TNK48の初ステージ|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第九話
世の中には、誰にも知られず結成され、誰にも惜しまれず解散していくアイドルグループがある。地下アイドルどころではない。もはや土の中である。光を浴びるまで存在に気づかれず、気づいた頃には鉢のすみで静かに増えていたりする。
『TNK48』も、そういう運命を背負ったグループだった。
その日、私は多肉植物の棚の前で腕を組み、プロデューサーの顔になった。「白雪姫」「桃美人」「星乙女」「ふっくら娘」「ブロンズ姫」「月花美人」「ダルマ福娘」。選抜メンバーは七人に決まった。目の前の多肉たちは明らかに「選んでください」と言っている。まだ土に植わっているだけなのに、すでに宣材写真を撮り終えた顔をしていた。

問題はステージだった。アイドルには舞台が必要である。武道館、東京ドーム、さいたまスーパーアリーナ。世の中にはいろいろと晴れ舞台があるが、我が家のTNK48に用意された初ステージは、水屋に転がっていたマッコリカップだった。
なぜマッコリカップなのかと問われれば、そこにあったからである。強いて言えば「K-POP」が流行ってるということにでもしておこう。水屋と多肉の寄せ植えは、意外と近い場所にある。

私は机の上に犬のトイレシートを敷いた。神聖なデビュー前の楽屋である。見方を変えれば、アイドルたちを守る白いレッドカーペットでもある。
センターは白雪姫にするつもりだった。名前の知名度、物語性、毒リンゴ経験。芸能界で売れる要素としては申し分ない。苦労話もある。復活劇もある。七人の小人というバックダンサーまでいる。ところが実際に置いてみると、白雪姫は一人大きかった。あまりにも堂々としている。センターに立たせると、グループではなく、白雪姫と愉快な植木鉢たちである。

芸能界は残酷だ。実力では前に出られない。背丈、バランス、鉢の直径、そしてプロデューサーの気まぐれで立ち位置は変わる。私は白雪姫をそっと後方へ下げた。かつて主役だった姫が後列へ回る。普通なら不満のひとつも出そうな場面だが、さすが白雪姫である。毒リンゴで一度眠った女は、配置換えくらいでは動じない。
前列には、ふっくら娘と桃美人を置いた。アイドルは実力ばかりではない。名前を呼ばれた瞬間に「なんか可愛い」と思わせた者が勝つ世界である。ブロンズ姫は年長メンバーらしい貫禄で全体を締め、月花美人は夜公演だけ異様に人気が出そうな顔をし、ダルマ福娘は縁起物としてステージの治安を守った。ぎゅうぎゅうに詰めると、全員が仲良しに見える。満員電車は見ているだけでも疲れるのに、多肉植物の密集はなぜこんなに可愛いのか。

そんなことを考えている時、事件は起きた。星乙女の先端が、ぽきりと折れたのである。デビュー直前の負傷だった。私は「あっ」と声を出した。たった二文字に、後悔と焦りと園芸初心者の浅はかさが詰まっていた。
星乙女は何も言わない。謝罪動画も出さないし、活動休止のお知らせも出さない。ただ、折れた先端を抱えたまま、黙って光合成を続けていた。本来なら「関係者各位」と書かれたFAXが流れるところである。星乙女は、芸能界で一番メンタルが強い。
こうして、「植えにいけるアイドル」TNK48の初ステージは完成した。マッコリカップの中で、神7がぎゅうぎゅうに並んでいる。センターを追われた白雪姫は後方で貫禄を見せ、星乙女は負傷をものともせずステージに立ち、ふっくら娘と桃美人は前列で愛想を振りまいている。私は初日公演を見届けたプロデューサーの顔になっていた。
ベランダへ運ぶと、朝日がマッコリカップに差し込んだ。神7の葉に光が当たり、土の粒まで輝いて見える。デビュー曲のイントロが聞こえた気がした。

ただし、ひとつ大きな問題がある。このマッコリカップには、底穴がない。アイドル共和国としては致命的である。雨が降れば水がたまり、水をやりすぎれば根が蒸れる。華やかなステージの裏側で、インフラが死んでいた。暗黒竜王国でも行政指導を受けていたが、デビュー日が同じであったため仕方ない。プロデューサーとは、だいたい都合の悪い時系列は見なかったことにする。

それでも私は、朝日を浴びるTNK48を眺めながら「まぁ、大丈夫だろう」と思った。これくらいの欠陥なら、神7の団結力でなんとかなるはずだ。
なにより、昔から決まっているではないか。
「アイドルはトイレに行かない!」
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