銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第七話 彼氏とわたしと非日常(3)
銀河フェニックス物語 総目次
第七話 彼氏とわたしと非日常 (1) (2)
<恋愛編マガジン>
「そうだよな、俺もクロノスに乗ろうと思ったんだぜ」
「じゃあ、S1復帰しようよ」
期待が一気に高まる。
「けど、残念なことに交渉が決裂したからしょうがねぇんだ」
レイターはニヤリと笑った。
「あれは、茶番でしょ」
前回のレースの後、レイターとクロノスの間で移籍話が持ち上がり、この人はうちの会社に五千億リルの契約金をふっかけたのだ。最大手の弊社が払えなければ誰も払えない。S1には乗らないという明白なメッセージだった。あの交渉の裏でレイターはかなり儲けたらしいけれど、大人の事情過ぎてよくわからない。
「S1界にとって、宝の持ち腐れよ」
「うれしいことを言ってくれるねぇ、じゃ、飛ばしに行こうぜ」

頭をポンポンと軽くなでられた。
「はぁ、しょうがないわね。つきあってあげる」
エースロスを彼氏で埋めたがっている自分に、不純な感じがしないでもない。けど、レイターにS1に乗ってもらいたい理由はそれだけじゃない。
*
風に乗ってまっすぐに飛び続ける紙飛行機。普段のレイターの操縦にはそんなイメージがある。スピードメーターを見れば相当な速度だとわかるのだけれど、滑らかな飛行からはGを感じることがない。小惑星帯に到着した。
アステロイドは飛ばし屋のバトル会場に使われている.。レイターは奥へと船を進めた。小惑星の間隔が狭まり入り組んでいる。ほかの船が立ち入らないような難所だ。
「行くぜ」
紙飛行機は突如ジェットコースターへと変化する。次々と迫る小惑星を上下左右、三次元のすべてを使ってよけていく。重力に振り回され、恐怖に全身が興奮する。ひりつく感覚が、幸福感と直結する。操縦席のレイターをちらりと見る。心臓の音が耳の奥に聞こえる。気づくと小惑星帯を抜けていた。
「ああ、怖かった」
肩に入っていた力が一気に抜ける。爽快だ。わたしは三半規管が強いらしい。
同じルートでタイムアタックを繰り返す。
全然ダメな日もある。
「くっそぉ、折角エンジンいじったのに伸びやしねぇ、もっと出力攻めなきゃだめかよ」
フェニックス号に戻ってセッティングをし直す。操縦している時の横顔と同じくらい工具をいじるレイターを見るのも好きだ。ひたすらに追い求めるその姿は努力や訓練というより修行という言葉がしっくりくる。
これ以上速いタイムは無理じゃないかと思うのに、少しずつラップは更新されていた。けれど、レイターはため息をついた。
「難しいな」
わたしは知っている。彼が求めているのが単なるスピードではないことを。
「もう一度、白魔と対戦してみたら『あの感覚』をつかめるんじゃないの?」

「う〜ん」
腕組みをして唸った。即断即決が信条のような彼には珍しいことだ。
『あの感覚』
アステロイドで飛ばし屋の白魔と対戦した時、それは突然訪れた。
助手席に座っていたわたしも感じた。白く輝く世界と全知全能感。時が止まったような境地。
「最新鋭のうちのS1機なら、思わぬ経験ができるかもよ」
レイターが『あの感覚』を得て、クロノスが優勝すれば一石二鳥だ。
「そう簡単な話じゃねぇんだよ。スチュワートに頼んで、白魔と何度か本チャンのコースで対戦してんだけど、『あの感覚』に入らなくても、簡単に俺が勝っちまうんだ」
「そんなことしてたんだ」
「ま、S1じゃ、エースと対戦してもダメだったからな」
レイターはエースとS1史上に残る接戦を繰り広げた。それでも『あの感覚』にはたどり着けなかった。

レイターをS1に乗せたい、というわたしの希望は簡単にはかなわない。
「『あの感覚』ってこれまでに何回感じたの?」
「ティリーさんが乗ってた時いれて、三回だな」
「いつも助手席に人を乗せてるの?」
「うんにゃ、一回目は戦闘機だった。ハゲタカ大尉とやりあった時だ」
その名前に身体が反応した。ハゲタカ大尉の息子がレイターに復讐しようとした現場にわたしは居合わせたのだ。
「二回目は……」
と言ってレイターは一瞬躊躇した。
「フローラが一緒だった」
軽く息を吸い込んだ。レイターは人を乗せて飛ばすことが好きなのだ。『あの感覚』を共有したのはわたしだけじゃない。わかっていたことなのに胸がざわつく。彼は亡くなった彼女のことを忘れていない、というか今も愛している。わたしはそれを許容している。とはいえ彼女の話題を続けたくはない。
「『あの感覚』に入った人って、レイターの他にはいないの?」
「いるぜ」
「え、誰? エース?」
「違う」
むっとした顔で否定された。
(4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」