難しいし、補修した方が長持ちするんじゃないかと、目立たない程度で補修したのですが、


補修した後、
おじいちゃんおばあちゃんとの思い出だとおっしゃっていたけど、よかっただろうか?
と、ちょっと不安になり、
でも、木肌が出ているよりはこの先汚れも着きにくいし、現状を維持出来るはず!
と自分を納得させ、
引き取りに来られた際に、まずは「勝手にすみません」と謝り、少し塗装補修した胸を説明しました。
はじめは気づかれていなかったようでしたが、2脚ずつの張り替えだったので、次に張り替える2脚をお持ち頂き比べると、違いが分かります。
幸い、喜んで頂けお子様(お孫さん)の感想も伺う事が出来たので良かったです。
フレームの塗装を落とし、籐を張り替えれば、それこそ新品の様になるのだけれど、
そうした方がいいとは言えない思い出がそこにはあるかもしれない。
でもこのままでは、どんどん劣化していく。
それならば、できるだけ長くこの現状を保ちたい。
そんな思いからの補修でした。
大切にしたいという想いに、
これからも使い続けたいという想いに、
私はどうやって応えられるのだろう?
いつもそんなことを考えているのです。
そんな私はにはいつも、これだけは違うんじゃないかと思っていることがあります。
それは、エイジング(経年変化)と汚れ。
年月経てば、モノは汚れてもくるし、劣化もする。
汚れているのか、劣化しているのか、エイジングなのか、はたまた思い出の傷跡・名残なのか、
判別はとても難しい。
それでも、拭いて落ちていくものであれば、基本的に私は汚れだと思っているのです。
古い椅子などは、塗膜が弱くなっている場合もあるので、基本的に水拭きです。
何度か水拭きして、落ちないものは歴史という事で。
別途料金を頂戴し補修を行うこともありますが、
少し拭いただけでも、椅子たちは意外とスッキリするもので、
なんでもそうですが、
特殊な塗料や洗剤など使わずに、硬く絞ったふきんなどで、時々拭いてあげるのはいい事だなと思っているのです。
その結果よいエイジングになるのではないかと。
(布の部分はコート用のブラシなどでお手入れを。オイル系のものは時々オイルメンテナンスを。)
自分の家にあるモノ達も時々拭いてあげなきゃな、と思っているこの頃です。
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