【第一弾】ABC理論:介護のストレスはなぜこんなに苦しい?ABC理論でわかる感情のしくみ
介護をしていると、出来事そのものよりも、「その出来事をどう受け止めたか」で心が大きく揺れることがあります。
たとえば、
「食事を拒否された」
「家族に責められた」
「利用者さんに怒られた」
「頑張っているのに報われない」
こうした場面は、介護の現場では珍しくありません。
しかも厄介なのは、同じような出来事でも、ある日はそこまで気にならないのに、別の日にはひどく落ち込んだり、イライラしたり、自分を責めてしまったりすることです。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
そこで役立つのが、心理学のABC理論です。
ABC理論は、認知行動療法の考え方の土台にもなっている、とても有名な心理学の理論です。
難しそうに見えるかもしれませんが、実はとてもシンプルです。
そしてこの考え方は、家族介護をしている方だけでなく、ケアマネジャー、介護職、訪問系サービス職など、「人を支える仕事」をしている人ほど役に立つ考え方でもあります。
今回はこのABC理論の基本を、介護の場面に引きつけながら、できるだけわかりやすく整理していきます。
介護のしんどさを語るとき、私たちはつい「出来事」に目を向けがちです。
たとえば、
・食事を食べてくれない
・入浴を拒否される
・同じ話を何度も繰り返される
・家族が協力してくれない
・職場で気をつかいすぎる
もちろん、こうした出来事自体が大変なのは事実です。
でも実際には、私たちの心を強く消耗させているのは、出来事そのものだけではありません。
その出来事に対して、
「私の対応が悪かったのではないか」
「ちゃんとやらなければいけない」
「こんなことで疲れてはいけない」
「相手に理解してもらえない私はダメだ」
このような頭の中の受け止め方が、苦しさを何倍にもしてしまうことがあります。
つまり、介護のストレスを理解するには、
「何が起きたか」だけでなく、
「自分がそれをどう解釈したか」
を見ることが大切なのです。
1.ABC理論とは何か
ABC理論は、心理学者アルバート・エリスが提唱した考え方です。
ポイントはとてもシンプルです。
私たちの感情や行動は、出来事そのものによって決まるのではなく、その出来事をどう受け止めたかによって大きく変わる。
これを3つに分けて考えます。
A(Activating Event)
出来事、きっかけ、状況
B(Belief)
その出来事に対する受け止め方、考え方、思い込み、信念
C(Consequence)
その結果として起こる感情や行動
たとえば、同じ「相手にきつい言い方をされた」という出来事があっても、
「私が悪いからだ」と受け止める人もいれば、
「相手も余裕がないのだろう」と受け止める人もいます。
すると、その後の感情や行動はまったく違ってきます。
つまりABC理論は、Aが起きたら自動的にCになるのではなく、AとCの間にはBがある
ということを教えてくれる理論です。
この「間にあるB」に気づけるようになると、心の負担はかなり変わってきます。
2.介護の場面で考えるABC理論
では、介護の場面で考えてみましょう。
たとえば、こんなケースがあります。
A:お母さんが食事を拒否した
このとき、頭の中でこんなBが生まれることがあります。
B:「私の声かけが悪いからだ」
B:「ちゃんと食べさせられない私はダメだ」
B:「介護している以上、食べてもらわなければならない」
こうした受け止め方が強いと、結果としてこんなCにつながります。
C:強い不安
C:イライラ
C:自己嫌悪
C:無力感
C:必要以上の焦り
一方で、Bが少し変わるとどうでしょうか。
B:「今日は体調や気分の問題かもしれない」
B:「食べない日があっても、それだけで私の価値が決まるわけではない」
B:「今は無理に食べさせるより、様子を見る方がよいこともある」
するとCも変わってきます。
C:少し落ち着いて考えられる
C:別のタイミングを試してみようと思える
C:必要以上に自分を責めずに済む
ここで大事なのは、無理にポジティブになることではありません。
「大丈夫大丈夫」と無理やり思い込むことがABC理論ではありません。
そうではなく、
今の自分の受け止め方は、本当にそれしかないのか?
と立ち止まって考えることが大切なのです。
3.なぜ「B」がそんなに大事なのか
介護の現場には、自分の力ではどうにもならないことがたくさんあります。
認知症による言動
本人の気分の波
身体状況の変化
家族との意見のズレ
制度や環境の制限
これらをすべて思い通りにすることはできません。
つまり、Aを完全にコントロールするのは難しいのです。
でもB、つまり受け止め方や考え方のクセは、少しずつ見直すことができます。
たとえば、
「ちゃんとやらなければいけない」
を
「できる範囲で整えていけばいい」
「相手に不機嫌にされたのは私のせいだ」
を
「相手の体調や不安が影響している可能性もある」
「私は支援者なのだから、冷静でいなければならない」
を
「支援者も人間だから、感情が動くのは自然なこと」
こんなふうに、少しずつ柔らかい受け止め方を増やしていくと、心の疲弊はかなり違ってきます。
介護のしんどさをゼロにはできなくても、
必要以上に自分を傷つけないことはできるのです。
4.介護の現場で使えるABC理論3ステップ
ABC理論は知識として知るだけでも役立ちますが、実際に使ってみるとさらに効果があります。
ここではシンプルな3ステップで紹介します。
ステップ1 Aをそのまま書く
まずは、何が起きたのかを事実として書きます。
例
「父がリハビリを拒否した」
「家族に『ちゃんと見てくれてるんですか』と言われた」
「利用者さんに怒鳴られた」
このとき大事なのは、解釈ではなく、まず事実をそのまま見ることです。
ステップ2 Bを見つける
次に、その出来事に対して自分がどう考えたかを見ます。
例
「私の関わりが悪かったのでは」
「支援者として失格かもしれない」
「うまく対応できない自分はダメだ」
ここは意外と無意識になりやすい部分です。
でも、感情が大きく揺れたときほど、Bにはその人らしい思考のクセが出ます。
ステップ3 別のBを探してみる
最後に、もう少し現実的で柔らかい見方がないかを考えます。
例
「今日は本人の気分や体調の影響が大きいのかもしれない」
「うまくいかない日があるのは自然なこと」
「一度で完璧に対応できなくてもいい。次に活かせばいい」
この「別の見方」を探す作業が、ABC理論の核心です。
5.今日からできる簡単セルフケア
ABC理論は、毎日大げさにやる必要はありません。
むしろ、ちょっとした場面で使う方が続きます。
おすすめは次の3つです。
1日1回、気になった出来事をメモする
ほんの一言でも十分です。
「今日いちばんしんどかったこと」を書くだけでも、自分の思考パターンが見えやすくなります。
“こうあるべき”を見つける
苦しくなるとき、頭の中には
「ちゃんとしなきゃ」
「嫌な顔をしてはいけない」
「支援者ならこうあるべき」
という言葉が隠れていることがあります。
それに気づいたら、
「本当にそうでなければいけないのか?」
と一度問い直してみます。
少しラクになった受け止め方を残しておく
「こう考えたら少し落ち着けた」
「この見方は自分に合っていた」
そんな発見があれば、メモしておくと次に活かせます。
心の整え方は、一回で完成するものではなく、
自分に合う形を少しずつ見つけていくものです。
6.ABC理論を知ると、何が変わるのか
ABC理論を知ると、出来事をすぐに「自分のせい」と結びつけにくくなります。
これは介護の場面ではとても大きなことです。
介護や支援の仕事をしている人は、責任感が強く、真面目で、相手のために頑張れる人が多いです。
だからこそ、うまくいかないことがあると、自分を責めやすいのです。
でも、すべての出来事を自分一人の責任として抱える必要はありません。
ABC理論は、
「何が起きたか」
「自分はどう受け止めたか」
を分けて考える手助けをしてくれます。
その結果、
・感情に飲み込まれにくくなる
・少し冷静に状況を見られる
・自分を責めすぎなくなる
・支援を続けるための余白が生まれる
こうした変化が起こりやすくなります。
介護をラクにする魔法ではありません。
でも、心の消耗を減らすための土台にはなってくれます。
まとめ
介護のストレスは、出来事そのものだけで決まるわけではありません。
その間には、自分の受け止め方や考え方があります。
ABC理論は、その見えにくい部分を整理するためのシンプルで強力な考え方です。
Aは変えられなくても、Bは見直せる。
Bが少し変わると、Cも少し変わる。
この積み重ねが、介護のしんどさを和らげ、自分の心を守ることにつながっていきます。
まずは今日、しんどかった出来事をひとつだけ思い出してみてください。
そしてそのとき、自分が頭の中で何を考えていたかを見てみてください。
そこに、心を少しラクにするヒントが隠れているかもしれません。
あとがき
ABC理論は、知れば知るほど、介護や支援の現場に相性がいい考え方やなと感じます。
なぜなら、現場には自分の思い通りにならないことが本当に多いからです。
だからこそ、出来事をどう受け止めるかを整えることは、単なる精神論ではなく、支援を続けるための実務やと思います。
このシリーズでは、今後さらに、
「感情との向き合い方」
「実際のワーク」
「家族対応や相談援助への活かし方」
にも広げていく予定です。
気になる方は、次回以降もぜひ読んでみてください。
もっと深くABC理論を知りたい方へ
ここまで読んで、「ABC理論って結局どういうことなんやろう?」と感じた方へ。
無料シリーズでは、テーマごとにABC理論をわかりやすく整理していますが、有料記事ではその全体像と核心を、ひとつの流れとしてまとめています。
なぜ人は出来事そのものではなく、“自分が意味づけた世界”に苦しむのか。
なぜ真面目な人ほど、自分を追い詰めやすいのか。
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