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ふたつのかげ|こころのかけらをつなぐ④

この物語で探したい "こえにならないことば"

違う私も私


━━SNSの中で迷子になりかけた君へ

1.二つの影

小学5年生のゆうとは、ある日の放課後、教室に一人だけ残っていました。
夕日が窓から差し込む中、ふと気がつくと、床に映った自分の影が二つに見えました。
「あれ?」
目をこすって見直しても、確かに影は二つ。一つは普通の影。もう一つは、なんだかちょっとボンヤリしているような、輪郭があいまいな影でした。

「気のせいかな...」
でも、その日からゆうとは、影だけではなくて二人の「自分」がいることに気づき始めました。

学校では明るくて、みんなと笑って過ごす自分。家に帰ると、一人で静かに本を読んだり、絵を描いたりするのが好きな自分。
この二つの自分が、日を追うごとにだんだんかけ離れていくような気がしました。

2.クラスのSNSグループ

6年生になると、クラスの多くの子がスマホを持つようになりました。ゆうともお母さんにお願いして、ついにスマホを手に入れました。
そのことを友だちに話すと、すぐにクラスのLINEグループに招待されました。

「やったー!これでみんなと もっと仲良くなれる」
最初はとても楽しかったのです。面白い写真を送ったり、みんなでスタンプを送り合ったり。

でも、ゆうとはだんだん気がつきました。みんな、SNSではとても楽しそうで、完璧に見える写真ばかり投稿していることに。

ゆうとも、みんなに合わせて、いつも明るい写真や、楽しそうなコメントを投稿します。

本当は、その日は疲れていても。本当は、ちょっと悲しいことがあっても。
「みんなの期待に応えなきゃ」
と思うのです。

3.見えない影の重さ

ある日の朝、洗面台で顔を洗っていると、鏡の中にまた二つの影が映りました。今度は影ではなく、ふたりのゆうとでした。

ひとりは、いつものゆうと。明るくて、みんなに好かれる、SNSでも人気のゆうと。
もうひとりは、静かで、時々悲しくなって、一人の時間が好きなゆうと。

「どっちが本当の僕なんだろう?」
鏡に向かってつぶやいてみても、答えは返ってきませんでした。
学校に行くと、クラスの友達が話しかけてきます。
「ゆうと、昨日のLINE面白かったね!」
ゆうとは笑顔で答えました。でも、心の中では、もう一人の自分が小さく座り込んでいるような気がしていました。

4. 疲れた心

SNSでは、みんながいつも楽しそうです。面白い投稿、素敵な写真、完璧な毎日。ゆうとも、負けじと楽しい投稿を心がけました。でも、だんだん疲れてきました。
「いつも明るくいなきゃ」「面白いことを言わなきゃ」「みんなに好かれる投稿をしなきゃ」
そんなことばかり考えているうちに、本当に自分がしたいことや、感じていることが分からなくなってきました。

ある晩、ベッドで横になっていると、お母さんが部屋を覗きました。
「ゆうと、最近元気がないけど大丈夫?」
「大丈夫だよ」
いつものように明るく答えましたが、お母さんは心配そうでした。
その夜、ゆうとは天井を見つめながら考えました。
「本当の僕って、どんななんだろう?」

5.一人の時間

翌日の放課後、ゆうとは図書室に向かいました。一人になりたかったのです。静かな図書室で、お気に入りの本を読んでいると、心が少し軽くなりました。
「ああ、こういう時間が僕は好きなんだ」
そのときスマホが鳴りました。クラスのLINEグループです。
「今日の宿題、分からない!誰か教えて!」
ゆうとには答えが分かる問題でした。でも、返事をするのは面倒に感じました。

「返事しなきゃ、みんなに冷たいと思われるかな」

結局、いつものように明るいメッセージで答えを教えました。
でも、もう本をよみたい気持ちはどこかへ行ってしまっていました。

6.影との対話

その夜、ゆうとは机に向かって宿題をしていました。デスクライトの明かりで、くっきりと二つの影が壁に映りました。

ゆうとは影に話しかけてみました。
「君たちは、どっちが本当の僕なの?」
もちろん、影は答えてくれません。でも、じっと見ていると、なんだか分かってきました。
一つの影は、みんなから期待されるゆうと。いつも明るくて、人気者で、完璧なゆうと。もう一つの影は、静かで、時々悲しくなったりもするけれど、一人の時間を大切にしたりしたいゆうと。

「どっちも僕なんだ。でも、なんで二つに分かれちゃったんだろう?」

7.友達との会話

次の日の昼休み、ゆうとは一人で校庭の隅にいました。
そこに、クラスメイトのさきちゃんがやってきました。さきちゃんは、いつも静かで、SNSにもあまり投稿しない子でした。
「ゆうと君、どうしたの?」
「え、べつに...」
「なんだか、最近元気なく見えるよ」
ゆうとは驚きました。みんな、自分が明るく振る舞っていることしか見ていないと思っていたからです。
「実は...」
ゆうとは、思い切ってさきちゃんに話してみました。SNSで明るく振る舞うのに疲れていること。本当の自分が分からなくなってきていること。
さきちゃんは静かに聞いてくれました。
「私も、同じようなことを考えてた。みんな、SNSではキラキラして見えるけど、本当にいつもそうなのかなって」

8.本当の気持ち

さきちゃんと話した後、ゆうとは少し心が軽くなりました。
「僕だけじゃなかったんだ」
その日の夜、ゆうとはお母さんに正直に話してみることにしました。
「お母さん、僕、最近疲れてるんだ」
お母さんは、ゆうとの話を静かに聞いてくれました。
「SNSで、いつも明るくしてなきゃいけないような気がして。でも、本当は静かにしていたい時もあるし、悲しい時もある」
「ゆうとは、そんなふうに感じていたのね」
お母さんは、ゆうとの手をやさしく包んでくれました。

「いつも同じでなくていいのよ。悲しい時は悲しくていいし、静かにしたい時は静かにしていいの。それも、全部ゆうとなんだから」

8.一つの影

次の朝、ゆうとは鏡の前に立っていました。
またふたりのゆうとが映っていましたが、今度は前と違って見えました。

鏡の中の二人は少しずつ重なっているように見えたのです。

「どっちも僕なんだ。明るい僕も、静かな僕も」
ゆうとは、クラスのLINEを開きました。いつものように面白い投稿をしようかと思いましたが、やめました。
代わりに、正直な気持ちを書いてみました。
「今日は図書室で本を読んでいます。一人の時間も好きです」
送信ボタンを押すのに、少し勇気が要りました。

(みんなに変だと思われたらどうしよう)

しばらくすると、意外にも、何人かの友達から返事が来ました。

「僕も一人の時間好き!」「どんな本読んでるの?」「今度一緒に図書室行こう」
それは、ゆうとの正直な気持ちを受け入れてくれる返事ばかりでした。

9.新しい自分

それから、ゆうとは少しずつ変わっていきました。
明るい気分の時は明るく、でも静かにしたい時は「今日は静かに過ごしています」と正直にSNSに投稿するようになりました。

面白いことを無理に投稿しなくても、友達は変わらず接してくれました。
さきちゃんとは、図書室で一緒に本を読む時間ができました。静かな友達も、楽しい友達も、どちらも大切な存在でした。
ある日の夕方、教室で宿題をしていると、また夕日が差し込みました。
床を見ると、影は一つだけでした。

でも、よく見ると、その一つの影の中には、明るい部分と静かな部分が両方あるような気がしました。

「これが、本当の僕なんだ」

10.みんなの本当

クラスでも、少しずつ変化が起きていました。
ゆうとだけではなくて、他の友達も、普段の生活のことを投稿するようになりました。

「今日はテストでミスしちゃった」「宿題忘れてて焦った」「今日は なんかやる気が出ない」
そんな投稿に、みんなが「分かる!」「僕もだよ」とコメントをつけました。
クラスの雰囲気も、なんだかよそよそしさがなくなった気がします。みんな、完璧じゃなくてもいいんだということが分かってきたからです。

さきちゃんが言いました。
「みんな、いろんなことを考えているんだね」

「うん。僕とおんなじなんだ」

ゆうとも頷きました。

11.一つの影、いろんな色

小学校を卒業する日、友だちにさよならを言った後ゆうとは一人で教室を見回しました。

窓から差し込む春の光で、床に自分の影が映っています。

影は一つでした。でも、その一つの影の中に、たくさんの「ゆうと」がいることが、ゆうとにはわかっていました。
明るいゆうと、静かなゆうと、悲しいゆうと、嬉しいゆうと、怒っているゆうと、優しいゆうと。
全部が本当のゆうとで、全部が大切でした。

SNSで、良い時も悪い時も、正直に投稿することで、友達との関係もより深くなりました。

「完璧じゃなくていいんだ。全部の気持ちが、僕を作ってるんだから」
ゆうとは、中学校でも、きっと自分らしくいられるだろうと思いました。

夕日が照らす教室の中に、一つの影が長く伸びていました。




おわり


作者より

この物語は、SNS時代の子どもたちが直面する「見せる自分」と「本当の自分」の分裂について描いた成長の物語です。
現代社会では、多くの子どもたちがSNSを通じて他者とつながる一方で、「いいね」や「反応」を得るために、本来の自分を抑えて理想的な自分を演じなければならないプレッシャーを感じています。
しかし、私たちの心には、明るい時も静かな時も、嬉しい時も悲しい時も、すべてが共存しています。それらすべてが「本当の自分」であり、どれも大切な心のかけらです。
この物語を通じて、子どもたちが自分の多様な感情を受け入れ、SNSでも現実でも自分らしくいられることの大切さに気づいてくれることを願っています。
完璧でなくてもいい。すべての気持ちが、あなたを作っている大切なかけらなのですから。
静かだけれど確かな「こえ」が、読者のみなさんの心にも届きますように。



「こころのかけらをつなぐ」シリーズは、共創童話集『こえにならないことばをさがす』の第二部として生まれました。

第一部では、さまざまな年齢の子どもたちに届くよう、ひとつの物語を【一般向け/小学校低学年向け/幼児向け】に文体変換して公開してきました。多くの読者から温かい声をいただき、深く感謝しています。

そしてこの第二部では、主に小学校高学年から中学生を読者に想定した、より現代的な童話を紡いでいきます。

息が詰まるようなニュースや、不安な社会の空気が、子どもたちの感性を知らず知らずのうちに閉じ込めてしまってはいないか――。
そんな想いから、この物語が生まれました。

忘れていたなにかを思い出すきっかけとして。
そして、静かだけれど確かな「こえ」が、読者のみなさんの心にも届きますように。



こころのかけらをつなぐシリーズ
🍂きえたこえ
🪴なくしたなまえ(リュウの物語)
🍀なくしたなまえ(みのりの物語)
🍃ふたつのかげ




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