銀河フェニックス物語<裏将軍編>最後の最後は逃げるが勝ち(12)
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なじみのフードコート。
遠巻きに顔見知りの姿がちらほら見える。
流行りのスイーツを食べながら、私はレイターに注文を出した。
「ねえ、もう少し、機嫌よくしてくれない? 愛想笑いでいいからさ」
「すまねぇ、笑える気分じゃねぇんだ」
「さては、前の彼女のことを思い出してるな」
「・・・当たり」
「もしかして、ここへデートで来たとか」
苦しそうな顔でかすかにうなずいたのを、私は見逃さなかった。
レイターは御台所、という彼女と別れたばかりだと聞いた。
恋多き私は何度も失恋している。男子高校生にとって、ハサム一族の名前は重すぎるらしい。自由恋愛には邪魔なのだ。
好きな人には振られ、好きでも無い奴は近づいてくる。
だからわかる。
まぶしかった恋の思い出は、反転して闇になる。そのつらさを乗り越えるには、新しい灯りで上書きするのが一番だ。
「失恋に効くのは次の恋だよ。わたし、レイターの彼女になってあげてもいいよ」
「ありがとよ」
初めてレイターが笑った。

そして、はっきりとした声で言った。
「悪いが俺、一生誰ともつきあうつもりはねぇんだ」
私は、また振られたようだ。
家に帰って小兄者に話を聞いたら、思ったより事情は複雑だった。
去年、将軍家の姫さまが亡くなった、っていう話は知っていた。病弱で知人も少ない姫さまの葬儀は関係者だけでひっそりと行われた。
びっくりしたことに、その姫さまとレイターは学生結婚していたのだという。

今もレイターはその姫さまを愛していて、裏将軍と御台所は本当はつきあっていなかったと。
しかも、レイターは姫さまの後を追って死にたがっているらしい。
私は小兄者に言った。
「それは病気だよ。うちの主治医に診せたら?」
「俺も勧めたが、本人は嫌がってる」
表に出ていないレイターの過去は複雑だ。
「帰還兵症候群じゃないの」
頭に浮かんだ病名を小兄者に投げてみる。
「・・・・・・」
小兄者は答えなかった。けどわかる。私と同じことを考えてる。
フードコートで見せた苦しそうなレイターの表情を思い出す。病気で月の御屋敷からほとんど出られなかった姫さま。
おそらく、あのフードコートは姫さまと出かけた数少ないデートスポットだったのだろう。

姫さまは、戦地から帰ってきたレイターの心を癒していたに違いない。その拠り所を失って、彼は闇の中を彷徨ってる。
「悪いが俺、一生誰ともつきあうつもりはねぇんだ」って、まだ、十七だよわたしたち。
翌日、学校へ行くと、わたしが新たなイケメン男子を連れていたことが話題になっていた。
誰なの? って聞かれたから、小兄者の知人、って答えておいた。
将軍家のバカ息子とは誰も気づかなかった。
身長が三十センチ伸びて、チビのお調子者という面影はまるでなくなっていた。
* *
アレグロの奴の様子がおかしい。俺に何かを隠している。レイターは嫌な予感に襲われた。
俺は妹のフラットを使って探りを入れてみた。アレグロは妹に甘い。
「なあ、あんたの兄さんが俺に何か隠してるんだが、知らねぇか?」
「小兄者の情報を盗み見たいの?」
「ああ」
「じゃあキスして」
「わかった」
俺にはお礼に渡せるものは何もない。フラットの頬に軽くキスをした。
久しぶりに人の体温を感じた。ぼんやりと御台の顔が浮かびあがった。俺はあわてて心の中で謝った。フローラ、ごめん。
「これじゃ無いかな」

フラットは俺の目的のものをきっちり入手してくれた。さすがアレグロの妹だけある。勘がいい。
ハサム一族が入手する情報はディープだ。フラットの持ってきたペーパーはヤバい物だった。
御台が運び屋として悪徳マフィアのラダルトの仕事を受けた契約書の写し。
ヘレンだって知ってるはずだ。ラダルトなんて筋が悪すぎる。どうしてあいつ、こんなことを。
俺は、ノックもせずにアレグロの部屋のドアを開けた。
アレグロは机に向かって作業していた。大学に提出すると言うリポートだろう。
驚いて振り向いたアレグロに、俺はヘレンの契約書の写しを突きつけた。
「アレグロ、なんで黙ってた。ラダルドは屑だ。仕事が終わったらヘレンは口封じで殺されるぞ」
アレグロは眉間にしわを寄せて答えた。
「俺が御台に言っても駄目だった」

「じゃあ、俺が直接会いに行く。力ずくでもヘレンを止める」
アレグロは首を横に振った。
「駄目だ。お前は船を操縦する訳にはいかないだろ。そう言いだすと思ったから黙っていたんだ。一生、免許が手に入らなくなるぞ」
アレグロは、一生、というところを強調した。
「・・・・・・」
「とりあえず、通信でもう一度説得してみよう」
アレグロが通信回線を開いた。
モニターに御台が映った。
「どうしたのアレグロ。止めても無駄と言ったでしょ」

俺はカメラの前に立った。
「御台、バカなことはやめろ」
「あら、仲間を捨てたボスじゃない」
「マフィアの中でもこいつらはタチが悪いんだ。深入りしたら殺されるぞ。早く離れろ」
「大きなヤマなの」
「ヘレン、俺の言うことを聞け!」

「そんなことあたしに言えるの。あたしの言うことは聞かなかったあなたが」
「・・・」
「あたしのことは、あたしが決めるわ」 (13)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」