銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(36) 決別の儀式 レースの途中に
・銀河フェニックス物語 総目次
・<出会い編>第三十九話「決別の儀式 レースの前に」① ②
・第三十九話「決別の儀式 レースの途中に」① ② (29) (30) (31) (32) (33) (34) (35)
忘れはしない、俺のS1デビュー戦。
エースは、クロノスの控えレーサーだった。
クロノスの第一パイロットが体調不良で、急遽エースが乗ることになった。

エースは、ジュニアクラスで天才と騒がれていた。
だが、いきなりS1レーサーになれたのは、スポンサーの意向と聞いている。何と言ってもS1の大御所、クロノス社の御曹司だからな。
天下のS1に政治的な力で乗ろうってのが気に入らなかった。
まずはお手並み拝見といこうか。
俺は予選で、ポールポジションを取った。
エースは二位発進だ。
スタートして俺は驚いた。
俺は自分のことを操縦の才能に恵まれた天才だと思っていた。だが、それは誤りだったことを思い知らされた。
レベルが違う。
エースはなんと綺麗に飛ぶのだろう。
まるで自分の手足のように船を動かしている。これは天賦の才だ。
何もできないうちに俺は抜かれた。
デビュー戦で俺は表彰台に立った。
優勝したエースの隣に。
記事はエース一色に染まっていた。
それでも俺だって準優勝だ。「よくやったな」と両親にもチームのみんなにも褒められた。
悔しさをバネに、次こそは、と意気込んだ。

だが、何度飛んでもエースに勝てなかった。
努力を続けた。攻略法を考えた。俺が絶好調でも、突如船が故障したりレースはいろんなことが起こる。
エースは崩れなかった。ミスが少ない。クロノスの船を壊さない。体幹が強い飛ばし。
いつしかエースは『無敗の貴公子』と呼ばれるようになった。そして俺は『無冠の飛行士』と揶揄された。
エースさえいなければ、と何度思ったことだろう。なんで同じ時代に生まれたんだ。俺はもう、準優勝なんていらない。一回でいい、トップに立たせてくれ。
S1レーサーになった時、あんなに喜んでいた母親がまた不機嫌になった。「あんたはエースの引き立て役なのかい」と。
そして、エースは突然引退を宣言した。熱愛報道とともに。

ここで勝たなくては、俺は一生エースの引き立て役から抜けられない。
残り二周半。
その時、俺は、後ろの船がべヘムの機体じゃないことに気が付いた
ハールだ。
あいつ、『兄弟ウォール』を突破してきたのか。

二日前のことだ。
真っ赤な髪の毛をした営業部のケバカーンが、俺に近づいてきた。
魔法使いと呼ばれるあいつは、時々レーシングチームにも顔を出して情報を置いて帰っていく。
「オクダさん。うちのハールには気をつけてください」
「俺はエースしか見てないぜ。まあ、後ろの奴らは兄弟ウォールが蹴散らしてくれるだろうし」
ハール。燃費だけがいい船。
チームスチュワートはその特性を生かして、給油を一回にするという奇策を見せた。正々堂々と戦えないことの裏返しだ。
奇抜なアイデアで勝負してくるスチュワートは王道ではない。そんな奴らに俺は負けない。
「ハールにはいい成績をだしてもらいたいですが、スポーツ船のマウグルアがハールに負けても困るんですよね。理想は、マウグルアとハールのワンツーです」

「俺がハールなんかに負けるわけないだろが」
「もちろんです。でも、僕の話を聞いておいて損はないですよ」
そう言ってケバカーンは俺に情報を与えた。もともと自社の船ということもあるが、さすが魔法使いだ。つかんできた情報はずいぶんディープな代物だった。
だが、俺には必要ない。
俺は、エースさえいなければ、総合優勝だってできるワークスの第一パイロットなんだ。プライベーターの新人レーサーなんざ、振り切ってやる。
バックモニターに映るハールを見ながら、コーナーで加速する。
ほぉ、きっちりついてきたか。
この先のヘアピンカーブで、俺についてこられたら褒めてやる。
連続するコーナー、テクニックを駆使して飛ばし抜ける。
くそっ。なぜだ。
後ろのハール。俺より旋回速度が速い。
うそだろ、ここで距離を詰められている。

奇抜なアイデアだけだと思っていたが違う。実力派の飛ばしだ。
しかも、この操縦。嫌な予感がする。 (37)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」