インフレバトルエロゲの『最強』に転生した僕の自分探し①
【あらすじ】
本編未登場!
判明しているのはSNSでライターが漏らしたほんの僅かな情報のみ!
「遊び人Zって何だよ……僕は一体何者なんだ……」
自分探しの物語が今、始まる。
【本文】
煌びやかな装いの裏に潜むドロドロに煮詰まった欲望。
どれだけ上っ面を取り繕おうともどうしたって隠せないものはある。それだけ賭場の空気というものは独特だ。
運を掴み勝利した者。運に見放された敗北した者。明暗、プラスマイナスはある。
だがどちらもギラついた欲に踊らされた結果の終着点でそこに辿り着いたのだから本質的にはどちらも同じ。欲望の奴隷なのだろう。
奴隷は賭けに興じる者だけではない。運営する胴元ですら結局のところ同じ。
誰も彼もが首輪に繋がれているこの空間に一人、異質な少年が居た。
「……」
昼食後、満腹感と良い陽気で何もする気が起きない時のようなぼんやりとした目でスロットを打っている。
負けがこんでいて思考能力が鈍っているのか? いや違う。むしろその逆だ。
ポーカー、ブラックジャック、ルーレット、スロット、少年はこのカジノに来てから勝ちを積み重ね続けている。
最初は気にしていなかった客や運営も、こうまで勝ちが続くと流石に無視できない。
今もスロットを打つ少年をじっと観察している。
「イカサマだろ」
「……でもそんな様子はないし」
「じゃあ何だってこん――――あ、また!!」
777。勝利のスリーセブンが並び筐体が少年を讃えるように煌めき歌う。
一度ではない。彼がスロットを打ち始めてから七度目のスリーセブンだ。
「クッソ! おい、まだ分からんのか!?」
「……“眼”を持つ従業員がフルで観察してますがやはり異常は」
「ならば純然たる運だとでも言うのか?!」
賭場は胴元が儲かる仕組みになっている。優良店、不良店問わずそれは原則だ。
しかし公正明大に勝ち続けることができればその原則は破壊可能だ。
悪質な賭場、表面上は優良店を装っているところならば暴力に訴えられるがそれでも負けは負け。
人の口に戸は立てられず賭場の看板に傷がつく。
ではこのカジノはどうか。ここはとある大物が運営しておりその大物は口が裂けても善良とは言えない人物だ。
しかしその矜持の高さは誰もが知る事実で、だからこそ何もできない。
既に少年は向こう十年は赤字を避けられないだけの利益を上げているが今も平然とスロットを打てているのがその証左だ。
ゆえに従業員は血眼になって不正の痕跡を探そうとしているのだが徒労以外の何ものでもない。
――――何せ少年は純粋な運だけで勝負しているのだから。
「あぁ、そこの君」
「! な、何でしょう」
少年が立ち上がり近くに居た従業員に声をかけた。
声をかけられた従業員は露骨に顔を引き攣らせているが彼はお構いなしに言う。
「これまでの勝ち分、全部現金に。それとオーナーに会いたいんだけど」
どこの馬の骨とも知れぬガキ。オーナーになど会わせられるわけがない。
しかしこれだけの金額を毟り取った相手ともなれば……。
自分の一存では決められぬと従業員は近くに居た上役に確認。その上役でも決めかねたので更に上へ。
幾つかを経由し、ようやっと判断が下され少年はオーナーが待つVIPルームへと通された。
「随分とお勝ちになられたようね。祝福申し上げますわ」
グラデーションのかかった髪を上品にまとめた貴婦人が丁寧な口調で少年を歓迎した。
とは言え丁寧なのは口調だけ。視線、声、あちこちに隠し切れない傲慢さが滲んでいる。
マグダレナ。万華鏡の異名を持つ数百年を生きる魔女であり七大都市の一つを支配する女。
最強と目される人間の内の一人なのだからその傲慢さは当然のこと。むしろ傲慢さがない方が嫌味というものだろう。
「お名前は?」
「……ゼット」
ゼット、とマグダレナは飴を転がすようにその名を呟く。
聞き覚えはない。タメがあったようだし偽名か? どうにも何を考えているのかが分かり難い。
素早く頭を回転させるが現状、情報が足りなさ過ぎるとマグダレナは話を進めることにした。
「それでわたくしに会いたいと願った理由を聞かせてくださる?」
「観たい映画があるんだがレイトショーでね。三時間ぐらい待たなきゃいけないんだ」
「……?」
怪訝そうな顔をするマグダレナにゼットはこう続けた。
「だからここで稼いだ分で三時間、あなたを買おうかなって」
「――――は?」
自分を、買う? あまりの発言にマグダレナはポカンと、彼女にしては珍しい間抜け面を晒した。
第三者がゼット少年の発言を聞いていたら巻き込まれては堪らぬと即座に逃げ出していただろう。
マグダレナはビッチだ。それもただのビッチではない。ド級のビッチ。ドビッチだ。
万華鏡の二つ名通り老若男女、ソフトハード問わずに乱れる真正の色狂い。
しかし一度たりとて自分を売るような真似はしていない。
自分が選ぶか自分に跪き命を含め全てを差し出し一夜を懇願されるか。そのどちらかしか認めない。
そんなドビッチ相手にどこの馬の骨とも知れぬ小僧が“買う”などというのはあまりにも傲岸不遜。
怒りは一瞬にして頂点に達したがゼットのそれは序の口。
「ああ、無理なら良いよ。そこらの娼館でテキトーに買うから。まあ少々多過ぎる額だが僕にとっちゃ泡銭だしね」
万華鏡の魔女が経営するカジノに十年分の赤字を刻み付けるだけの額。
マグダレナからすれば自分を買うには到底、足りないはした金だが余人からすれば大金も大金。
それをだ。木っ端の娼婦相手に払うと。そう、言った。言ったのだ。
つまるところゼットはそこらの娼婦もマグダレナも同列に見ているということ。
過去イチ激怒したマグダレナは――――笑った。
誰もが見惚れるような淫蕩さを湛えた笑顔。それが彼女自身も知らぬ万華鏡の魔女が示す最大級の怒りだった。
「よろしくってよ。ええ、ええ。忘れられない一時を差し上げましょう」
殺す。このガキを。
命を、ではない。枯れ殺すなど朝飯前だがそれでは到底足りない。
「さて、ここでは何ですので場所を移しましょうか」
「ああ」
細胞の一辺まで自分という存在に完全に依存させてありとあらゆる生命活動でさえ自分の許可なくばできない体にしてやる。
そう決意してから三時間後マグダレナは――――
「……ねえ、ゼットさん。わたくしの愛人になりません?」
ベッドの上で夢見る乙女のように帰り支度をするゼットを見つめていた。
「……」
ゼットは手を止め、マグダレナを一瞥して再度着替えに戻った。
焦ったのはマグダレナだ。馬鹿を見るような目を向けられた彼女は慌てて言い繕う。
「ごめんなさい! 嘘、違います。わたくしを……わたくしをあなたの女にしてくださいまし」
命を含めて自分の持つ何もかもを捧げる。
もう金輪際他の誰とも関係を持たない。あなただけを見つめる。
縋るように懇願するマグダレナにゼットは、
「映画の時間だから」
「ッ」
絶望。マグダレナの表情を端的に示す言葉でそれ以上のものはあるまい。
しかし、
「悪くない時間だった。気が向いたら……また」
「! はい、はい! 一日千秋の想いでお待ちしていますわ!!」
縁が途切れなかった。ただそれだけのことでマグダレナの顔は幸福で塗り潰された。
カジノ内にあるマグダレナのプライベートルームを出て真っ直ぐ外へ。
ゼットはふと足を止め曇り空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「最強ってこういうことなのか?」
わからない、わからないとやるせない表情で首を横に振る。
「『神にも悪魔にもなれる遊び人』って何だよじいちゃん……」
頭を抱えるゼット改め遊び人Z(本名)。現在、自分探し中。
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