【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-84話 文化祭と視えぬ魂胆5-秘事は睫-
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眞白と永遠、柊と美鶴がそれぞれ会話を交わす頃、芝山と冴木は校長室の監視カメラモニターを凝視していた。そこには、各配置についた入江、澪、璃玖、鴇、柊、そして永遠からの情報が集約されている。室内の空気は、外の文化祭の賑やかさとは対照的に張り詰めていた。
「邪霊の対応に向かった間宮の動向は掴めたか?」
芝山が冴木に問いかけた。その声には、わずかな焦りが滲む。
「入江さんから報告がありました。結界が張られているのでまだ戦闘中のようです」
冴木はモニターから目を離さず答えた。
「校内は特に大きな問題は起きていないな?」
「はい。皆には引き続き担当エリアの警護に当たってもらっています」
冴木の言葉に、芝山は小さく頷いた。
「いやー! 本当にすごいですね!」
2人の張り詰めたやり取りを聞いていた青山は、関心の声を上げた。
「青山先生……でしたよね? 関心されている場合ではありません。駒葉高校の生徒がすでに戦闘中という状況ですよ?」
冴木が釘を刺した。その声には苛立ちが混じる。
「すみません! 映画の世界みたいだなと思ってしまいまして!」
青山は慌てて謝罪した。
「残念ながら映画の世界ではなく、現実に起きています。私たちはこれ以上事態が大きくならなければ良いと思っております」
芝山は青山に鋭い視線を向けた。
「これは不躾なことを言いましたね……」
青山はすぐに自らの発言を訂正した。
「そもそもあなたは担任のクラスをお持ちなのでしょう? こちらに詰めていて大丈夫なのですか?」
冴木が青山に問いかけた。
「文化祭当日は教職員が生徒の安全確保のためにずっと校内を巡回しているんですよ。なので僕が詰めていても問題ありません」
「担任の先生が全く来ないと生徒は気になるものですから、後ほど顔を出されてくださいね」
冴木は青山の教師としての立場も慮り、助言を口にした。
「お気遣いありがとうございます。冴木さんも他校の生徒さんなんですよね。すごいしっかりされているなぁ。うちの生徒達にも見習ってほしいものです」
青山はにこやかに答えたが、冴木は彼の言葉に「恐縮です」と言って目を伏せた。
「……冴木、この映像止まっていないか?」
芝山の言葉に冴木は映像を確かめた。
「インターネット通信の影響かも知れません。校内に人も増えているので通信量が増えたのでしょう。持参したホームルーターでは速度が足りないのかも知れません。青山先生、あちらの有線コードをお借りしても良いでしょうか」
「はい、大丈夫です!でも長さがちょっと足りなさそうですね。職員室にある長い有線コードを持って来ましょうか?」
「ありがとうございます。助かります」
「じゃあちょっと離席しますね!」
青山が立ち上がり、ドアノブに手を伸ばした。
――ガチャガチャ
「あれ。開かない……?」
青山の表情は、焦りと戸惑いに変わる。
「鍵がかかっているということはないでしょうか?」
「ここは内鍵だから外から鍵がかかることはないんですが……」
冴木も加わりドアノブを回したが、やはり扉は開かない。室内には、静かな緊張感が満ちていく。
「まさか――……!」
冴木は何かを悟ったように、窓に向かって走り出した。鍵を回そうとするが、やはり回らない。窓ガラスに手を当てて何かを確認した後、校長用のデスクチェアを手に取り、勢いよく振りかぶった。
「ちょっと何を――!!」
青山が驚いて声を上げた。
――ガキン!!!
冴木がデスクチェアを使って窓ガラスを割ろうとしたが、鈍い音が室内に響いた。窓ガラスはびくともしない。
「……やられました。結界が張られている」
冴木は悔しさを滲ませながら言った。芝山がスマートフォンを確かめると、画面には「圏外」の表示があった。外部との連絡手段も遮断されていることを意味する。
「青山さん、そこの電話が使えるか試して頂けますか」
芝山は冷静に指示を出した。これは最後の望みをかけた行動だった。
青山が頷いてダイヤルしたが、結果を確かめてから首を振った。絶望的な状況に、室内の空気は一層重くなる。
「強力な結界です。内側から僕の術で壊すのは難しい。他のメンバーが異変に気づいてくれることを祈りましょう」
冴木はそう言うと、唇をきつく噛んだ。
「これはイタズラじゃなかったってことですよね……どうなっちゃうんだ……」
青山は頭を抱え、ソファに座り直した。彼の顔には、恐怖と混乱が入り混じっていた。
*
体育館での警護にあたっていた澪は、ステージで展開される様々な出し物を横目に、不審者がいないか厳しく巡回していた。体育館内を歩きながらも、彼の目は鋭く周囲を捉え、わずかな異変も見逃さないよう集中している。
「鷲尾サン、こっちは大丈夫?」
野外エリアの警護を担当していた璃玖が様子を見に来た。
「特に問題は起きていませんよ。そちらは――」
「今のところは大丈夫。だから鷲尾サンの様子を見に来たんだけどさ……まだ顔色悪いね」
「放っておいてください」
手で顔を覆って隠そうとする澪を見て、璃玖は深い息を吐いた。澪の顔色は確かに蒼白で、まだ戦闘をしていないにも関わらず酷く疲弊しているように見えた。
「さっきはあぁ言ったけどさ。俺も鷲尾サンと同じ間違いをした。蒼空を守るために血だらけになった時に怒られたよ。『僕の生き方を勝手に決めないで!僕のせいでお兄ちゃんがこんなにボロボロになるなら、”自由”なんて要らないよ!』って。あれは衝撃的だった……」
「璃玖さんも蒼空さんのことになると盲目ですもんね」
澪はくすりと笑った。
「前世を持たない間宮サンに過去のことをとやかく言っても仕方ない。それは変わらないよ。だからあの場はあえて『前世は前世、現世は現世』って言った。でもあの言葉は俺自身に言い聞かせようとしてた部分もあった」
璃玖は目を伏せて小さく言った。
「……どういうことでしょうか」
澪は静かに問い返した。
「麒麟には前世でも弟がいたんだよ。でも、幼い時に病で死んだ。だから余計に蒼空だけは……って思っちゃうんだよね。麒麟の人生に黛璃玖は関係ないのに……ねぇ、角端は1000年前の太陽の覡が亡くなった日のことをどこまで知ってる?」
璃玖は問いかけるように澪を見つめた。
「太陽の覡と麒麟・炎駒、聳弧が亡くなった事実しか……」
澪は言いにくそうに言葉を紡いだ。
「だよね。俺も1000年前のあの日のことは記憶が曖昧で上手く思い出せない。でも、どういうことが起きたのかは判明してる。俺はその事実から逃げたかった。俺達の中には前世の記憶があって、悔しさも悲しさもどこにも向かうことができない前世の感情を抱えたまま、現世を生きるしかない……鷲尾サンは覚醒直後だから数ヶ月前のことのような感覚なんでしょ」
璃玖の声は、澪の心に寄り添うようだった。
「……はい、索冥が亡くなった時の姿が脳裏に焼き付いてます」
澪の声は、重苦しかった。
「でしょ。だからさ――鷲尾サンはどっちも持ってて良いよ。角端と鷲尾澪、二人の人生を抱えたまま歩めば良い。本当はどっちも抱えたままだと苦しいけど、鷲尾サンの場合はその気持ちがあるから前を向ける。アンタはそのままでいなよ」
璃玖は真っ直ぐに澪を見つめた。
澪は思いがけない璃玖の言葉に一瞬固まったが、悔しそうな笑みを浮かべた。
「でも、相手は命がけで守ってくれて嬉しいとはならないから!前世で索冥が守ってくれた時に角端だって感じたでしょ?」
璃玖はたたみかけるように言った。
「……前世の索冥と角端の末路を知ってるんですね」
澪は低く呟いた。
「意外だった?」
璃玖は眉を上げた。
「璃玖さんは前世の件に介入したがらないから、耳を塞いでいるものだとばかり思ってました」
「蒼空を守るって決めてから、前世のことも現世のことも調べられることは全部調べたよ。相手の状況を知ってないと対処しようがないからね。と、いうことで今度はうまく対処してよ。茅野サンを悲しませたくないならさ」
璃玖の言葉は、まるで澪の背中を押すかのようだった。
「……前世の記憶があるからって年長者っぽいこと言わないでくださいよ。今は俺が五麟最年長なのに立場がないじゃないですか」
澪の言葉に璃玖はニヤリと笑みを浮かべた。その表情にはからかいの色が滲む。
「じゃあ、鷲尾サンは俺が現世の五麟最年少のガキらしくいられるように、最年長としてみんなを取りまとめてよ」
「……承知しました」
澪は覚悟を決めたように答えた。
「さてと、俺は持ち場に戻るかな」
澪の言葉を聞いて満足したのか、璃玖は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「璃玖さん、あのありが――」
「一結杳然」
突如、見知らぬ声が響き渡ると、異空間に形成された結界が体育館を覆い、一般人が排除された。残されたのは璃玖と澪、そして一体の不気味な男だった。
【次話】85話 文化祭と視えぬ魂胆6-秘事は睫-
7月26日(土) 22:00頃更新
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