『あした来る人』川島雄三~絡まる男女の過去から未来へ~
写真引用© 日活(三國連太郎と月丘夢路)
川島雄三の軽妙なメロドラマだが、テンポよく展開していて脚本・構成が巧みだ。井上靖の新聞小説が原作、菊島隆三が脚本。日活製作再開一周年記念映画。川島雄三は戦後、松竹で23本の映画を撮り、1954年日活へ移籍。『洲崎パラダイス赤信号』(1956)、『幕末太陽傳』(1957)などの傑作を残した日活時代は9本。その後1957年東宝系の東京映画へ移籍。かたわら大映でも『女は二度生まれる』(1961)、『雁の寺』(1962)、『しとやかな獣』(1962)の3作品で若尾文子と組んで傑作を残した。
山村聰は無駄な投資は一切しない実業家だが、好きな女の新珠三千代にはピアスのプレゼントをしたりするパトロン的な存在だ。しかし二人はプラトニックな関係を維持している。娘が月丘夢路で、夫が三橋達也。三橋達也は山ばかり登っていて、妻にあまり関心を示さない。いつもほっとかれている月丘夢路は「山と私とどちらが大事なの?」と不満が募る。そこへ魚の「かじか」研究で本を自費出版したい三國連太郎(若い!)が、出資者を探して山村聰のところにやって来る。三國連太郎は生真面目な男。電車の食堂車で伝票を間違えたことで、馬鹿正直に差額を払いに月丘夢路の席までやって来たのだ。夫に不満を持つ月丘夢路は、生真面目で優しい三國連太郎に好意を持ち、山に夢中の三橋達也は、自分の家で飼えなかった犬のスピッツを代わりに飼う偶然から新珠三千代と知り合い、お互いが惹かれ合う。山村聰のことが好きだった新珠三千代は、自分がアクセサリーのようなお飾りに過ぎないことを、三橋達也と知り合ったことによって自覚し、山村聰と別れる決心をする。そんなそれぞれ現在の関係に不満を持っている男女が、絡まり合いながら別の異性に惹かれていく物語。「過去の人」と訣別して、「あした来る人」との可能性へと一歩踏み出そうとするのだが・・・。
新珠三千代は自分の恋心を確認するために、三橋達也が山で遭難したという知らせを聞いて、山へと向かう。一方、カジカ研究のため伊豆にいる三國連太郎を追って、月丘夢路は海へ行く。いずれも「山と海へ」、男が夢中になっている場所へ女たちが乗り込むのだ。愛情を強く求める主婦の月丘夢路と、山村聰から援助されつつも自立した女を目指す新珠三千代。対照的な二人の女性。山に夢中の三橋達也とカジカに夢中の三國連太郎は子供のように偏執的でどこか似ている男たちだ。そんな男女4人を見守る山村聰もまた、好きな女の新珠三千代から迫られて狼狽え、好きな人が出来たと言われてたじろぐ。そんなそれぞれの男女の思いが見事にキャラクターづけされていて面白い。
新珠三千代は、自分が好きになった三橋達也が山村聰の娘・新珠三千代の夫だと知る場面、ホテルの階段の上と下とのロングショットが見事だ。あるいは、ヒマラヤへと向かう三橋達也の山仲間の宴会シーンでの土俗的な人形が、三橋達也と新珠三千代の間に落ちてくる印象的なシーン。ラストの山村聰の長い廊下を歩いて行く後ろ姿の象徴的なロングショットも川島雄三らしい映像センスが感じられる。うまくいかないそれぞれの男女の物語を手際よくまとめている印象だ。
1955年製作/115分/日本
原題または英題:Wait for Tomorrow
配給:日活
監督:川島雄三
脚本:菊島隆三
原作:井上靖
製作:山本武
撮影:高村倉太郎
美術:中村公彦
音楽:黛敏郎
録音:福島信雄
照明:大西美津男
助監督:今村昌平
キャスト:山村聰、三橋達也、月丘夢路、新珠三千代、三國連太郎、小夜福子、小沢昭一、高原駿雄、小沢栄太郎
