気になったら止まらない🦐|「どうぞごらぁぁぁぁんくださぁぁぁぃ」
「細かいことは気にしないタイプです」
そう言いいながら、おかしなところで引っかかる。普段は洗濯物のシワも気にしないし、カレーとハヤシライスを間違えられても「まぁ、ええか」で済ませる。
しかし、一度“気になるスイッチ”が入ると終わりだ。頭の中に小さな違和感が住みつき、そいつが延々と自己主張を始める。
先日、妻とららぽーとTOKYO-BAYへ行った時もそうだった。私は買い物に付き合う係である。正しくは「アッシー」だ。

妻が試着室へ消えていくのを見届け、近くの椅子や壁際で魂を抜いたような顔をして待機する。それがショッピングモールにおける夫の正しい生態だ。
その日、とある洋服屋に入った瞬間、店員さんの元気な声が聞こえてきた。
「どうぞご覧くださーい」
そう言ってるはずだろう。ところが「ごらぁぁぁぁん」だけが異様に強調されて届いたのである。
最初は気のせいかと耳を疑った。疲れていると変な聞き間違いをする。だが、三十秒後。
「ごらぁぁぁぁん」
また来た。
しかも、それ以外の部分がえらく小さい。「どうぞ」と「くださーい」は完全に添え物である。メインは“ごらぁぁぁぁん”。もはや商品の案内ではなく、山奥から妖怪が呼びかけている声に近い。
こうなると駄目だ。
笑ったらあかん。
気にしたらあかん。
そう思えば思うほど、耳が勝手に拾いにいく。
「ごらぁぁぁぁん」
「ごらぁぁぁぁん」
「ごらぁぁぁぁん」
店内BGMより存在感がある。
試着室前で、笑いを堪える不審者になっていた。肩が震えそうになるたび、スマホを見るフリをする。しかし、無理だ。もうおかしくておかしくて堪らない。
耐えきれず、試着室から出てきた妻へ小声で共有した。
「なぁ……あの店員さん、“ごらぁぁぁぁん”しか聞こえんくない?🤭」
妻は「は?」という顔をしたあと、ちょうどタイミングよく店員さんの声が飛んだ。
「ごらぁぁぁぁん」
──妻、即アウト。
そこから先は地獄だった。二人とも顔を見たら負けである。笑いを堪えながら店を出たが、一度伝染した違和感は強い。帰り道でも、ふと思い出しては笑ってしまった。
違和感は、一度“発見”してしまうと、そこが勝手に拡大表示される。そして厄介なのは、その違和感が他人にも簡単に感染することだ。
あの店員さんは、今日も元気よく叫んでいるのだろう。
「どうぞ“ごらぁぁぁぁん”くださぁぁぁぃ」🤣

🔗 前章はこちら:第29章|我が家のクリスマス🎄
🌀 シリーズ序章はこちら:ADHD?いや、ただのナマケモノかもしれん🦥
