【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-83話 文化祭と視えぬ魂胆4-秘事は睫-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
お化け屋敷を出店中の1年3組の教室は、薄暗い空間に不気味な飾り付けが施され、ひんやりとした空気が漂っていた。トラブルの合間で飲み物を届けに来た眞白は、そこで永遠に気がかりなことがあるか尋ねていた。永遠の頭の中には、昨日1年3組の教室の扉に貼られていた不気味な貼り紙が思い浮かんでいた。
「……気掛かりなことしかねぇだろ。視えるようになったって言われたら、そういう奴の生気は狙われやすいんだよ」
永遠の口調は重く、その言葉には深い懸念が滲んでいた。
「それはそうだろうね……でも、俺には永遠の気がかりが俺が視えるだけじゃない気がするけど」
眞白の鋭い視線に、永遠は一瞬動揺した。彼の言葉は、永遠の隠したい真実を的確に突いていた。
「お前、俺を試すなよ……!」
永遠は手で顔を覆った。
「柊と会った時も心配はされたけど、永遠の方がより緊張感が張り詰めてた。俺と目線を合わせようとしないのも気になってたし」
「……この件は、柊も知らない。知らせたところで人員を増やせる訳じゃねぇから伏せられた」
永遠は観念したように、重い口を開いた。
「この件……?」
眞白は問い返した。
「昨日の朝、1年3組に『時は来た』という貼り紙がされてた。もしイタズラじゃねぇなら、狙いは俺の可能性が高い。だけど、心配しすぎなら狙いが眞白かも知れねぇって思ったんだよ」
永遠のスマートフォンが振動し、永遠は通知内容を確認した。
「高校の外で邪霊が出現したみたいだ。でも、これだけじゃ貼り紙との関連性は分からねぇな……」
永遠は額に手を当て、考え込むように呟いた。
「もし……俺にも力があったら二人を守れるのに」
眞白が悔しそうに言った。
「あのなぁ……力を持ったら俺達だけを守る訳にはいかなくなるんだよ。俺達からしたら眞白は今の場所にいてくれた方が安心だ」
「そうかも知れないけどさ……無理はしないでね」
「わーってるって」
永遠は眞白の目をまっすぐ見つめると、眞白は体を震わせた。
「眞白どうした? 具合でも悪りぃのか?」
「体調は大丈夫なんだけどさ……ねぇ、柊や永遠は平安時代の記憶があるんだよね? 権力者の従者だったって言ってたけど、どんな服装してたの?」
このタイミングでの予期せぬ質問に永遠は驚きの声を漏らした。
「は? なんで急にそんな話……」
「……俺、何度も見る夢があって――」
眞白が切り出した瞬間、バサッと突然、勢いよく暗幕が上がり、井上遥大が顔を出した。彼の表情は、安堵と慌ただしさが入り混じっていた。
「橘いた! あれ?一之瀬も? 受付のトラブル解消したからそろそろ再開するよ! スタンバって!」
井上はその言葉を残すと、他の配置についているクラスメイトの元へ向かっていった。彼の声は、再び活気を取り戻した文化祭の喧騒に溶け込んでいく。
「さっきの話は改めて話すよ。じゃあ、またあとでね」
現実に引き戻された眞白は笑顔で永遠に手を振った。
「……あぁ、あとでな」
永遠は眞白に向かって手を上げて見送った。眞白は笑顔で振り返り、再び人混みの中へと消えていった。
(夢って……まさかそんな訳ねぇよな……)
永遠は手元のペットボトルをもう一口飲むと、再び持ち場へついた。
*
執事メイド喫茶を運営している1年4組では、体調不良者の発生により教室内の人数が足りなくなり、柊がヘルプでウエイターを担当することになった。メイド服を身にまとった彼女は、慣れない接客にぎこちない笑みを浮かべながら、オーダーを取ったり、商品を運んだりしていた。
「すみませ〜ん! こっちもオーダーお願いしま〜す!」
「はい……少々お待ち下さい」
柊の控えめな声が、賑やかな店内を漂う。
「あら柊さん、とても可愛らしい格好をしていますね」
聞いたことがある声がして振り返ると、そこには美鶴が立っていた。普段の白衣ではなく、花がらのワンピースを身にまとっている。その姿は、文化祭の雰囲気に溶け込んでいた。
「美鶴さん……?! どうして……」
「一度来てみたかったんです。ほら、文化祭ってとってもキラキラした素敵なイベントじゃないですか」
美鶴はそう言いながら目を輝かせているが、現場にトラウマがあり、自ら近づかないようにしていることを知っている柊は警戒感を強めながら彼女をテーブルに案内した。その笑顔の裏に、何か別の意図があるのではないかと柊は勘繰っていた。
「今日はお一人なんですか」
「いえ、連れがいたんですが他の教室に顔を出すと言って別れたんです」
「連れ……?」
(本部の人間は全員任務に入っているはず……ということは外部の人間かしら……)
「柊さんは心配しなくて大丈夫ですよ」
美鶴はそう言って柊に笑みを浮かべた。
「美鶴さ――」
「これは迷いますねぇ……おすすめを聞いても良いですか?」
柊が何かを言いかけるのを遮るように、美鶴がメニューに目をやった。
「……おすすめだとこちらのアップルパイですね。学校と提携しているパン屋さんの人気メニューを提供しています」
「それは素敵ですね……! ではアップルパイとアイスレモンティーをお願いします」
「……かしこまりました。少し待っていてください」
美鶴の笑みの威圧感に観念した柊はアップルパイとアイスレモンティーのオーダーを通すためにその場を離れた。商品を用意して、美鶴の元に戻ると、彼女はスマートフォンで何かメッセージを送っていた。
「――お待たせしました」
「ありがとうございます! 美味しそうですね!」
柊が来たのに気づくとスマートフォンをカバンにしまった。その際に「あっ……!」と声を漏らし、カバンから小さな小袋を取り出した。
「いけない。忘れてしまうところでした。これを身に着けていただけないでしょうか」
「……この場で開けても?」
美鶴が頷いたのを確かめて、柊は訝しそうな顔をしながら袋を開けた。手のひらに出すと黒い石が金具に取り付けられている。
「これは……守り石ですか?」
「はい、黒瑪瑙を使っています。首から下げていただけると嬉しいのですが……」
(眞白に守り石を渡したことはきっと露見していない。だとしたらなんていうタイミングなのかしら……でもここで断ったら気を悪くするかも知れない……)
柊は美鶴の眼の前で首から掛けている雷刀が込められた水晶の紐を一度外し、黒瑪瑙の守り石と共に首から下げた。二つの石が胸元で静かに揺れる。
「これで良いですか?」
「はい、ありがとうございます」
柊が守り石を身につけたのを確かめると、美鶴は安堵の表情を浮かべた。
「では、ごゆっくりお召し上がりください」
柊は一礼して他の接客に戻ろうとしたが、「柊さん」と美鶴に呼び止められた。
「なんですか?」
「……気をつけてください」
美鶴の声は囁くように静かだった。その一言には、強い警告が込められているように感じられた。
「ありがとうございます。承知しています」
柊はその言葉の意味を読み取った上で、美鶴にそう伝えた。
店内の喧騒はまだ続いていたが、食事を終えた美鶴は時計をちらりと見ると、静かに席を立った。文化祭の賑わいが遠のくにつれて、彼女の表情は次第に冷静なものになっていく。美鶴は1階の昇降口で待っていた人物と合流した。
「美鶴、ありがとう。あれは渡してくれた?」
「えぇ、ちゃんと言う通り渡して来ましたよ。首から下げるところも確認してきました。それにしても、せっかく来たのですからあなたから直接渡したら良かったんです……聞いていますか?」
美鶴の言葉に彼は悲しそうに笑みを浮かべた。
【次話】84話 文化祭と視えぬ魂胆5-秘事は睫-
7月12日(土) 22:00頃更新
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