写真の中の笑い声(20)最後だと知らなかった日|太田川の土手に残った初恋の夏
高校三年の夏、僕らは二人で神戸の大学を目指していました。
太田川の土手に並んで座り、Mr.Childrenの「innocent world」をイヤホンで半分ずつ聴きながら、同じ未来を当たり前のように話していた頃。
ふつうに笑って会えたその日が、最後の日になるなんて、僕らはまだ知りませんでした。

高校三年の、夏だった。
僕らには、夢があった。
二人とも、神戸の大学を、目指していた。
どちらからともなく、「神戸、行きたいね」と言うようになって、それが、いつのまにか、二人の、目標になっていた。同じ大学へ行く。そうすれば、これからも、ずっと、一緒に、いられる。
「付き合おう」とは、とうとう一度も、言わなかったくせに。僕らは、当たり前のように、同じ未来の話を、していた。
その夏、街じゅうで、Mr.Childrenの「innocent world」が、流れていた。
ほのかが見つけてきた、あのバンドは、いつのまにか、誰もが知る存在に、なっていた。出はじめの頃、二人で、片耳ずつ、聴いていた音楽が、いまは、どこの店からも、聞こえてくる。それが、少し、誇らしいような、くすぐったいような、気持ちだった。
でも、僕らは、相変わらず、二人の聴き方で、聴いた。
放課後、太田川の土手に、寄って。川に向かって、並んで、座って。ウォークマンのイヤホンを、片方ずつ。
右の耳に、ほのか。左の耳に、僕。
あの夏の音は、いまでも、あの曲だ。
ある日。
そうやって、川を見ながら、とりとめのない話を、していたとき。
ほのかが、ぽつりと、言った。
「ずっと、好きだったんよ」
僕は、川を見たまま、答えた。
「……ずっと、知ってた」
いま思えば、ずいぶん、生意気な返しだ。でも、それから、ちゃんと、続けた。
「僕も」
たった、それだけだった。
はっきりと始まりの日を決めたことのない僕らの、いちばん、告白に近い言葉。
それは、これから始まる恋の言葉では、なかった。ずっと前から、そうだったことを、二人で、確かめただけの言葉だった。
草の匂いと、川の音と、片耳から流れる、あの曲。
あの土手の時間だけは、僕は、いまでも、忘れられない。
――それが。
ふつうに、笑って、会えた、最後の日に、なるなんて。
そのときの僕らは、もちろん、知らなかった。
なんでもない一日が、いちばん、かけがえのない一日だったと、気づくのは。
いつだって、それが、終わってしまった、あとなのだ。
その夏の日のあと。
ほのかとは、だんだん、会えなく、なっていった。
学校が、違ったから、ふだんの様子は、分からない。連絡も、前ほど、つかなくなった。
でも、受験が近いから、お互い、忙しいんだろう。そのくらいに、しか、思っていなかった。
そのときの僕は、まだ、何も、知らなかったのだ。
*
♪ 今回のBGM:innocent world(Mr.Children)
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