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昔の出前は続いたのに、menuはなぜ終わるのか――Uber EatsとGrabから考える「届ける仕事」のつくり方


フードデリバリーサービス「menu」が、2026年9月30日で終了します。

運営会社のmenu株式会社も、サービス終了後に解散・清算される予定です。KDDIは終了理由として、「競争環境の変化」や「今後の事業見通し」を挙げています。

2026年3月には、Woltも日本から撤退しました。

新型コロナウイルスの感染拡大期には、街中を何台もの配達用バッグが走っていました。飲食店も、利用者も、配達員も増え、フードデリバリーは暮らしに定着したように見えます。

利用者がいなくなったわけではありません。

それでも、事業者は撤退していきます。

僕も以前、Uber Eatsに登録し、実際に配達したことがあります。

シフトを提出する必要はありません。時間が空いたらアプリを開き、注文が入れば店へ向かう。働きたくなければ、アプリを閉じればいい。

組織の勤務時間に合わせて24年間働いてきた僕には、自分で仕事の始まりと終わりを決められる感覚が新鮮でした。

Uber Eatsが売っていたのは、料理の配達だけではありません。働く時間を自分で選べるという自由でもありました。

一方で、海士町にもUber Eatsのようなサービスがあれば便利だろうな、と思ったことがあります。

ただ、人口や飲食店の数、移動距離を考えると、東京と同じ方法では回りそうにありません。

そもそも、昔のそば屋や町中華は、どうして出前を続けられたのでしょうか。

Uber Eatsは、なぜ料理の配達で儲かると考えたのでしょうか。

そして、配達サービスの効率化が進んだ結果、「空き時間を活用する」という最初の物語は、変わってしまったのではないでしょうか。

昔の出前は、本当に無料だったのか

日本の出前の歴史は古く、全国麺類生活衛生同業組合連合会によると、江戸時代の享保年間には出前が登場していたとされています。

昭和の町には、そば屋、寿司屋、町中華などの出前が普通にありました。

電話で注文すれば、店の人が岡持ちを持って届けてくれる。配達料は書かれていない。店で食べても、届けてもらっても、料理の値段はほとんど変わりません。

現代の感覚では、ずいぶん太っ腹です。

ただし、昔の出前も無料だったわけではありません。

配達にかかる人件費や車両費は、料理の価格や店全体の経費に含まれていました。

しかも、配達する人は、配達だけをしていたわけではありません。

注文がなければ、皿を洗う。片づける。仕込みを手伝う。近所へ買い物に行く。電話を取る。

店内の仕事と配達を、一人の従業員や家族が行き来していました。

配達範囲も限られています。

町内の会社や近所の家なら、地図を確認する必要はありません。常連客なら、住所だけでなく、入口や家族構成まで分かっている。昼休みに会社からまとまった注文が入れば、一度の配達で何食も運べます。

昔の出前は、地域に閉じた小さな商売でした。

全国へ広げない。遠ければ断る。忙しければ時間がかかると伝える。採算の合う範囲を、店主自身が経験で知っていました。

アプリはなくても、経営判断はかなり正確だったのです。

Uber Eatsが見つけた「街の空き時間」

Uber Eatsの母体となったUberは、もともと料理の会社ではありません。

人を運びたい利用者と、車を運転するドライバーをアプリで結ぶ配車サービスです。

Uber Eatsの前身となるUberFRESHは、2014年に米国ロサンゼルスで始まりました。

Uberから見れば、街には使い切れていない人、時間、車両がありました。

注文を待っているドライバー。副業をしたい人。配達員を雇えない飲食店。店へ行く時間を惜しむ利用者。

街に散らばる余力をアプリで結べば、新しい商売になる。

Uberは自前のレストランを持つ必要がありません。料理を仕入れる必要もない。原則として配達車両を持たず、配達員を常勤雇用する必要もありません。

注文者からは配達料やサービス料を受け取り、加盟店からも手数料を受け取る。注文が増えれば、配達員と加盟店が集まる。配達員が増えれば、料理を早く届けられる。早く届けば、利用者がさらに増える。

Uberが売ろうとしたのは、料理だけではありません。

街に散らばっていた空き時間を、注文に合わせて動かす力です。

いかにもインターネットらしい発想でした。

「空き時間を活用する」は、最初だけ成立する

Uber Eatsが広がり始めたころ、配達の魅力として語られたのは「好きな時間に働ける」ことでした。

会社員が帰宅途中に一件運ぶ。学生が授業のない時間に働く。休日だけ自転車で配達する。

決められた勤務時間に縛られず、自分の空き時間を収入に変えられます。

ただ、フードデリバリーの事業者が本当に欲しいのは、単なる空き時間ではありません。

注文が集中する昼と夜に、飲食店の近くで待機している配達員です。通知にすぐ反応し、短時間で料理を受け取り、最短経路で届けられる人です。複数の注文をまとめて運べる人なら、さらに効率は上がります。

配達サービスが拡大する段階では、空いた時間に参加する人が多いほど、供給を増やせます。

一方、事業者が一件あたりの配送費を下げ、遅配を減らし、利益を出そうとすれば、配達員には需要が発生する時間と場所にいてもらわなければなりません。

好きな時間に一件だけ運ぶ人より、昼食時と夕食時に確実に稼働する人の方が、事業者にとって価値を持ちます。

配達員は、空き時間をお金に換える人から、需要の波に合わせて待機する調整役へ変わります。

自由な働き方を掲げて始まったサービスが、効率化を進めるほど、働く時間と場所を事実上指定していく。

なかなか皮肉です。

空き時間に働くはずが、配達のために時間を空ける

アプリが注文、店舗、配達員の位置を把握し、効率のよい組合せを計算すれば、一人の配達員が一時間に運べる件数は増えます。

ただし、生産性が上がった分が、そのまま配達員の収入になるとは限りません。

一件あたりの報酬を調整する。複数の注文をまとめる。需要の少ない時間帯には、配達員向けの追加報酬を出さない。注文者が支払う配達料を、距離や混雑状況に応じて変える。

効率化によって生まれた利益は、配達員、加盟店、利用者へ均等に配られるわけではありません。

市場で最も強い立場にある事業者が、多くを回収します。

配達員から見れば、待ち時間が減り、一時間に運べる件数が増える可能性があります。

一方で、配達員が増えすぎれば注文を受けにくくなる。一件あたりの報酬が下がれば、同じ収入を得るために、より長く稼働しなければなりません。

「空き時間に少し働く」という選択肢がなくなるわけではありません。

ただ、効率化された市場で十分な収入を得ようとすれば、需要が集中する時間帯へ自分の生活を合わせる必要が生じます。

空き時間を活用するはずが、いつの間にか、配達のために時間を空ける。

プラットフォームが成熟した先には、そんな逆転があります。

menuやWoltは、なぜ日本市場から退くのか

フードデリバリーは、地域ごとに強い事業者へ注文が集中しやすい商売です。

注文が多いサービスには、配達員が集まる。配達員が多ければ、早く届けられる。早く届けば、利用者と加盟店が増える。

反対に、注文が少ないサービスでは、配達員の待ち時間が長くなります。

配達員が離れれば、料理が届くまでの時間も延びる。利用者が減る。加盟店にとっても、注文の少ないサービスへ手数料や管理の手間をかける意味が薄くなります。

注文密度の差が、事業者の差をさらに広げます。

menuの終了やWoltの日本撤退は、フードデリバリーに需要がないからではありません。

需要はあります。

しかし、複数の事業者が同じ街で加盟店、利用者、配達員を奪い合い、クーポンや送料無料で競争しながら、全社が利益を出せるほど余裕のある市場ではなかったのです。

KDDIには、通信、au PAY、Ponta、金融、定額サービスなどの経営資源があります。

menuを他のサービスへの入口として使える可能性はありました。それでも、menuを利用する必然性を、毎日の暮らしの中につくれなかった。

KDDIは公式発表で、menuの終了について「経営資源の最適配分」と説明しています。

大企業の発表らしい静かな言葉です。

率直に言えば、Uber Eatsなどと競争しながらmenuへ投資を続けるより、別の事業へ人と資金を振り向けた方がよいと判断したのでしょう。

Grabは、なぜスーパーアプリで勝てたのか

東南アジアで事業を展開するGrabは、フードデリバリー単体の会社ではありません。

配車、タクシー、バイク便、料理や食料品の配送、決済、融資、保険、デジタル銀行などを、一つのアプリで提供しています。

Grabが強い理由は、機能をたくさん載せたからではありません。

一つのサービスで生まれた顧客、配達員、加盟店、データを、別のサービスにも使えるからです。

朝は通勤客を運ぶ。昼は料理を届ける。午後は荷物や日用品を運ぶ。夕方は再び人を運ぶ。

利用者は配車に使ったアプリで食事を注文し、同じ決済手段で代金を支払う。加盟店には広告を販売し、蓄積した取引情報を使って融資も行う。

配達の注文が少ない時間には、人や荷物を運べる。人の移動が少ない時間には、料理や日用品を運べる。

Grabは空き時間をなくしたのではありません。

異なるサービスの需要を重ねることで、空き時間を埋めました。

フードデリバリー単体では利益が薄くても、配車、広告、決済、金融まで含めれば、一人の利用者や加盟店から得られる収益は増えます。

2025年のGrabは、年間売上高33億7,000万ドル、最終利益2億ドルとなり、初めて通年の最終黒字を達成しました。

Delivery部門の年間取扱総額は約142億ドル、売上高は18億ドル、部門調整後EBITDAは2億8,700万ドルでした。

ただし、Delivery部門の調整後EBITDAマージンは、取扱総額に対して2.0%です。しかも、部門調整後EBITDAには全社共通の管理費などが含まれていません。

Grabはスーパーアプリだから、簡単に儲かっているわけではありません。

配送部門の利益率は薄い。

広告、配車、決済、金融を重ね、顧客獲得費やシステム費用を分散し、ようやく利益を積み上げています。

スーパーアプリは魔法の言葉ではありません。

同じ利用者、加盟店、配達員と、何度も取引できる会社だけが強いのです。

昔の出前とGrabは、意外と似ている

昔の出前とGrabは、規模も技術もまるで違います。

それでも、商売の考え方には共通点があります。

昔のそば屋は、配達員を一日中待機させていたわけではありません。

配達がなければ店内で働く。注文が入れば料理を届ける。一人の働き手に、複数の仕事を持たせていました。

Grabも、一人のドライバーに料理だけを運ばせるのではありません。

人、料理、日用品、荷物を、時間帯に応じて運び分けます。

昔の出前もGrabも、空いている人を探しているのではありません。

すでにいる人、すでにある車両、すでに動いている仕事へ、別の注文を重ねています。

Uber Eatsが最初に提示した「空き時間を活用する」という考え方は、事業を立ち上げるには有効でした。

事業を長く続けるには、偶然の空き時間だけでは足りません。

複数の仕事を重ね、一人の働き手や一台の車両から生まれる売上を増やす必要があります。

海士町で運ぶなら、料理だけでは足りない

海士町にフードデリバリーがあれば、便利だと思います。

高齢者の買い物、子育て世帯の食事、観光客や出張者の夕食など、届けるサービスを必要とする場面はあります。

ただし、人口約2,300人の島で、料理だけを注文のたびに届ける事業が成立するかと聞かれれば、僕は難しいと思います。

注文が一時間に一件しかなければ、配達する人の収入になりません。十分な報酬を払えば、注文者や飲食店の負担が重くなります。自治体が赤字を補填すれば、補助金が終わった日にサービスも止まりかねません。

「地域の誰かが、空いている時間に運べばいい」という考え方も危うい。

地域で働く人は、暇そうに見えても暇ではありません。仕事の合間には別の仕事があり、家族の用事があり、生活があります。注文が入った瞬間に、都合よく手が空いている人など、そう何人もいません。

海士町で必要なのは、空いている人を探すことではなく、すでに動いている人や車に何を重ねられるかを考えることだと思います。

弁当を届ける日に、日用品も運ぶ。薬を届けるなら、高齢者の様子も見る。午前中に一件ずつ走るのではなく、注文を集めて午後にまとめて回る。

料理、買い物、見守り、行政からの配布物を別々の仕事にすれば、それぞれが小さすぎて採算が合いません。一回の移動にいくつかの用事を載せれば、一件の配達では生まれなかった売上や役割が生まれます。

昔のそば屋も、配達だけをする人を一日中待たせていたわけではありませんでした。

店内で皿を洗い、仕込みを手伝い、注文が入ったら近所へ届ける。一人の働き手が、店の中と外を行き来していました。

Grabも、考え方は似ています。

朝は人を運ぶ。昼は料理を運ぶ。午後は荷物を運ぶ。利用者は同じアプリで代金を払い、加盟店は広告や金融サービスも使う。

海士町と東南アジアでは規模がまるで違います。それでも、料理だけで採算が合わないなら、別の仕事を重ねるという考え方は使えます。

即時配送にも、こだわらなくていいと思います。

東京では「30分で届く」ことに価値があります。海士町では、午前中に注文した品が午後にまとまって届き、配達に来た人と少し話せる方が、地域に合っているかもしれません。

都市向けサービスの速度を落としただけでは、地域のサービスにはなりません。

地域にいる人の一日を見て、どの移動なら重ねられるかを探す。アプリを選ぶのは、その後です。

届けるだけでは、続かない

昔の出前は、古くて非効率な商売ではありませんでした。

商圏を広げすぎない。配達だけの人を遊ばせない。常連客との関係を使う。注文をまとめる。配達費用を店全体で吸収する。

かなり堅実です。

Uber Eatsは、店ごとに閉じていた注文と配達を街全体で束ねました。

Grabはさらに、人の移動、料理、日用品、荷物、決済、金融を重ねました。

一方、menuやWoltの撤退は、料理だけを運び、クーポンや送料無料で利用者を奪い合う事業の厳しさを示しています。

効率化された市場では、「誰かの空き時間を使えばいい」という説明だけでは足りません。

空き時間は、いつでも自由に取り出せる地域資源ではありません。

必要なのは、一人の働き手、一台の車両、一回の移動へ、複数の仕事と収入を重ねることです。

海士町に必要なのも、東京で走っているUber Eatsの縮小版ではないと思います。

島の商店、飲食店、交通、福祉、行政を一緒に見ながら、海士町なりの出前をつくる。

アプリより先に、誰が、何を、いつ運ぶのかを決める。

昔のそば屋は、たぶん最初から知っていました。

料理を届ければ、商売になるわけではありません。

届ける人に仕事が残り、店に利益が残り、利用者が無理なく支払える。

三者の条件がそろって、初めて出前は続くのです。


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AA WAVE合同会社では、行政、企業、地域団体のあいだに立ち、地域課題を続けられる事業へ整える支援を行っています。

▶︎ AA WAVE合同会社|地域課題の事業化・官民連携

参照資料

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Hiroyuki A いつも温かい目で読んでくださり感謝しております。この記事が少しでもお役に立てたなら嬉しいです。皆さんからの応援が私の創作エネルギーとなっています。スキやコーヒー一杯のチップをいただけると創作の大きな励みになります。これからもよろしくお願いします。​​​​​​​​​​​​​​​​