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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-81話 文化祭と視えぬ魂胆2-秘事は睫-

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いよいよ当日を迎えた駒葉こまば高校文化祭。校舎は熱気に包まれ、生徒たちの活気で満ち溢れていた。そんな喧騒けんそうの中、眞白ましろは人混みを進んでいた。

ふと視線の先にしゅうの背中を見つけ、声を掛けた瞬間、眞白の目は大きく見開かれ、驚きの声がこぼれ落ちた。凛とした執事服ではなく、ふんわりとした可愛らしいフリルのメイド服をまとい、戸惑うように立つ柊がそこにいたのだ。

「……何か?」

眞白の驚きに満ちた視線を受け、沈黙の後、柊はわずかに顔を赤らめながらも眞白を鋭く見つめた。その表情には、若干の恥じらいと気まずさがにじんでいた。

「いや、執事喫茶って聞いてたから……」

眞白はまだ驚きから立ち直れない様子で、曖昧あいまいに言葉を濁した。

「執事喫茶だったんだけど、メイドも混ぜた方が盛り上がるからって何故か執事メイド喫茶に……私が準備にあまり顔を出せなくて気づかなかったのも悪いんだけど……」

柊は言い訳をするように早口でまくし立てるうちに、耳はみるみる赤くなり、顔まで熱を帯びて紅潮した。その様子は、普段の冷静な彼女からは想像できない、どこか可愛らしい一面だった。

「柊、似合ってるよ。可愛い」

眞白はいたずらっぽく、しかし心からの笑顔で柊の耳元にそっとささやいた。その言葉が周囲の女子生徒たちにも届いたのか、小さく黄色い歓声が漏れ聞こえ、場に甘い空気が漂った。

「そういう冗談を真顔で言うのは止めてくれる?」

柊は再び眞白を見つめた。その目には、からかわれたことへの照れ隠しと、眞白の言葉を鵜呑うのみにしない警戒の色が混じっていた。

「え?冗談じゃないよ。本当にそう思ってるから」

眞白はひとみをまっすぐ見つめ、偽りのない笑顔で答えた。柊は小さく咳払せきばらいをした後、眞白の手に握られた看板に目をやった。クラスTシャツと同じフォントで『1年3組お化け屋敷』と書かれていた。

「……眞白はこれから呼び込み?」
「そう、せっかくだからたくさんの人に来てもらいたいしね」

眞白は屈託のない笑顔で答えた。

「後で顔を出せそうだったら行くわ、仕事次第だけど」
「……本当に無理だけはしないようにね。柊は自分をおざなりにしがちだから」

眞白は心底心配そうな表情で柊の顔をじっと見つめた。

「……みんな同じことを言うんだから」

柊はぽつりとつぶやいた。その声は小さく、眞白の耳には届いていなかったらしい。

「え?今なんて?」
「何でもないわ……眞白、今のところは特に問題ないわね?」

柊は言葉を区切ると、再び眞白の耳元に顔を寄せ、念を押すように低くささやいた。

「大丈夫だよ」

眞白の力強い言葉を聞くと、柊は安堵したようにポケットから小さな首飾りを取り出した。それは、深く美しい緑青色の孔雀石くじゃくがあしらわれたものだった。

「これを首から下げておいて。回数制限はあるけれど、眞白の身を守ってくれるはずよ」
「ありがとう。お守り?」

眞白は首飾りを不思議そうに受け取った。孔雀石のひんやりとした感触が、指先から伝わってくる。

「守り石と言うの。防護の術をこめてあるわ」

柊の言葉に、眞白はわずかにぎょっとした。

「それは、ちょっと大げさじゃない?」
「念のためよ。私たちや永遠が常に一緒にいられるわけではないから」
「……わかった。それで柊の心配が少しでも減るなら付けておくよ」

眞白は柊から孔雀石のついた首飾りを受け取ると、すぐに首から下げ、服の中にそっとしまい込んだ。

「そういえば、永遠は何の係だったかしら」

柊はふと何かを思い出したように尋ねた。

「今日は脅かし役だよ。特殊メイクをバッチリしてもらって、みんなすごく怖がってくれているみたい」

眞白はどこか楽しそうな表情で答えた。

「脅かし役……?大丈夫かしら?永遠自身お化け屋敷が苦手なのに」

柊は途端に心配そうな表情を浮かべた。

「他の人や自分のメイクされた顔を見るわけじゃないから大丈夫って言ってたよ」

眞白はクスクスと笑った。

「茅野さーん!ちょっとお願いがあるんだけど!ここは代わるから、クラスの方に来てくれないかな?」

その時、焦ったような声が聞こえ、柊のクラスメイトらしき女子生徒が慌ただしい様子で駆け寄ってきた。

「眞白、ごめんね。ちょっと行ってくるわ」

柊は眞白に申し訳なさそうな表情を向けた。

「うん、分かった。じゃあ、また後でね」

眞白は笑顔で手を振った。柊も笑顔でうなずくと、流れるような足取りで教室の方へと急ぎ足で向かっていった。柊のメイド服のフリルが、軽やかに揺れるのが見えた。

「わぁ〜!!!お兄ちゃん、すごいね!」

駒葉高校の校門前で、蒼空そらは目をキラキラと輝かせ、無邪気に感嘆の声を上げた。しかしその隣で、璃玖りくは深い溜め息を一つ吐いた。

「ああ、そうだな……」

璃玖は力の抜けた声で相槌あいづちを打った。

「蒼空くんは、本当に嬉しそうだねぇ……」

入江いりえはそんな璃玖の様子を察したのか、困ったような、しかし優しい笑顔で言った。

「蒼空には悪いけど、本当は安全なところで留守番していて欲しかったよ……こんな危険な可能性しかないところに、連れてきたくなかったのに……」
「仕方ありませんよ。冴木さえきさんも急遽きゅうきょ配置につくことになりましたし、万が一の際に美鶴みつるさんお一人だと守り切ることも難しいでしょう……それに、お兄ちゃんが出かけるのに、自分だけお留守番と言われても、蒼空くんが悲しむのは当然です」

みおは冷静に、そして淡々と状況を分析するように諭した。

鷲尾わしのおサン、俺が惨めになるからそれ以上は言わないで!!!」

璃玖は頭をきむしった。

「みんな、今日の警備体制は頭に入っているね?夏都なつくんには芝山しばやまさんと社長室で待機してもらっている。澪くんは体育館、璃玖くんは野外エリア、在校生の3人には校舎内を重点的に警戒してもらう。俺は、この校門のところで怪しい人間がいないか目を光らせているからさ」

入江は周囲の状況を把握しながら、明瞭な声で指示を出した。

「あと、蒼空くんは俺と一緒にいてね。人が多いから、はぐれないように気を付けて」

入江は最後に、蒼空に優しく語りかけた。

「うん!わかった!」

蒼空は元気いっぱいの声で返事をした。

「ねぇ、鷲尾サン、大丈夫?なんだか顔色が優れないみたいだけど……」

璃玖は隣に立つ澪の青白い顔に気づき、心配そうに声をかけた。

「……大丈夫です」

澪はそう答えたものの、じりじりと肌を焼くような強い日差しの下で、その顔色は明らかに悪かった。額にはうっすらと汗がにじみ、顔から血の気が引いているように見えた。

「――それだけ感知能力を高めれば、そりゃ生気を消耗するでしょ」

不意に背後から声が聞こえ、澪が振り返ると、そこにはときが立っていた。彼は周囲の生徒たちが着ている鮮やかなクラスTシャツには袖を通しておらず、いつも通り制服を身にまとっていた。

「あれ?鴇くん、どうしてここに?校内の巡回を頼んだはずだよね?」

入江が、その意外な登場に声をかけた。

「ここにいる誰も気づいていないの?この場所から約300m離れた地点で邪霊が出現してるでしょ」



【次話】82話 文化祭と視えぬ魂胆3-秘事は睫-
6月21日(土) 22:00頃更新


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