【第三弾】ABC理論:怒り・不安・寂しさをどう理解する?情動と感情をケアに活かす方法
第1弾では、「出来事と感情の間には、その人なりの受け止め方がある」というABC理論の基本を整理しました。
→【https://note.com/39kaigo/n/ndec641e52fbb】
第2弾では、その考え方を介護や支援の現場でどう使うか、実践の流れを見てきました。
→【https://note.com/39kaigo/n/nbf68e6e724d2】
そして今回の第3弾では、さらに一歩進めて、利用者さんの“心の動き”をどう理解するかというテーマを扱います。
介護の現場では、
「急に怒り出した」
「なんとなく不安そう」
「寂しいと訴える」
「さっきまで穏やかだったのに急に表情が変わった」
そんな場面によく出会います。
このとき、ただ
「気分にムラがある人」
「難しい人」
「認知症だから仕方ない」
で終わってしまうと、関わりが浅くなってしまいます。
でも、そこにある情動と感情の違いを理解すると、見え方がかなり変わります。
そしてABC理論を使うと、その人の怒りや不安や寂しさが、何をきっかけに生まれ、どう受け止められ、どんな行動につながっているのかを整理しやすくなります。
今回は、情動と感情の違いをやさしく整理しながら、介護現場でどう活かせるかを具体的に見ていきます。
介護の現場で見えているのは「心の結果」であることが多い
利用者さんの怒り、不安、拒否、悲しみ。
私たちが現場で目にするものの多くは、実は**その人の心の中で起きたことの“結果”です。
たとえば、
・急に怒鳴る
・介助を拒否する
・落ち着きなく歩き回る
・「帰りたい」と繰り返す
・「誰も来てくれない」と寂しそうにする
こうした言動には、表面だけを見ると対応に困るものもあります。
でもその奥には、多くの場合、その人なりの驚き、不安、傷つき、孤独感などがあります。
つまり、見えている行動だけで判断するのではなく、その前にどんな心の動きがあったのかを考えることが、支援ではとても大切です。
そのときに役立つのが、
「情動」と「感情」の違いを知ることです。
情動と感情はどう違うのか
この2つは似ているようで、少し役割が違います。
【情動とは】
情動は、刺激を受けたときに瞬間的に起こる反応です。
たとえば、
・急に大きな声がしてびっくりする
・強い口調で言われてムッとする
・見知らぬ人に近づかれて不安になる
こうした反応は、まず身体が先に動くような感覚に近いです。
情動の特徴は、
・瞬間的
・反射的
・身体反応を伴いやすい
・本人も言葉にしにくいことがある
つまり情動は、その場でパッと起こる心身の反応です。
【感情とは】
一方で感情は、その情動に意味づけや考えが加わって、少し長く続く心の状態です。
たとえば、
・寂しい
・悲しい
・悔しい
・不安
・安心する
・嬉しい
こうしたものは、単なる一瞬の反応ではなく、その人の経験や価値観、今の状況の受け止め方とも関係しています。
感情の特徴は、
・情動より長く続きやすい
・意味づけが含まれる
・その人の人生経験や考え方に左右される
・言葉として表現されることもある
ざっくり言うと、情動は“反射”に近く、感情は“意味づけされた心の状態”と考えるとわかりやすいです。
ABC理論で情動と感情を整理する
ここでABC理論が役立ちます。
ABC理論では、
A:出来事
B:その出来事に対する受け止め方、解釈、信念
C:その結果として起こる感情や行動
という流れで考えます。
これを情動と感情に重ねると、かなり理解しやすくなります。
たとえば、Aとして何か刺激が起こったとき、まず情動が動きます。
そしてその後、その出来事がその人の中でどう意味づけられるかによって、感情や行動が形づくられていきます。
つまり、情動は“最初の反応”感情は“その後の受け止め方も含めた状態”として見ることができます。
たとえば、大きな声で呼ばれたとします。
A:スタッフが大きな声で呼びかけた
このとき、まず
「びくっ」とする
「怖い」
「驚く」
という情動が起こるかもしれません。
そのあと、Bとして
「怒られたのかもしれない」
「急かされている」
「自分は大切にされていない」
という受け止め方が入ると、
Cとして
怒り
不安
拒否
悲しさ
不信感
などが強まることがあります。
逆に、
「聞こえにくいから大きな声で言ってくれたのかな」
「心配して声をかけてくれたのかな」
と受け止められれば、結果は変わります。
つまり支援者は、表に出ているCだけでなく、Aで何があったのか、Bでどう受け止められたのかを想像しながら関わる必要があります。
介護現場での具体例
【ケース1 突然怒り出した利用者さん】
状況
スタッフが声をかけた直後、利用者さんが急に怒り出した。
このとき、表面だけ見ると
「気分屋」
「怒りっぽい」
で終わってしまいがちです。
でもABCで整理してみると、
A:急に大きな声で話しかけられた
B:「乱暴に扱われた」「急かされた」「自分の意思が無視された」
C:怒り、不信感、拒否的な態度
という流れかもしれません。
この場合、対応のポイントはまず情動を落ち着かせることです。
いきなり説明したり説得したりするよりも、
「びっくりしましたよね」
「急に声をかけてしまってすみません」
「大丈夫ですよ」
と安心感を優先した方がよいことがあります。
そのうえで、
「どう感じましたか?」
「嫌な感じがしましたか?」
と少しずつ受け止め方を確認していくと、誤解や不快感が和らぐことがあります。
【ケース2 寂しさを訴える利用者さん】
状況
利用者さんが「最近ずっと寂しい」と話している。
この場合も、ただ励ますだけでは届かないことがあります。
ABCで見ると、
A:家族と会う機会が減った
A:話し相手が少ない
B:「私は忘れられている」「もう必要とされていない」
C:寂しさ、悲しさ、無気力
という流れが考えられます。
このとき大切なのは、すぐに「そんなことないですよ」と否定しないことです。
まずは、
「寂しさが続いているんですね」
「そう感じる時間が長いんですね」
と感情に寄り添う。
そのうえで、
・人との接点を増やす
・役割を感じられる機会を作る
・思い出や関係性を丁寧に聴く
など、AとBの両方に働きかけていくことが大切です。
ケアに活かすためのポイント
【1 まずは情動を落ち着かせる】
怒り、恐怖、混乱などが強いときは、理屈より安心感が先です。
その場の声の大きさ
距離感
表情
姿勢
話すスピード
こうした非言語的な関わりが、とても大きな意味を持ちます。
情動が高ぶっている相手には、正論より落ち着ける空気が必要です。
【2 感情は“間違い”ではなく、その人の現実として受け止める】
利用者さんが感じている怒りや寂しさは、たとえ事実認識にズレがあったとしても、その人にとっては本当に感じているものです。
だからまずは、
正すことより、受け止めること。
説得することより、理解しようとすること。これが大切です。
【3 Bを想像する】
支援の質を上げる鍵は、
「この人は何をどう受け止めたのだろう」
を考えることです。
同じ出来事でも、
・傷ついたと受け取る人
・恥をかかされたと感じる人
・見捨てられたと感じる人
・自分の存在が軽く扱われたと感じる人
それぞれ違います。
ここを丁寧に見ることで、表面的な対応から一歩深い支援につながります。
【4 ケアプランや支援方針にも活かせる】
ABC理論は、単なる会話術ではありません。
利用者さんがどんな出来事で不安定になりやすいのか。
どういう受け止め方をしやすいのか。
どんな関わりだと落ち着きやすいのか。
こうした視点は、ケアプランや支援方針を考えるうえでも役立ちます。
まとめ
介護の現場で見えている怒り、不安、寂しさ、拒否。
それらは単なる“困った言動”ではなく、その人の心の動きの表れです。
情動は、その場で起きる瞬間的な反応。
感情は、その反応に意味づけが重なって続いていく心の状態。
そしてABC理論を使うことで、
・何がきっかけだったのか
・どう受け止められたのか
・その結果、どんな感情や行動につながったのか
を整理しやすくなります。
利用者さんの言動を、ただ抑える対象として見るのではなく、
理解する対象として見ること。
そこから、支援の深さは変わってきます。
情動には安心感を。
感情には寄り添いを。
そしてその背景には、受け止め方への理解を。
それが、ABC理論をケアに活かすということやと思います。
あとがき
利用者さんの言動に振り回されるときほど、私たちはつい表面の反応だけを見てしまいます。
でも、本当に大事なのは、その奥に何があるのかを見ることなんやと思います。
・怒りの奥にある不安。
・寂しさの奥にある喪失感。
・拒否の奥にある怖さや混乱。
そうしたものに目を向けるために、ABC理論はとても役立つ視点です。
まず基本から読みたい方へ
実際の場面での使い方を知りたい方へ
