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世界で一番贅沢な「不発弾」の作り方。正しさはなぜ負けるのか。マーケター歴二十年、本気出して本命だけ外す|書籍化ログ(エッセイ/創作/カクヨム/マーケティング/メンタル)

私には悪い癖がある。
人生のあらゆる事象を「因数分解」しないと気が済まないのだ。

マーケターとして二十年。
のどに刺さった魚の骨から深夜にふと流れる涙まで、
「なぜ、今、これが起きたのか?」を分析し、
是正措置報告書を書き上げ、最適解を導き出そうとしてしまう。
職業病というよりは、もはや私の業(ごう)に近い。

その業もいつか書いてみたいと思っているけれど、今は脇へ置いておく。

そんな私が、
カクヨムコンテスト11という巨大な戦場に挑んだ。

KADOKAWAが運営する小説投稿サイト「カクヨム」の創作コンテスト。
年に一度の大舞台だ。

普通、作家はここで「情熱」や「書きたい物語」を武器にする。
しかし、私は違う。

用意したのは――「重火器」である。

ターゲットは、審査員という名の「読者」。

敵を知り、己を知れば百戦危うからず

孫子の兵法を胸に、
審査員の著書を読み、思考の癖をトレースし、
好みそうなレトリックを抽出し、ターゲットのペルソナを一点に絞り込んだ。

執筆というよりは、もはや「暗殺計画」。

そうして私は、
100均のペンで書くような「想い」という不確かなものを排除し、

数万円の高級万年筆で綴るような、
哲学的で計算され尽くした「最高級の弾丸(エッセイ)」を装填した。

「一発で落としてやる」

――本気で、本当に、自信満々に、そう思っていた。

結果はどうだったか。
中間選考落選。
それも、かすりもしない「大滑り」である。

驚いた。
これだけ計算し尽くした「弾丸」が、
的に当たるどころか、
発射台で「プスン」と可愛らしい音を立てて煙を吹いたのだ。

マーケティング的に言えば、これは致命的な「失敗」だ。

私は己の業に抗えず、
自らの傷口に酒をぶっかけて火をつけるランボーのように
悶絶しながら敗因を分析していた。

「論理」「分析」という名の鎧が、
音を立てて崩れていく。

わからない…。
暗殺計画は、完ぺきだったはずだ。

しかし、この物語には続きがある。

この悲劇を喜劇に変えたのは、
他でもない、もう一人の自分だった。

渾身のエッセイが大滑りする一方で、
同時に応募していたファンタジー小説が、
あろうことか中間選考を突破してしまったのだ。

愕然とした。

なぜならその小説は、
私がこれまでここでドヤ顔で語ってきた「小説のセオリー」を
すべて破壊して書いたものだったからだ。

一人称?無視だ。
キャラ数?知るか。
自己投影?捨ててしまえ。
カタルシス?後回しだ。

それは、
二十年のマーケターが定石を捨て、
今のランキング市場に唾を吐きかけるような衝動の塊だった。

プロとしての私は思っていた。
「こんなの今の市場に受け入れられるわけがない」と。

それでも、実験的に書いた、
いわば捨て石の物語。

それが、
計算し尽くした「本命」を嘲笑うかのように、
スルスルと選考の階段を駆け上がって行ったのである。

これはつまり、
自分への豪快なカウンターだ。

自分で自分を
真っ白に燃やし尽くしてしまった。

世の中には「滑る」という言葉がある。
芸人の世界でも、受験の世界でも、
それは忌むべき死神のような言葉だ。

けれど、よく考えてみて欲しい。

氷の上で美しく滑るフィギュアスケーターを、
誰が笑えるだろうか。

私はあの時、
カクヨムという広大なリンクの上で、
マーケティング理論という名の「超高級スケート靴」を履き、
誰よりも華麗に、
そして誰も見ていない方向へ、
エッセイという名のトリプルアクセルを決めて
派手に転倒したのだ。

それなのに、
同じリンクで、ただ「滑る」ことそのものを楽しんだ
ファンタジーが予選を通過した。

二十年のキャリアを誇るマーケターの私は、
今、猛烈に恥ずかしい。

自分がnoteで「正しい攻略法」を語るたびに、
中間選考を突破した私の「デタラメなファンタジー」が、
後ろから自分の尻を蹴飛ばしてくる。

「戦略なんて、結局この程度のもんだぞ」と。

私がエッセイに注ぎ込んだ過剰な戦略は、
たとえるなら、
海原雄山に対して、
得意満面で世界中の高級食材を山盛りにした丼を出すようなものではなかったのか。

そんなもの許されるはずがない。

「女将を呼べッ!!」

が、即座に飛んでくる。

一方で、
セオリーを全て無視して書いたファンタジーは、
豪華絢爛な料理の中に紛れ込んだ、
安価で平凡な食材による、至高の一口だったのかもしれない。

100均のペンで書いた鼻歌のようなエッセイが
軽やかに選考を通過する横で、
私は、重い鎧をガチャガチャといわせながら、
重火器を背負い、場違いなまでの空気の中を
とぼとぼと家路へついた。

その滑稽さ。
狙いに行って滑るほど、心にくるものはない。

それなのに、不思議と悪い気分ではなかった。
完璧に計算された敗北と、無防備な成功。
この二つの間に横たわるのは
「書きたいものが書ける世界」の幕開けだったからだ。

あの日。
中間選考の結果画面を見つめながら飲んだお茶は、
ランキングへの最適化に躍起になっていた私に
時代の変化を告げる免罪符の味がした。

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カクヨムコンテスト11のまじめな考察です▼

普段はプラットフォーム周りのことを書いています。

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うら表紙|無名→書籍化の記録(WEB小説) 読んでくれたこと、心より感謝します。いただいたチップは真心と思い、大切にします。私は時間がかかりましたが、あなたが私よりもっと短い時間で、自分の人生を愛せるよう願っています。