銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十二話(4) キャスト交代でお食事を
・銀河フェニックス物語 総目次
・第三十二話 まとめ読み版 (1)(2)(3)
好きか嫌いか。
その二択で聞かれた瞬間、反射的に答えが浮かんだ。
好き。レイターのことが好き。
なのに、「好き」と言語化すると違和感が背中を走った。好きか嫌いかで、簡単に切り分けることはできないのだ。
「レイターは厄病神ですし、だらしないし、女ったらしで、お金にうるさくて、わたしを子ども扱いするし、嫌なところがたくさんあります」
嫌いな点が、すらすらと口をついて出てきた。
「好きなところは?」

フェルナンドさんの優しいのに詰め寄ってくる声。
細長いポテトをゆっくり食べて時間を稼ぐ。
レイターの好きなところ。
フェニックス号でS1レースを見るのが待ち遠しい。
宇宙船バトルへ行くのは心がはずむ。
一緒にいるのが楽しい。
ずっとこのまま、バカなことを言い合っていたい。
微妙かつ絶妙な距離感。
立てこもり事件に巻き込まれたわたしを、助けに来てくれた時のレイターの腕の感触が蘇る。あれは、どこへ分類すればいいのだろう。

わたしは薄い味のコーヒーを一口すすり、気持ちを整理する。
言葉を選んで事実を伝える。
「料理も上手ですし、船に詳しくて、レイターの操縦の腕前は、尊敬しています」
レイターとの関係。そんな表層的なものじゃない。けれど、ここから奥へは簡単には進めない。
フェルナンドさんはレイターと同じ仕事をしている。
わたしは、思い切ってたずねた。
「フェルナンドさんは、銃で人を撃ったことありますか?」
質問してから後悔した。
食事中に聞く話じゃなかった。
フェルナンドさんは嫌な顔もせず、真摯に答えてくれた。
「実際に人を撃ったことはありません。でも、そういう事態になった時のための訓練は常にしていますし、覚悟もあります。クライアントを守るのが仕事ですから」
わたしは、ベルにもチャムールにも話していないことを、口にしていた。

「レイターは、わたしの前で人を撃ったことがあるんです。その人は亡くなって・・・」
あの日のことを、初めて言葉にした。
突然の轟音。落下する男性の身体。路上にできた血だまり。焦げ臭いにおいと煙。
五感のすべてに、くっきりと焼き付いている記憶。
わたしを守ってくれるレイターが、他の人を傷つけ命を奪う。
「頭ではわかっているんです。正当防衛は許されるということも、警護のお仕事の大変さも。わたしが今、生きているのだって、レイターのおかげだってことも。・・・でも、どこかで、心がついていかないんです」
* *
「心がついていかないんです」
そう言ってティリーさんは目を伏せた。
僕はどう声をかけるのが適切なのか考えた。
レイターさんの場合、事情がちょっと特殊だ。
僕と同じボディーガード協会のランク3Aであると同時に、連邦軍の特命諜報部という前線にいる。さらに暗殺協定の対象者。殺し屋だ。
先日、ティリーさんも一緒に出かけたザブリートさんの店でも、髪の毛を焦がすような銃撃戦をして、経済大臣の暗殺を未然に防いだばかりだ。

だが、そのことはティリーさんには話せない。
「もし、レイターがただの宇宙船乗りだったら・・・」
そこでティリーさんは言葉を切った。
その続きが聞こえた気がした。
レイターさんがただの宇宙船乗りだったら、つき合うのに躊躇はしないのに、と。
レイターさんに聞かせてあげたい言葉だ。
特命諜報部は匿名諜報部。ティリーさんはそれを無意識のうちに感じ取っている。
レイターさんもお辛いだろうな。
ティリーさんが顔を上げて僕を見た。
「フェルナンドさんは、好きな人いるんですか?」
突然、投げかけられた質問に動揺する。
「いえ、忙しすぎてそれどころじゃありません」
「そうですか」
嘘ではない。今、愛する人はいない。
警護対象者と恋に落ち、皇宮警備を追い出されてから三年。
彼女も今では結婚して、王妃となっている。 最終回へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」