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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-71話 呪いと呪い2-燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん-

前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編

2学期最初のテストの後、永遠とわしゅうの2人は同じ学年の間宮鴇まみや ときという男子生徒から伝承役でんしょうやく繁子つぐこについて聞かされ、契約を持ちかけられていた。

「ボクは五大神官が嫌いでね、この仕組みを壊したいんだよ。五大神官一族なんていなければ、伝承役や繋子だって要らないんだからね。でも残念ながら、ボクはこののろいによって五大神官一族に手をかけることができない。それにったところでこの悪習は直らない。だからボクは五麟キミたちのことを必要としている……もし協力してくれるなら、ボクは怨霊おんりょうの浄化を手伝うよ。どうせ人手は足りてないんでしょ?」
「……それが契約の条件?」

柊が警戒しながら尋ねると、鴇は真剣な面持ちでうなずいた。

「そう、悪くない条件でしょ。索冥キミと角端は五大神官の仕組みの被害者でもあるんだから」
「……五麟ごりんうわさは知っているのでしょう?私達、世界を破滅させようとしているかも知れないけど?」

柊の言葉に永遠はぎょっとしたが、鴇が動じる様子は一切ない。

「その噂が本当なら、太陽のげきを刺し違えてでもるだけだよ。でもこの数ヶ月キミ達を見てきたけど、そこらの神官よりよっぽど信用できそうだった。使えるものはトコトン使わないとね」

ここで、鴇は小さく折りたたまれた書類をポケットから取り出して差し出した。

「これが伝承役である1番上の兄からキミたちの上長にも届いているはずだよ」

柊が受け取り一目すると、記載されている文面を読み上げた。

「新伝承役間宮隼まみや はやぶさの名のもとに、間宮鴇を太陽の覡と五麟を監視する繋子として任命する。期間は三十年、もしくは間宮鴇が死ぬまでとする。
繋子の左胸には呪いが宿り、以下を禁止している。受け入れの際にはゆめゆめお忘れなきよう。

一、恣意的しいてきな理由で対象と他の繋子の対象を殺すことを禁ずる
一、恣意的な理由で対象を助けることを禁ずる
一、伝承役並びに他の繋子との連絡を取ることを禁ずる

なお、対象や自身が他の繋子の対象によって危険にさらされる場合には正当防衛を認める。
以上」

「……これって対象同士が殺し合うことと対象が繋子を殺すことは禁止してないよな。だから、俺達と繋子が神官他の繋子の対象から襲われた時は正当防衛を認めるって書いてあんのか。本当に何十年と監視させるためだけの決まりだな……!」

永遠が怒りの声をあげると、鴇は鼻で笑った。

五麟キミたちに拒否権はないよ……もっとも、永遠キミが拒否しようと関係ないけどね。これはもう決まったことだから」
「なんだと……!?」

――ブー……ブー……。
一触即発の空気の中で柊のスマートフォンが振動した。

「キミ達の上長でしょう?出なよ」

鴇に促されて柊は通話ボタンを押した。

茅野かやのです……はい、一緒にいます。……分かりました。彼と本部へ向かいます」
「どうだったの?」
「……あなたを本部に連れてくるようにとのことだったわ」

柊はため息を吐くとスマートフォンを制服のポケットにしまった。

「じゃあ、向かおうか。せいぜい歴史のやみに堕ちないでね」

鴇は不敵な笑みを浮かべた。

永遠と柊、鴇の3人は裏山を下山して、車で待機していた入江いりえと合流した。

「2人共お疲れ様☆鴇くんは……久しぶりだね」
「入江さんすみません。面倒をかけて……」と柊が申し訳なさそうに言った。
「道中で何かあってもいけないから仕方ないよ。ほら、3人とも乗って!」

入江に促されて助手席に柊、後部座席に永遠と鴇が乗り込んだ。入江が車を発車させた後、鴇はバックミラーを見ながらフッと笑った。

智大ちひろさん、こういう形で再会したことを気にしてるんでしょ。ずっと目線を合わせようとしないのはそのせいかな」

鴇の言葉を受け、赤信号になったタイミングで入江が鴇の方に振り向いた。

「……気にするなって方が無理でしょ。俺が伝承役を継いでたらこうなってないんだし」
「他の兄弟は知らないけど、ボクにとってはそれすらも都合が良かったんだよ。もし1番上の兄が伝承役になってなかったら、ボクは政略結婚させられるところだった。智大さんのおかげでそうならずに済んだんだから……気にするくらいだったら、ボクの目的を果たすために協力してくれない?」
「なんだか弱みを握られた気分……」

観念したのか、入江はハンドルに顔を突っ伏した。

「ところで、索冥さくめいはどうして”茅野”って名乗ってるの?別に”松任まつとう”って名乗ってても良かったんじゃない?」

遠慮なく尋ねる鴇に対し、永遠はハッとして柊の方を見た。

――『松任家は五大神官一族の一つで千年前から続く名家なんだよ。前世では五麟と太陽の覡を容認していた穏健派だったけど、確か数年前にお家騒動があって、分家の人間はほとんどいなくなってるって聞いたよ。今の当主はどの派閥にも入らないから何をしようとしているか分からないって、芝山家の神官も気味悪がってた……』

以前璃玖りくが言っていたことが永遠の頭を過った。

「私だけ茅野と名乗っているのは、神術の使えない私が松任家の権力争いに巻き込まれるのを、両親が危惧きぐしたからよ。”茅野”姓を名乗り始めた時は、まだ私は五麟として覚醒かくせいしていなかったから……」
「じゃあ、実の兄が神官であることは知ってるんだね?」

(核心的な質問をずけずけと……!)
永遠は内心焦ったが、鴇は繁子という立場上こういったことには慣れているのか、気にする素振りを見せなかった。

「兄が神官であることは知っているわ。というか《《そういう一族だから》》。神官の集まりにも何度か行ったことがあるし……」
「ふーん、じゃあ今の君を松任の人間が知ったら面白くないだろうね」
「……そうかも知れないわね」

柊は振り向くことなく、小さな声で言った。

「ただ今戻りました」

永遠達が本部に到着すると、芝山しばやま冴木さえきみお璃玖りくの4人はすでに揃っていた。

「君が間宮鴇くんか。事前に茅野とたちばなに共有された情報は他の五麟にも話している」
「そっちは芝山しばやま家の変わり者……かな。五麟抹殺派の芝山家の人間なのに五麟に加担してるんでしょ?」

芝山に対する鴇の発言で、シェアハウスのリビングは一気に緊迫した空気になった。

「みんながみんな殺気立つの止めてくれる?!」

耐えきれなくなった璃玖がしかめっ面をしながら言った。

「伝承役については存じ上げてましたが、間宮家の繋子制度は初めて知りました」
「わざわざ中立派の伝承方法なんて記録に残さないよ。間宮家が伝承役に選ばれるのは180年振りだしね。君のところの生霊いきりょう制度だって似たようなものでしょ?……鷲尾わしのお家本家の次男さん」

視線がバチバチな澪と鴇の2人を、芝山が「そこまでだ」と制した。
その場にいる全員の視線が芝山に向いたところで、芝山は咳払せきばらいをひとつしてから話し始めた。

「今日集まってもらったのは他でもない、間宮鴇くんの受け入れについてだ。結論から言うと、俺達に拒否権はない。伝承役という存在はとても重要視されているし、ここで受け入れを拒否すれば間宮鴇くんは死に、彼が受けていたのろいは五麟対象者の誰かに転移する。一族でもないのに呪いを受けたら何年も生きられないだろう。本人の前で申し訳ないが、受け入れるしかない状況だ」

芝山の言葉で、その場が静まり返った。
静寂を破ったのは鴇だった。

「索冥と炎駒えんくには伝えたけど、ここに住まわせてもらう以上、怨霊の浄化は手伝うよ。ただし、今の五大神官の仕組みを壊すための協力はしてもらうから」
「……君の意図はなんだい?」

冴木の問いかけに鴇は口元を緩めた。

「そもそも神官という存在はどうして生まれると思う?人々を守り、神に祈りを届けるためだよ。私利私欲に動く神官、自らの立場を守るために動く神官には反吐が出る……だから壊すんだよ」
「……いいだろう。僕は君のことが気に入った。受け入れの要請を受けようじゃないか」
「冴木さん?!」

永遠は冴木が誰よりも先に承諾したことに驚きの声を上げた。

「キミならそう言ってくれると思ったよ。キミは今も昔も神官が嫌いなんでしょ?」
「発言を差し控える、とだけ言わせてもらおうかな」

冴木はそっぽを向きながら答えた。

「……芝山さんの命令なら従うだけだわ」
「仕方ないなぁ!蒼空そらのこともあるし協力するよ」

柊と璃玖が賛同したのを確かめてから、鴇はゆっくりと永遠の方を見た。

「キミは?」
「……わーったよ」
「この流れの中で恐縮ですが、俺は賛同しかねます。監視されるのはやむを得ませんが、本当にこの男と寝食を共にするつもりですか?……俺には考えられません」

澪は鴇の方をじっと見つめながら断言した。

「理由を聞いても良いかな」
「覚醒してからずっと誰かの気配を感じていました……あなたの気配と一致しています。俺を監視していたのはあなただったんですよね?」
「そうだよ」
「シェアハウスに監視カメラや盗聴器を仕掛けていたのは?」

澪から鋭い目で見られても鴇は嬉しそうにしている。

「数ヶ月監視している間、キミだけがボクの存在に気づいていた……知ってる?監視カメラと盗聴器を仕掛けたのはキミの部屋だけなんだよ」
「ご存知ですか?あなたがしている行為は犯罪ですよ?」

その言葉を聞いて鴇は吹き出し笑いをした。

「流石にボクだってそれは分かっているよ。だからこそ、五麟の繋子になる条件として1番上の兄に頼んだんだよ。兄から警察に依頼をして設置してもらったんだ。芝山さんも周知の事実だよ」
「一体どうして……」
「懐に入り込むにあたって、一番危険視してたのがキミだったからだよ。何と言っても、キミは《《あの》》鷲尾家の人間だからね。でも杞憂きゆうだった。キミは索冥に骨抜きにされていたからね――」

鴇の言葉を受け、澪の殺気がシェアハウスに充満していく。

「そうですか……残念です。無断で監視カメラと盗聴器を仕掛けられていただけではなく、柊さんとの仲までそのように言われるとは……俺はあなたのことが信用できません」
「こんなに正直に打ち明けても、ボクのことが信用できないかい?困ったな。全員の同意を得ることがあの人との条件なんだよね……仕方ないから、力技で行くよ。角端、ボクと手合わせをしないかい?」
「……そんなことをして伝承役は納得するんですか?」
「もちろん。もしキミが勝ったら、ここには住まず、ある程度の距離を取って監視するよ。でもボクが勝ったらシェアハウスに住んで、キミたちと一緒に行動することを許可してほしい……良いよね、本部長」
「監視カメラと盗聴器をしかけたことを俺もびなければならない。すまなかった。澪が良いなら認めよう」

鴇の提案を芝山が承諾したことで、澪は渋い顔をした。

「……分かりました」
「澪さん……!」

柊が心配そうな声を上げたが、鴇は澪の言葉に嬉しそうに笑った。

「久しぶりに楽しめそうだね」




【次話】72話 呪いと呪い3-燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん-
1/31(金)22:00頃更新


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