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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-85話 文化祭と視えぬ魂胆6-秘事は睫-

前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編

駒葉こまば高校の文化祭。体育館を警護中のみおに、野外エリアの警護していた璃玖りくが合流し、二人は前世と現世の狭間で揺れる感情について語り合っていた。しかし、ひとしきり会話を交わした直後、突如として謎の男が出現し、強固な結界を出現させた。次の瞬間、空間はゆがみ、文化祭の喧騒けんそうは遠くかすんでいった。それまでの雰囲気は一変し、結界内には静かで、しかし明確な不吉な空気が満ちていた。


「残念ながらおしゃべりはここまでみたいだよ、角端かくたん」


璃玖の口元は笑っているが、その目は一切の感情を宿していなかった。彼の鋭い視線は、立ち尽くす男をとらえ続けていた。


「……閉じ込められましたね」


澪は首から下げている水晶から刀を取り出して構えた。その刀身は冷たく光り、臨戦態勢を示していた。刀から放たれるかすかな光が不穏な空気を照らす。


「貴様ラ五麟ごりんダナ?」

「こっちはそうだけど、アンタは?」

「女神サマノ言ウ通リダ!オ前ラヲ殺シテ俺ハ一族デノ地位ヲ回復スル!」


男はそう言うと、次の瞬間には見るもおぞましい邪霊じゃれいへと姿を変えた。

頭部からは左右に鋭く突き刺しそうな角が伸びて禍々しい邪悪な炎が燃え盛り、心臓の位置には不気味な青い炎が宿っていた。分厚い鋼鉄のひづめに踏まれたら一溜りもなさそうだ。肌を粟立あわだたせるようなその邪気は、結界内の空気を重く、そして凍てつかせた。


馴鹿となかい……かな。あれはちょっと俺1人って訳にはいかなさそうなんだけど、鷲尾わしのおサン行ける?」

「……無論です」

「じゃあいっちょ、共闘戦線と行きますか」


璃玖の言葉に澪がうなずいた。二人は互いに視線を交わし、静かなる覚悟を共有した。


ときが邪霊の浄化に向かったという一報を受けたものの、永遠とわは引き続き1年3組のお化け屋敷のゾンビ役をしていた。鏡を取り付けた死角から飛び出して来場客を怖がらせている。


「ゔゔゔゔゔ……」

「きゃぁああぁぁ!!」


永遠を見た女性の来場客が走って去っていった。


たちばな、交代の時間だよ。この後自由時間だよね。お待たせ」


女性の姿を見送った後、同じくゾンビの姿をした藤原奏介ふじわら そうすけが声を掛けた。


「あぁ、藤原悪いな」

「トラブルのあとも盛況っぽいぞ!すごいよな!平沢ひらさわの頑張りのおかげだな!」

「……そうだな」


永遠は藤原に役割を託して、1年3組の控え兼休憩室になっている選択教室に移動した。中では休憩中の生徒、メイク中の生徒、衣装を補修中の生徒等がいたが、その中心で平沢美沙ひらさわ みさが目まぐるしく動き回っていた。文化祭実行委員の井上遥大いのうえ ようたと会話をしながら、周囲に的確な指示を出している。


あおい、悪いんだけど列が伸びてきているみたいだからフォローに行ってきて!」

「は〜い!」


吉川よしかわ葵が教室を飛び出していった。


莉子りこ橋本はしもとくんのメイクが取れちゃったみたいだから直してもらえる?」

「了解〜」


演劇部の金井かない莉子がメイク道具を広げ始めて橋本いつきの頬に筆を当てた。


「あ!橘くん!お疲れ様!今日の当番終わりよね?これメイク落とし使って!」


美沙がすかさず化粧落としシートを差し出した。


「平沢休めてるか?」

「私は良いのよ!文化祭を成功させたいし!」


永遠と美沙の元に葉山友愛はやま ゆあ川村環かわむら たまきが集まってきた。

――『帰りたい人は帰ってよくない?』
――『みんな暇じゃないのに〜』

その二人は先日美沙に悪態をついていた女子生徒だった。


「あの美沙……この間はごめん。美沙がまとめてくれてなかったらウチのクラスやばかったと思う」

「こんなにお客さんが来てくれたのは美沙のおかげだよ。ありがとう」


友愛と環の思いがけない言葉に美沙は顔を真っ赤にした。


「私は私のやるべきことをやっただけよ!でも……絶対成功させましょう!」


美沙の言葉に2人は顔をぱあっと明るくして大きく頷いた。二人が去った後永遠は美沙の肩をたたいた。


「平沢良かったな。お疲れ」

「橘くんにお礼を言ってもらうことなんて何もないわ。それに橘くんには開始直前まで最終調整を手伝ってもらったし」

「俺がしたのなんて当日までの3日間だけじゃん。うちのクラスが成功したのは平沢がいてくれたからだよ。ありがとな」


永遠の言葉に美沙は耳まで真っ赤にして顔を隠した。


「どうした?体調悪いのか?」

「全然大丈夫!橘くんありがとう!」


美沙はそう言ってすごい勢いで持ち場に戻っていった。


「永遠お疲れ様」


永遠は美沙から受け取った化粧落としで顔を擦っていると眞白ましろに声を掛けられた。


「眞白は呼び込みだったな……お疲れ」


永遠はそう言うものの、周囲の様子を警戒している。


「何かあったの?」

「いや、まだ何も起きてねぇんだけど、胸騒ぎがして……」

――ガタ!

永遠が突然立ち上がって校舎裏にある体育館の方を確かめた。


「まじかよ……」と永遠が言葉を漏らした。


スマートフォンには入江いりえから【体育館で邪霊が出現した。澪くんと璃玖くんが対応してるから他のみんなはそのまま待機していてほしい】と連絡が入っていた。

永遠はそのメッセージを確認すると、眞白の元に戻ってきた。


「永遠、行かなくて大丈夫なの?何かあったんでしょう?」

「あぁ。ちょっとトラブルが遭ったみたいだけど、他の人が対応してるから一旦いったん待機……」


そこまで言って永遠ははっとして眞白の方を向いた。


「言わすなよ……」

「そこまで答えて欲しかった訳じゃないから」


眞白が困った顔をして答えた。

――ブー……ブー……。

ポケットの中で永遠のスマートフォンが振動すると、彼は素早く取り出して通話に応じた。


「もしもし?……あぁ、分かった。今行く」


永遠はスマートフォンを切るとポケットにしまった。


「永遠どうしたの?」


眞白が心配そうに尋ねた。


大石おおいしから。なんか相談したいことがあるんだってよ。ちょっと3階突き当りの講義室に行ってくるわ」


永遠の言葉を聞いた眞白は、彼の意図を察したのか、普段通りの笑顔で返した。


「うん、じゃあ食べ物でも調達してるね」


永遠は、念を押すように眞白の顔をのぞき込んだ。


「……分かってるよな?」


眞白はその視線に真っ直ぐ応えるように答えた。


「そんなに心配しなくて大丈夫。ちゃんと分かってるよ」


眞白の言葉を確かめて永遠は席を立った。人の行き来を確認した後、合間を縫いながら姿を消した。


(やっぱり予測通り、トラブルが起きているのか……2人を困らせないように俺は上手く隠れていないと……)

――『この事実はまだ本部長には伝えていない。これからどう関わっていくかはお前が決めろ』

眞白の脳裏には永遠の言葉がこびりついていた。

茅野かやのさんお疲れ様〜、私代わるね!」


クラスメイトの桜井和奏さくらい わかながやって来て、しゅうに係の交代を申し出た。柊は「ありがとう、よろしくね」と言って彼女に配膳用のトレイを手渡し、1年4組の控室へと入った。華やかなメイド服から、動きやすいクラスTシャツに制服のスカートという服装に着替える。


(ようやく終わった……)


肩の荷が降りたように柊は小さく息をついた。着替えを終え、スマートフォンの通知を確認すると、入江からのメッセージが2件届いていた。そこには、鴇が校外で、澪と璃玖が体育館でそれぞれ邪霊と戦闘中であるという報告が記されていた。


(ついに校内でも邪霊が……永遠と眞白もそろそろ当番が終わるはず……とにかく2人と合流しないと……)


スマートフォンを手に思案していると、けたたましい着信音が鳴り響いた。それは大石華奈かなからの通話だった。


「大石さん……?どうしたの……?」


通話口からは、華奈のひどく動揺した声が飛び込んできた。


『茅野さん突然ごめんね……!大変なの!橘くんが……!』


柊の心臓が嫌な音を立てる。


「永遠がどうしたの?」

『3階突き当りの講義室で……!』


華奈はそれ以上言葉にならず、ただ嗚咽おえつが聞こえるばかりだった。


「3階の講義室ね……分かったわ。今向かうから永遠のそばにいてくれる?」

『うん……!分かった……!』

通話が切れると同時に、柊は駆け出した。1年生の教室が並ぶ5階から3階へ、人混みをかき分け、ほとんど飛ぶように階段を駆け下りる。胸の奥で警鐘が鳴り響き、嫌な汗が背中を伝った。講義室の扉の前で、乱れた息を整えようと一呼吸置くが、その呼吸は震えていた。恐る恐る扉を確かめるようにゆっくりと開け、暗闇に包まれた教室の中を見渡す。

映像視聴に使われる講義室は、厚手のカーテンが外の光を完全に遮断していた。照明スイッチに手を伸ばすが、明かりは点かない。スマートフォンのライトを頼りに、一歩、また一歩と足を踏み入れた。文化祭の準備のためか、机や椅子は教室の端に雑に積み上げられ、その異様な光景が不穏さを助長する。教室の真ん中あたりまで進んだ時、足元に広がるどす黒い液体の染みに気がついた。そして、その中央に、背中を斬られうつ伏せに倒れている永遠の姿があった。


「――永遠っ!!」


柊は悲鳴にも似た声を上げ、慌てて駆け寄った。地面に広がる永遠の血液が、スマートフォンの光を反射して禍々しく輝く。震える手で脈と呼吸を確かめると、すぐにスマートフォンを握りしめ、電話を掛けようとした。

――カチャリ。

背後で、扉の鍵が閉まる音が響いた。その音を察知した柊は、反射的に首からかける水晶に手をかけた。


柊ちゃん・・・・、驚かせてごめんね?でも橘くんの傷の深さは加減しているから安心して?」


ゆっくりと近づいてくる足音に警戒していると、暗闇の中に姿を現したのは、柊に連絡をしてきた華奈だった。



【次話】86話 文化祭と女神の目的1-一葉落ちて天下の秋を知る-
8月9日(土) 22:00頃更新


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