【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-72話 呪いと呪い3-燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
間宮鴇の受け入れを澪が拒絶をしたことで、決闘をすることになった鴇と澪。永遠達が地下の修練場に移動すると、2人はすでに中央で対峙していた。
(間宮は澪さんを殺しやしないだろうけど、手足の一本を切り落としそうな目をしてるよな……澪さん、本当に大丈夫なのか……?)
永遠達が固唾を飲んで見守る中、鴇が口火を切った。
「キミは幻術と剣術の使い手なんだよね」
「……だったらなんですか?」
「ボクは幻術が嫌いなんだ。幻が作る嘘偽りがね。だから幻術は使わせない……ほら、来なよ」
そこまで鴇が言った瞬間、澪は刀を発動して振り下ろした。
――キィィィン!
金属音がしたかと思うと、鴇は三枚ずつ刃のついた両手の鉤爪で澪の刀を受けていた。
「――この一撃を受け止めるとはやりますね」
「まあね……ねぇ、ボクを相手に甘い考えだと死ぬよ?」
鴇が鉤爪で刀を弾いて反撃しようとしたので、澪はすかさず距離を取った。
「神官だから神術を使う……だから術者は空くと思った?ボクをそこら辺の神官と一緒にしないでくれる?」
鴇はそう言うと澪に向かって走り出し、一気に間合いを詰めた。右の鈎爪を澪に刀で止められると、今度は左の鈎爪で澪の顔を斬ろうとする。
「――!!!」
澪は咄嗟に身を引いたが、鈎爪が右頬をかすめ血が伝っていく。
「どうしたの?殺す気で来ないと死んじゃうよ」
鴇は左右の鉤爪で攻撃を繰り出しながら言うが、澪は刀で攻撃を受けながら何とか躱し続けるのがやっとだった。
「ねぇ、もしボクが強い怨霊だったらどうするの?ボクらの武器は生気を込めないと怨霊は斬れない。生気を込めていない状態ですら、刀を振るうのが精一杯に見えるよ」
「そういうあなたは神官なのに、接近戦に優れているんですね」
「繁子はいつ誰に命を狙われるか分からないからね」
澪の言葉に、鴇はニヤリと笑った。
「あいつ、戦闘能力半端なくないっすか?早くあの動きを封じないと……」
「澪くんは幻術を使わないんじゃない……おそらく使えないんだ」
「どういうことっすか?」
永遠は険しい顔をする冴木を見ながら尋ねた。
「幻術を発動するには意識を集中する必要があるんだ。僕が樹海を使った時を覚えているかい?あんなスピードで攻撃を受け続けていたら、攻撃を躱すのに必死で幻術を発動できない。間宮くんはそれを分かった上で攻撃を続けている」
「マジすか……」
永遠は2人の間の攻防を知り、驚きの声を上げた。
「理屈で分かっていてもできることじゃないんだ。でもそれを可能にする身体能力とセンスには驚くよ。ただし……あの武器だと神術を発動するための印は組めないんじゃないかな」
「確かに印を組むならあの鉤爪は邪魔っすね……」
――ガキィィィン!
空中で激しく金属音がした後、鴇と澪がそれぞれ距離を取って着地した。
「だいぶ息が上がっているね」
「……ご心配ありがとうございます」
鴇は涼しい顔をしているが、澪は肩を上下させている。
「ねぇ、距離を取ってると思って油断してない?」
「……え?」
「光風霽月」
――ズババババ!
鴇が言霊を唱えて鉤爪を振り下すると、半月状の光が突風と共に澪に襲いかかった。
「ぐっ……!」
澪の血は修練場の広範囲に渡り飛散した。大ダメージを負った澪はその場から動くことができない。
「澪くん!」と冴木が思わず叫んだ。
「あいつ……印なしで神術を発動した……?!」
驚きを隠せない永遠に対し、鴇はフッと口元を緩めた。
「キミたちは邪霊と対峙したんじゃないの?」
「邪霊……?」
永遠が首を傾げると鴇は不敵に笑った。
「神官達の間では邪悪な炎を宿す怨霊を邪霊と呼んでいる。邪霊は印なしでも神術を発動してただろう?アイツらの起源とは異なるけど、やってることは一緒だよ。ボクは印を組まなくても神術を発動できる」
澪は辛うじて立ち上がったが、鴇は慈悲をかける様子もなく間合いを詰めていく。
「茅野サン、あいつ止めなくて良いの……?このままだと鷲尾サン死んじゃうかもしれないよ……?」
柊と共に状況を見守っていた璃玖が思わず口を開いたが、柊は黙って様子を見守っている。
「ねぇ、キミはどうして第二解放をしないの?したらまだマシなのに……知ってるよ。守護獣に逃げられてできないんだよね」
「え?澪さんって第二解放できたんすか……?!」
「それは僕も初耳だ……」
永遠と冴木がコソコソと言い合っていると、鴇がくすりと笑った。
「おや、キミの仲間は知らなかったみたいだね」
「それは……」
澪の頭の中で東櫻大学の100周年記念祭の時に再会した來智との会話が思い浮かんでいた。
――――――
「そうでした。俺は……」
澪は芝山が待機している本館に向かっている途中で前世の記憶が一気に蘇っていた。索冥や五麟、太陽の覡との出会いや別れ、そして自分の死。目が回りそうな程の大量の情報にめまいがした澪は、その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。
「よく分からないが、殺すには絶好の機会だ……!死ね!!」
兄・兼路が寄越した刺客の神官は嬉しそうな声を上げる。澪は向けられた殺意に反応して顔を上げた。
「古の水の力よ、我、角端と共に闘わん」
澪が閉じた目を再び開けると、瞳は藍玉に輝いていた。
「なんだ、その目は?!お前一体――?!」
「――青藍氷水」
澪が藍眼を発動すると、神官は「ギャァァァァァ!!!」と絶叫してその場に倒れ込んだ。澪は神官が起き上がって来ないことを確かめると呼吸を整えた。
(覚醒してすぐに術を使ったから負荷が……)
「角端、大丈夫……?」
聞いたことのある声がして澪が目をやると、黒い子鹿のような生き物が縮こまっている。
「來智……ですか?」
澪の守護獣の來智はぷるぷると体を震わせながら、恐る恐る澪に目線を向けた。
「……なんで疑問形なの?」
「すみません……記憶の中にあった姿と違ったもので……」
澪の言葉に、來智はショックを受けた様子で項垂れた。
「角端の生気が足りないと完全な姿にはなれないんだよ」
「そうだったんですね……すみません。では――」
「待って」
來智は差し伸べられた澪の手を拒絶した。
「……どうしたんですか?」
「角端は第二解放をして戦いたいの?……索冥のために」
「もしそうだとしたら?」
「索冥のために戦っても良いよ。でも、角端はもっと自分の命を大切にして」
「あの人は俺のせいで死んだんですよ。あの人の命以上に大切なものなんてありません」
澪が怒りで声を震わせているのを來智も感じ取ったのか、ゴクリとつばを飲み込むと大きく息を吸った。
「角端は……千年経っても全然分かってないじゃないか!」
「分かってください、來智。俺は二度とあのような後悔をしたくないんです」
澪に説得されても、來智は瞳に涙をいっぱい溜めている。
「角端は分かってない!自分を大切にできないのに、他の人なんて大切にできる訳がないよ!僕がいたら、角端は第二解放を使って無茶をするに決まってる!だったら僕なんていない方がいいんだ!」
「來智、待ってください――……!」
來智は振り返らずに澪の元を去っていった。
――――――
(第二解放ができないことに、これほど悲観したことはありませんね……)
鴇が攻撃を仕掛けてくるのは分かっていたが、澪の体は思うように動かない。
「そうだ、ひとつ確認しておきたいんだけど……キミは生霊がいつ2体になったか知っているかい?ボクが知っている記録だと、継承されていた生霊は1体のはずなんだけどね……」
「……!まさか、そんなはずは……」
「ふーん。やっぱりキミは何も知らないんだね……もういいや、自分の実力不足を後悔すると良いよ……光芒一閃」
――ドカァァァァァン!!!
鴇が澪に放った光線は、突如出現した光壁に阻まれた。
「白光……あれって索冥……?」
璃玖が柊に確かめると、柊は首を横に振った。
「私じゃない……私が発動しようとした時には、すでに誰かが防護術を張っていたわ」
「五麟で光系の術を使えるのは索冥しかいない……じゃあいったい誰が……」
光壁が途切れて澪を庇うように立っていたのは芝山だった。
【次話】73話 呪いと呪い4-燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん-
2/14(金)22:00頃更新
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