夜風の中から|風まかせ文芸部
——あの夜も、台風だった。
あの時、車の中で、雨の音を聞きながら、私は、瞳を閉じた。なかったことにするはずだったものが、そうして、始まった。
あれから、四ヶ月。
「……あのさ」
彼が、言いかけた。
私は、身体を固くし目を逸らした。
私は、知っていた。
あの夜と同じ言葉なのに、今度は正反対の場所へ向かうのだということを。
「いいの」と、私は言った。
彼の次の言葉を待つ意味がなかった。
わかっていた。ずっと前から。この恋には、行き先がないことを。
彼には、家庭がある。私にも、本当は、守るべきものが、あった。
そのまま、私は車を降りた。
なかったことには、できない。
でも、終わりにすることは、できる。
もう、瞳を閉じることはない。
アパートの部屋で、私は、膝を抱えて、一夜を過ごした。
気づくと、朝になっていた。
台風は、夜のうちに、抜けたらしい。
そのまま、ただ、ぼんやりと、一日が過ぎた。
暗くなって、ようやく窓を開けると、夜風が入ってきた。
街のざわめきを運んでくる。
生ぬるくて、湿った風。通り過ぎた台風の名残。
iさんの風まかせ文芸部に参加します。
▼「夜風」というお題の関連では、こちらの姉妹編に当たります。
▼物語としては、こちらの続編になります。
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