“読まれたい”と、“書きたい”の折り合いについて。“自分のため”と“誰かのため”の境界線|書籍化ログ(#創作論 #小説家になろう #Web小説 #note #エッセイ #創作)
「はじめの一歩」というコミックをご存知でしょうか?
現在145巻まで続いているのだそうです。
145巻。
数字を見るだけでも気が遠くなりますよね。
好きなことを続けるだけでも難しいのに、
それを何十年も、
“読まれ続けながら”
描き続ける。
たぶんそこには、
単純な「好き」だけでは続けられない苦しさも、
たくさんあったんじゃないかと思います。
そんな「はじめの一歩」の作者さんが、
インタビューでこんなことをおっしゃっていました。
「マンガ家はサービス業。お客様のニーズに徹底的に応えることが第一で、自分の描きたいことはお客様のニーズに応えた後の話」
私はこの言葉を聞いた時、
「ああ……やっぱりそうなんだ」
と思ってしまいました。
創作って、
自分の好きなものを書く行為だと思われがちです。
もちろん、それも間違いではありません。
ただ、“読まれる創作”をしたいと思った瞬間、
そこには必ず「相手」が発生する。
web小説も、
noteも、
商業作品も、
結局は全部そこから逃げられないんですよね。
私は現在、商業出版の現場で書いています。
ですが、最初から、
「読者ニーズを考えて書こう」
と思っていたタイプではありません。
むしろ逆で、私が小説を書き始めた理由は、
・好きなジャンルで、自分の読みたいものがなかったから
・疲弊した現代人が、安心して帰れる場所を作りたかったから
でした。
たぶん、
後者の理由の方が強かったと思います。
当時の私は、
現実世界にかなり疲れていました。
15年勤めた会社を、
理不尽な形で追われたんです。
ずっと積み上げてきたものが、
ある日突然、
自分の意思とは関係なく崩れる。
これ、思っている以上に心を削るんですよね。
自分の居場所が、
現実世界からなくなってしまったような感覚と恐怖でした。
だから私は、
「せめて物語の中だけでも、帰れる場所がほしい」
と思ったんです。
疲れた人が、
少し安心できる場所。
誰にも責められず、
張り詰めなくてよくて、
「また明日も頑張ろうかな」
と思える場所。
そんな世界を書けたなら、
自分みたいに疲れている誰かの居場所にもなると思った。
だから最初の頃の私は、
“読まれること”
より、
“届けたいこと”
の方がずっと大事でした。
でも、
創作を続けていると、
少しずつ難しいことが増えていくんです。
「自分が届けたいもの(書きたいもの)」
と、
「読者さんが求めるもの」
が、ズレ始める。
自分が一番楽しく書けるものほど、
読者さんにはあまり求められていないんだと痛感してしまう。
それを痛感しても、自分を貫ける強い人ならいいんです。
私はダメでした。
人が、読者さんが、私の作品から離れていくことの方が
断然怖かったのです。
私は今でも、
読者ニーズを完璧に理解できているとは思っていません。
正直、わからないことだらけです。
どんなに考えても、
読まれるかどうかなんて、
最後は出してみないとわからない。
だから、
いろんな方法で試行錯誤を続けながら書いています。
ただ、
創作を続けていると、
少しずつ見えてくるものもあります。
たとえば、
季節イベントのSS(ショートストーリー)。
クリスマス。
お正月。
バレンタイン。
こういうものって、
読者さんが本当に喜んでくださるんです。
しかも、
既存読者さんだけではなく、
新規読者さんが入ってきやすい。
短いから、
気軽に“作品の空気”を味見しやすいんですよね。
だから、
「読まれる」という意味では、
かなり理にかなっている。
でも、
こういうことを理解していくほど、
わからなくなるんです。
「私は書きたいものを書けているんだっけ?」
って。
もちろん、
読者さんが喜んでくれるのはうれしい。
「癒されました」
「ここに住みたい」
って言ってもらえるのも、
本当にありがたい。
その言葉に救われたことなんて、
何度もあります。
でもその一方で、
“読まれること”
を意識すればするほど、
自分が薄まっていくような感覚もある。
私はこれ、
創作を続けている人なら、
多かれ少なかれ感じたことがあるんじゃないかと思っています。
「好きなことを書きたい(発信したい)」
「でも、それだと届かない」
「だからって流行りの型に魂を売りたくない」
「ビュー数」
を考え始めると、
そこに少しずつ、
“読まれる形”
が入り込んでくる。
タイトル。
導入。
展開。
テンポ。
フック。
そういうものを考えること自体は、
悪いことではないんです。
むしろ、
読者さんに見つけてもらうためには必要なことでもある。
でも、
そればかりになると、
今度は自分が、
「何を届けたかったのか」
がわからなくなっていく。
創作って、
たぶん、
この矛盾から逃げられないんですよね。
好きだから書き始めた。
でも、
読まれたいと思った瞬間から、
“自分だけの創作”
ではいられなくなる。
ここで最初の話に戻ります。
「はじめの一歩」の作者さんは、
三本の打ち切りを経験し、
「この作者はダメだ」
と出版社から見限られる寸前だったそうです。
その中で、
「どうせダメになるなら、自分が一番好きな“ボクシング”を描こう」
そう開き直って描き始めたのが、
「はじめの一歩」。
つまり、
“好き”
を選んだからこそ生き残れた作品なんです。
なのに、
その作者さん自身は、
「マンガ家はサービス業」
と言う。
私はここに、
創作の難しさが全部詰まっている気がしました。
好きだけでは届かない。
でも、
好きじゃなければ続かない。
たぶん、
創作って、
その両方を抱えながら続けていくものなんだと思います。
私も今でも迷っています。
本当にこれでよかったのかって…。
でも最近は、
その迷い自体が、
創作なのかもしれないと思うようになりました。
誰かへ届けたい。
でも、
自分が本当に書きたかったものも、
見失いたくない。
その両方を抱えながら、
今日もなんとか書いている。
創作って、
案外、
そんな葛藤の中でみんな書いてるのかなって、
noteを歩いていると勇気がもらえます。
今回ご紹介した「はじめの一歩」の作者のインタビュー動画は下記。
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