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竜の色を探して|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第六話

竜の色を探してる。いよいよ封印を解く旅に出たように聞こえるが、実際に向かっているのはコーナンの園芸コーナーである。手にしているのは伝説の剣ではなく買い物カゴであり、足元ではスライムどころか園芸用土の袋が現実的な重さで積まれていた。それでも私は、棚に並ぶ小さな鉢を前にすると、どうにも冒険者の顔になってしまう。

そもそも多肉植物の魅力に取り憑かれたきっかけは「厨二病的な名前」である。最初に出会ったのが『暗黒竜』だった。植物に暗黒と竜を背負わせるとは、なかなかの命名である。葉っぱが陽の光を浴びて静かに育つ存在に、いきなり魔王軍の幹部みたいな肩書きがぶら下がっている。四十年以上生きてきて、まさかコーナンで暗黒竜をスカウトする日が来るとは思っていなかった。


そこから桜竜を迎え、無刺王冠竜も仲間にした。名前を並べれば、なかなか壮大な軍勢である。王冠まで出てきたのだから、もう国家である。私は鉢の前に立ち、玉座や城壁や戦場の霧まで用意していた。ところが完成した寄せ植えを眺めてたとき、私の王国に冷たい現実が降ってきた。

……緑々しい。どこを見ても緑である。


暗黒竜も緑、桜竜も緑、無刺王冠竜も緑。名前だけなら世界の終末が始まりそうなのに、見た目は放課後の校庭くらい平和だった。

ネットで見る寄せ植えは違う。赤や黄色や紫が混ざり、宝石箱のように華やかで「暮らしを丁寧にしています」という映えが攻めてくる。対して我が家の鉢はどう見ても軍事演習場だった。緑の兵士たちが整列し、号令を待っている。


「これはあかん。色が必要や。王国には旗や。いや、姫か?祭りも必要やろ」

私は再びコーナンへ向かった。目的は我が王国を彩る新たな竜である。多肉植物売り場へ行くと、相変わらず名札は強いが、肝心の「竜」が見つからない。園芸コーナーには何十種類も並んでいるのに竜が絶滅していた。

仕方なく竜以外も視野に入れようと棚を一段ずつ見て回ってたとき、目に飛び込んできたのが『赤鬼城』だった。


強い。名前で城壁が見える。しかも赤い。これはもう我が暗黒竜王国の国防大臣ではないか。暗黒竜が王なら、赤鬼城は要塞である。桜竜は外遊担当だろう。色探しという目的なら百点である。

問題は竜ではないことだ。

棚の前でしばらく考えた。竜と鬼は仲が良さそうである。ファンタジー世界なら同盟くらい組んでいてもおかしくない。私は早くも妥協を始めていた。

その隣には「ブルーバード」がいた。


えらく爽やかになった。暗黒竜の横に青い鳥。闇の王国へ幸せを運んできた使者なのか、それとも実は敵国のスパイなのか。だけど、竜も空を飛ぶし、鳥も空を飛ぶってことは親戚と言えなくもない。判断基準はかなり危険な場所まで来ていた。

さらに進むと「カメレオン」がいた。


竜もたぶん爬虫類である。もはや遠縁どころか本家筋かもしれない。園芸コーナーで戸籍の確認をし始めたあたりで、自分の趣味が変な方向へ発芽していることに気づいた。

そして「沙羅姫蓮華」を見つけた。


名前が美しい。ここで物語に恋愛要素が入った。暗黒竜が命を懸けて守る姫であり、赤鬼城が城門を閉ざし、ブルーバードが密書を運ぶのだろう。棚の前で勝手に第一章を始めていたが、沙羅姫蓮華は可愛らしすぎた。我が家の緑だらけの魔王軍に置くと、無刺王冠竜が横から絡み始め恋愛バトルが始まってしまう。

そんな中で出会ったのが「朧月」だった。


淡い紫を帯びた葉が、静かに光っていた。派手ではないが、ただ者ではない感じがある。『朧月』という名前もいい。夜の庭に薄くかかる霧のようで、暗黒竜の隣に置いても世界観を壊さない。しかも「朧」に竜が入ってる。そこまで来たらもう十分である。血筋は確認できた。色もあるし、物語にも入れる。買い物カゴの中で、淡い紫の葉が少し偉そうに見えてきた。

家に帰り、寄せ植えの横へ置いてみると、たしかに王国に変化が生まれた。緑一色だった軍事演習場に、夜明け前の空のような色が差した。暗黒竜も、桜竜も、無刺王冠竜も、背景を得たように見える。

これで色の問題は解決した。だが人の欲とは、鉢底の穴から水が抜けるように静かに漏れ出すものらしい。紫が入ると、今度は赤が欲しくなる。赤が入れば黄色も欲しくなる。黄色が入れば、次は白い何かを探し始める。

暗黒竜を買ったとき、三鉢あれば十分だと思っていた。ところが今では、王国の領土拡大について真剣に考えている。パソコンデスクの一角が、いつの間にか小さなファンタジー大陸になっていた。私は近いうちに、またコーナンへ行く。そして、また名前を探しに行く。

竜とは根を張る植物である前に、人の空想に根を張る生き物だった。そしてその根は、思ったより深く、抜こうとするほど楽しかった。

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↩️ シリーズ壱話:多肉植物の名前が厨二病すぎる!🌵

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