【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-82話 文化祭と視えぬ魂胆3-秘事は睫-
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駒葉高校の校門前では、入江、澪、璃玖、そして蒼空が話し合っていた。文化祭の賑やかさとは裏腹に、彼らの表情はどこか張り詰めている。そこへ、突如として鴇が現れた。
「ここにいる誰も気づいていないの?この場所から約300m離れた地点で邪霊が出現してるでしょ」
鴇の言葉は、まるで静寂を切り裂くかのようだった。彼の声には、周囲の喧騒をものともしない、強い意志が込められていた。
「マジ?」
鴇の言葉に、璃玖は引きつった顔をした。
「まあ麒麟と聳弧、索冥は感知能力が低いって聞いてるから仕方ないけど、キミが気づかないのは変だよね?」
そう言って鴇は澪の方を見た。その言葉には、どこか挑戦的な響きがあった。
「それは……」
澪は言葉に詰まった。鴇の指摘が図星であることを物語っている。澪の顔に微かな動揺が走った。
「キミなら半径500mは楽勝でしょう。じゃあ何故気づいてないのか? この高校内での察知能力を極限まで高めているからだよ」
「それって、他の察知を捨ててここの察知能力を高めているってこと?」
澪が沈黙を続ける中、璃玖が首をかしげた。
「そうだよ。キミは索冥が大事なんだろうけど、自分本位であまり能力を使わない方が良い。いざという時に何も守れなくなるよ」
澪に淡々と告げる鴇の言葉は、澪の核心を突いていた。その声は冷徹だが、そこには彼なりの忠告が込められているように聞こえた。
「あなたはあの情景を見ていないからそうやって言えるんですよ……! 大切な人が血に沈む光景を見ていないから……!」
澪が食ってかかろうとするのを、璃玖が両手で静止した。澪の瞳には、過去の悲劇がまざまざと蘇っているかのようだった。彼の声は震え、抑えきれない感情が溢れ出ていた。
「鷲尾サン落ち着いて。間宮サンにそれを求めるのは違うでしょ。前世のことを押し付けたってどうにもならないんだから」
「キミは索冥のことになると周りが見えなくなるね。せっかく見える眼を持っているのに。そんなんじゃ、いざと言う時に守れなくなるよ……ね、智大さん。誰か気づくか試したんだろうけど、これじゃあね」
鴇は璃玖の言葉を遮るように言った。その視線は入江へと向けられていた。
「鴇くん言い方が良くないよ〜。どちらを優先させるべきか決めかねてただけだって」
「校内は索冥と炎駒だけでも大丈夫でしょ。あの邪霊はボクが浄化してきて良いよね?」
鴇は入江に鋭い視線を飛ばした。
「……そうだね、悪いけどお願いできるかな」
鴇は入江の言葉を聞くと、一言も発することなく、邪霊が出現した場所に向かって走り去った。彼の行動には、一切の迷いが見られなかった。
「あのねぇ、いい加減覚えなよ。前世は前世、現世は現世なんだから」
璃玖が澪の肩を軽く叩き、諭すように言った。
「僕も心配……澪くん無理しないで」
蒼空が、兄の言葉に続いて心配そうに澪に語りかけた。黛兄弟の心配の言葉を聞いて、澪は悲しそうに笑った。
「本当に愚直なんだから、茅野サンを悲しませても知らないんだからね!」
璃玖は再び澪に忠告した。
「まだ話の途中のところ悪いんだけど、そろそろ配置につかないと……じゃあみんなよろしくね」
入江が時計に目をやり、全体の状況を見据えて促した。彼の言葉で、場の空気が引き締まる。それぞれの持ち場へと向かうべく、皆が動き出した。
――『「角端は分かってない!自分を大切にできないのに、他の人なんて大切にできる訳がないよ!』
澪は守護獣の來智の言葉を思い出し、俯きながら自身の担当である体育館へと足を進めた。
*
お化け屋敷を出店中の1年3組の教室。薄暗い空間に、不気味な飾り付けが施されている。おばけ役をしていた永遠は、次のお客さんがなかなか来ないことに疑問を抱いていた。
(あれ? お客を止める時間なんて想定されていたか……?)
周囲の喧騒が遠ざかり、静まり返った教室で、永遠はひとり思考を巡らせた。その時「永遠」という眞白の声が聞こえ、永遠は「あぁ、ここにいる」と反応した。
すると暗幕を避けながら眞白がやって来た。その手にはペットボトルが握られている。彼の顔には、どこか安堵したような表情が浮かんでいた。
「受付のトラブルで少しの時間だけお客さんを止めてるんだ。ほら、時間を測ってお客さん同士が合流しないようにしてたでしょう。なんだけど、お客さんが予想以上に殺到して、出口のカウントも忘れちゃって中にどのくらいのお客さんがいるか分からなくなっちゃったみたいで。ここで10分空けて仕切り直すって。クラスの連絡にもメッセージ来てたでしょう?」
眞白は状況を説明した。永遠は呆れたように頭を掻いた。
「悪い、気づいてなかった」
永遠の顔には、反省の色が浮かんでいた。
「はい」
眞白はそう言って永遠にペットボトルを差し出した。その気遣いが、永遠の心を和ませる。ペットボトルの表面には、冷たい水滴が光っていた。
「永遠のことだから驚かすのに一生懸命で全然水分取ってなかったでしょ? いくらエアコンで涼しくしているとはいえ、熱中症になっちゃうからちゃんと飲んで」
眞白は心配そうに永遠を見上げた。彼の性格をよく理解しているからこその言葉だった。
「あぁ、サンキュ」
永遠は手渡されたペットボトルに口をつけた。冷たいスポーツドリンクが喉を潤す。
「さっき柊と会ったよ。可愛いメイド服に身を包んでてね――」
そこまで聞いた永遠は、口に含んだスポーツドリンクを吹き出さないように必死に堪えた。
「え?! 今なんつった?! 柊がメイド服?!」
「そうなんだ。すごい綺麗だったよ」
眞白はにこやかに答えた。
「あいつ大丈夫なのかよ?! そんな慣れない格好して」
永遠の心配そうな声が響いた。
「永遠、お父さんみたいな発言になってるよ。そんなに心配しなくても大丈夫だって」
永遠の反応を見て、眞白は笑いを堪えながら言った。永遠は顔を赤くして反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。
「なら良いけどさ……なぁ、お前は今のところ問題ねぇよな?」
永遠は咳払いをして、話題を変えるように尋ねた。
「2人とも同じこと言うんだから……大丈夫だよ。柊がお守りもくれたしね」
眞白は肩をすくめて答えた。そして、首元から小さな首飾りを取り出して永遠に見せた。緑青色の孔雀石が、暗闇の中で微かに光を放っていた。
「お守り?」
永遠は訝しげに首飾りを見つめた。
「守り石って言うんだって」
「なんかこれ込められてねぇか?」
永遠は首飾りに手を伸ばし、その石に触れると、何かを感じ取ったように眉をひそめた。
「柊が何かの術を込めてくれたって言ってたよ」
眞白は屈託なく答えた。その言葉に、永遠の表情はさらに険しくなる。
「術……? あいつ変なもん仕込んでねぇよな?」
永遠の口調には、焦りと疑念が混じっていた。
「流石に大丈夫でしょう……それとも何か気掛かりなことでもあった?」
眞白の言葉に、永遠は守り石から目を逸らした。彼の脳裏にはあの貼り紙が蘇っていた。
【次話】83話 文化祭と視えぬ魂胆4-秘事は睫-
6月28日(土) 22:00頃更新
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