特別な日|ひとりじゃない⑤
「いつまでトイレに入っているの?」
「歯磨きまだでしょ、早く早く」
そう言いながら、洗濯機を回して、朝食の支度をして、息子のカズキのお弁当を作って。
出勤前のバタバタは、いつものことながら、なんとかして欲しい。
「ママ、行ってきます」
「気をつけてね」
カズキを送り出してから会社へ。
そして一日が、あっという間に過ぎた。
帰宅したのは夜八時。待たせたカズキには悪いけれど、夕飯は簡単なもので許してもらおう。
疲れた体で玄関の鍵を開けると、カズキが飛び出してきた。
「お帰りなさい!」
よっぽどお腹を空かして、待ちくたびれていたのだろうか。チクリと胸が痛んだ。
「ただいま。宿題は?」
「終わった!ママ、ちょっとここで待ってて」
カズキは自分の部屋に駆けて行った。何かあるのだろうか。
しばらくしてニコニコしながら戻ってきたカズキは、後ろ手に持っていたものを得意げに差し出した。
そこには、折り紙で作った花束があった。
「はい、これ」
「お誕生日おめでとう!」
はっとした。
今日は私の誕生日だった。
すっかり忘れていた。朝から今まで、思い出すこともなかった。
「ありがとう、カズキ」
折り紙の花束は、不揃いで不格好だったが、何度も折り直したあとが見える。
「学校で教えてもらったの。先生が『お母さんの誕生日に作ってあげたら?』って」
「どう?」
私はなんと答えたら良いのかわからなかった。
バタバタしていて、追い立てられるような毎日。でも、この子はちゃんと覚えていてくれた。
「すごく嬉しい。大切にするね」
「本当は、ケーキも買いたかったんだけど...」
「これで十分よ。こんな素敵なプレゼントもらったことない」
カズキの顔がぱっと明るくなった。私は思わず抱きしめた。
「そうだ。今度のお休みに、一緒にケーキ作ろうよ」
「本当?やったー!」
腕の中に確かにある折り紙の花束とカズキの笑顔。
忙しくて自分のことを忘れてしまう日があっても、私を一番に想ってくれる人がいる。
それは、何よりも特別な贈り物だった。
ひとりじゃない――――――――――
シングルマザーの日常
☔雨の日のお迎え 🪑待合室の30分 😌お帰りなさい
📆特別な日 ☂ひとつの傘
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