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直径10cmの箱庭作り|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第伍話

多肉植物を育てるとは、朝に葉を眺め、水をやり、日当たりを気にして「今日もかわいいね」などと語りかける、そういう穏やかな趣味だと思っていた。ところが我が家にやってきたのは暗黒竜である。名前からして穏やかではない。

私はずっと世界観のことばかり考え動いていたが、ついに引っ越しを決行することにした。とはいえ、いきなり本番に入るほどの勇気はない。多肉植物の寄せ植えなど、人生で一度もしたことがないのである。鉢底石もゼオライトも、言葉なら理科室に置いてありそうだし、土を落とすという作業も、植物にとってどこまで失礼にあたるのか分からない。

作業を始める前に、まずテーブルへ犬たちのトイレシートを敷いた。これが今回の建国における、もっとも現実的な判断だった。直径十センチの世界に竜たちの王国を作る。封印された魔王城にするか、滅びた古代文明にするか、悟空をどこへ立たせるか。頭の中では壮大な会議が開かれていたが、実際の作業台は犬用トイレシートである。魔王軍建国の第一歩としては、かなり吸水性に優れていた。


モロゾフのグラスから暗黒竜を取り出すと、思っていた以上に根がしっかりしていた。闇の炎を吐き、世界を焼き尽くしそうなのに、下では地道に根を張っている。人は見かけによらないと言うが、多肉植物も名前によらない。むしろ暗黒竜という名前を背負いながら、毎日ちゃんと土の中で生活していたのだと思うと申し訳ない気持ちになった。私は名前に浮かれてフィギュアだ鉢だと騒いでいたが、本人は黙々と地下労働をしていたのである。

最初は透明な容器で作るつもりだった。ネットで見かけたテラリウムはどれもおしゃれで、ガラス越しに小さな森が見える。あれなら暗黒竜の世界も美しく仕上がるかもしれないと考えた。だが、土を落とした根を見て、気持ちが変わった。透明容器はすべてを映す。美しい苔や白い砂ならまだしも、初心者が恐る恐るほぐした根の全貌まで見えてしまう。封印された魔王城の地下構造が丸見えになるのは、世界観としてどうなのか。暗黒竜も「そこまで見せる契約ではない」と言い出すかもしれない。私は透明容器をいったん諦め、セリアで買ったブリキ容器を手に取った。


ブリキ容器の底にゼオライトを敷き、その上に鉢底石を敷いた。正しいのかどうかは分からないが、本を読んだ私は強い。知識を得た初心者ほど、手順に忠実である。料理を始めたばかりの人が、レシピの「少々」に異様な恐怖を感じるのと同じで、私はゼオライトの量にも鉢底石の高さにもいちいち緊張していた。入れすぎたら水はけ帝国になり、少なすぎたら湿地帯になる。直径十センチの世界にも、治水問題は存在した。

土を一度入れて、配置を確認する。暗黒竜はどこに置くべきか。中央に置けば王としての風格が出るが、存在感が強すぎる。桜竜は名前だけなら儚いが、実際には一本一本がバラバラになっていて、ポットから出した瞬間に私は「え、そういうタイプなん?」と声が出そうになった。桜竜というより、桜竜一族である。


無刺王冠竜は、名前の情報量が多いだけあり、置くと幹部感がある。三者の配置を考えていると、植物の寄せ植えというより、戦国武将の座席表を決めている気分になってきた。誰を上座にするかで、国が傾きそうである。

作業中、土は思った以上に散らばった。トイレシートを敷いておいて本当によかった。土は、袋の中ではおとなしい顔をしているのに、外へ出た途端に自由を求める。指につき、テーブルに落ち、床へ逃げる。しかも掃除機で吸おうとしても、なかなか吸われない。吸われたと思ったらヘッドの前で転がり、追いかけると別の場所へ逃げる。私は暗黒竜の王国を作っていたはずなのに、いつの間にか床に散った土と小競り合いを始めていた。魔王軍より先に反乱を起こしたのは土だった。

なんとか植え終えてみると、思ったより悪くなかった。むしろブリキ容器が合っている。新品なのでまだキラキラしているが、時間が経てばくすんでくるだろう。錆びたり、傷がついたり、少しずつ古びていけば、暗黒竜の住まいとしての説得力も増す。自分の家なら経年劣化は困るが、魔王城の場合は新築ピカピカより荒れているくらいがちょうどいい。テラリウムにしようとしていた気持ちは、この時点でかなり消えていた。ガラスの城もいいが、うちの暗黒竜にはブリキのほうが似合う。タワマンを見に行ったあと、団地に安心するようなものである。


そこへ悟空を置いてみた。秋葉原で散々悩んだ末に買った、ヤードラット星で瞬間移動を学んだ悟空である。石像のようなくすんだ色合いなので、意外と世界観を壊さない。むしろ竜たちの重さを中和しているようにも見える。ただ、なぜ暗黒竜の王国に悟空がいるのかは、いまだに説明できない。瞬間移動で迷い込んだとしか言いようがない。


さらに実は、ガンダムとザクのミニフィギュアも買っていた。せっかくなので置いてみたら一年戦争が始まった。暗黒竜の横でザクが武器を構え、奥にガンダムが立つ。かっこいいけど、何の話なのか分からない。多肉植物の寄せ植えに、宇宙世紀を混ぜるのは早かったかもしれん。


完成した箱庭を眺めて、ある重大な問題に気づいた。

……驚くほど緑々しい。

ネットで見た寄せ植えは、赤や黄色や白っぽい葉が混ざり、まるで宝石箱のようだった。最初に影響を受けたカハリーさんの寄せ植えも、色と形の組み合わせがきれいで、見ているだけで楽しくなる。


ところが私の箱庭はどうだ。竜という名前に縛られた結果、全体的に緑である。可愛さより作戦会議感が強い。窓辺に置く小さな癒やしというより、出撃前の軍事演習場である。

だが、それも悪くない気がした。そもそも私は、可愛い多肉植物を作ろうとしていたのではない。暗黒竜に合う世界を作ろうとしていた。可愛さが足りないなら、足せばいい。色が足りないなら、探せばいい。まだ容器には空きスペースがあるということは、この王国は未完成である。

未完成という言葉は便利だ。失敗を成長途中に見せてくれる。散らばった土も、迷い込んだ悟空も、竜縛りで緑になった寄せ植えも、すべて「これからの物語」と言えば立派に見える。

直径十センチの箱庭は、こうして完成したようで完成していないまま、パソコンの横に置かれた。犬のトイレシート上で始まった魔王軍の建国は、掃除機と土の戦いを経て、ブリキ容器の中に小さく収まった。暗黒竜、桜竜、無刺王冠竜、そして悟空。世界観はまだ説明できない。だが、ひとつ分かったことがある。多肉植物とは、根を張る植物である前に、持ち主の妄想にも根を張る植物だ。

気づけば私は、またホームセンターで「竜」の文字を探すことを考えている。直径十センチの世界は狭いけれど、人の頭の中で広がるには、十分すぎる広さだった。

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