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王国に行政指導が入った日|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第七話

世の中には、知らないほうが幸せなことがある。私は最近、それを多肉植物から学んだ。何も知らなければ、人は鉢の前で神になれる。ここに暗黒竜を置き、そこに桜竜を配し、無刺王冠竜で王権の正統性を示し、朧月で朝焼けの情緒を足す。ついでに悟空も立たせたことで、王国は一気にそれらしくなった。私はそういう浅はかな理由で、ひとつの鉢の中に王国を建国した。


完成した寄せ植えを眺めた私は、完全に建国記念日の王であった。ブリキの鉢は魔王城に見え、緑一色だった世界に、朧月の淡い色が加わったことで景色に奥行きが生まれていた。荒野だった国土に朝焼けが差し込んだような気配すらある。

私は鉢の前で腕を組み、少し偉そうな表情で「なかなかよい国になったではないか」と心の中で頷いた。

そして、私は水を与えた。

「たっぷりと、惜しみなく」

王として当然の施策である。愛情とは多いほうがいい。ご飯も大盛りのほうがうれしい。ならば水も多いほうが喜ぶはずである。水をあげる姿こそ園芸の象徴であり、植物なのだから喜ぶに決まっている。そう信じて、私は暗黒竜王国に恵みの雨を降らせた。気分は慈悲深き王である。


ところが、二日後に行政指導が入った。かほさんの記事を読むと「植物を枯らしてしまう人の多くは水のあげ過ぎが原因」らしい。


私はジョウロを持ったまま固まった。

「水が多い」

そんな概念があるのか。砂漠で遭難した人に「ちょっと飲み過ぎですよ」と注意する者はいないだろう。しかし植物の世界では、水は祝福であると同時に災害でもあるらしい。あげ過ぎると腐る。暗黒竜は泳げない。名前を聞けばマグマの中でも暮らせそうなのに、実際は排水にうるさい繊細な住民だった。

さらに、とまじぃさんからも追い打ちが来た。


「その鉢、底に穴空いてます?」

私は王国を持ち上げ、恐る恐る鉢を裏返した。

「なかった……見事なまでになかった」

排水設備ゼロ。私は、魔王城のつもりで湿地帯を作っていた。王国建設から数日、まだ住民説明会も終わっていない段階で、治水計画の不備が発覚した。しかも王である私は「ブリキは魔王城っぽい、ガラスは封印の祭壇っぽい、テラリウムは異世界っぽい」などと外観ばかり気にしていた。排水性という言葉は、一度も会議に出席していない。

家を借りる時には日当たりや水回りを気にするのに、暗黒竜の住まいとなると「雰囲気がある」で押し切ろうとしていた。完全に世界観担当の暴走である。住民の健康より、王国の絵面を優先する王。歴史の教科書に載るなら、だいぶ悪政である。

そんな折、ろくねこさんから新たな情報が舞い込んだ。


「ドラゴンズブラッドっていう多肉がありますよ」

名前が強すぎる。『ドラゴンズブラッド』とは、もはや植物ではない。古代遺跡の最深部でラスボスを倒したあと、低確率でドロップする素材の名前である。

私は即座に探索隊を編成した。コーナンへ行き、カインズへ行き、棚の前で目を光らせたが、ドラゴンズブラッドは見つからない。代わりに私の前に現れたのは『竜神木』だった。


また緑である。私は王国に彩りを加える旅へ出たはずなのに、帰宅した時には新たな緑の住民を抱えていた。ダイエットを誓ってスーパーへ行き、なぜかポテチとチョコを買って帰る娘と同じである。

帰宅後、竜神木を植えた。すると、朧月の葉がポロッと落ちた。さらに、もう一枚落ちた。私は息を止めた。建国間もない王国で、治水問題、建築基準法違反、外交上の新住民受け入れ、そして原因不明の落葉事件が同時発生している。王は慌てた。国家としてはかなり厳しいスタートである。

なんだか人生みたいだ。フォロワーさんたちに助けられ、振り返れば、この王国で一番育っているのは暗黒竜でも朧月でもなく、私自身である。

水は与え過ぎるな。
見た目で家を選ぶな。
排水を考えろ。
葉が落ちても慌てるな。

全部、多肉植物の話なのに耳が痛い。そう考えると、王国に入った行政指導は、鉢の中の問題ではなかったのだろう。

排水問題が解決されてないブリキ鉢は、今日も太陽の下、乾燥中である。だが、行政指導を受けた翌日には、すでに新たな開発計画を立てていた。どうやらこの王国で一番水はけが悪いのは、鉢ではなく私の頭らしい。

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▶️ 前話はこちら:竜の色を探して🐉
↩️ シリーズ壱話:多肉植物の名前が厨二病すぎる!🌵

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