【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-73話 呪いと呪い4-燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
本部地下の修練場で決闘をすることになった澪と鴇。トドメの攻撃の際に仲裁に入ったのは、五麟の4人ではなく本部長の芝山だった。
「間宮……もう良いだろう。これ以上の戦いは無用だ」
「本部長は神官としての力を取り上げられたって聞いてたけど?」
「……神術が使えないだけさ」
「へぇ、印なしで防護術は使えるんだね。それなら現場で十分戦力になりそうだけど」
「防護術だけでは足手まといになるだけだ。お前だってわかっていて言ってるんだろう?」
芝山が険しい顔をする一方で、鴇は喜びで顔を歪ませた。
「今はそういうことにしておくよ。本部長の実力を知ることができたのは収穫だった。角端の実力もわかったし、良い機会だったよ。それに比べて……炎駒と聳弧は手を合わせるまでもない。弱いということを自覚しなよ」
「は?!」
「橘くん、落ち着いて」
冴木は鴇に飛びかかろうとする永遠の体を押さえた。
「聳弧に至っては神官とも邪霊とも戦えないんでしょう?このまま任務についていたら、死ぬのは時間の問題だよ」
「君に言われるまでもないさ」
冴木は苦悶の表情を浮かべながら言った。
鴇は何も言わずに視線を落とすと、今度は璃玖のことをじっと見つめた。
「……なに?」
「キミは体躯が一番の問題のようだ。時が解決してくれるとは思うけどね」
「……そんなの俺が一番分かってるよ」
璃玖は拗ねて頬を膨らませた。
鴇はそんな璃玖を見つつ大きく伸びをすると、「ねえ聳弧、部屋に案内してくれない?」と冴木に声をかけた。
「冴木さん!あんなやつの世話焼く必要ないっすよ……!」
「良いんだ、橘くん……分かった、案内しよう」
そう言うと、冴木は鴇を連れて修練場を出ていった。
「澪さん、大丈夫ですか?」
柊が澪の怪我の状況を確かめていると、澪は「不甲斐ないところをお見せしてすみません」と俯いたまま答えた。
「致命傷はなさそうですね。傷も浅いですし、これなら数日で回復すると思います……殺すつもりはなかったのでしょう」
「柊さん……來智の件、お伝えできていなくて申し訳ありません」
「澪さんの守護獣は來智というんですね……守護獣はみんな憑依型だと思い込んでいました」
前世で索冥の死後に第二解放を取得した澪は、知らないのも無理はないと憂いを帯びた表情を浮かべた。
「來智は随獣型で……駒葉市のどこかにいることは分かっているのですが……」
「みんなで探しましょう。その前に手当てをしなければ……立てますか?」
柊がそう言って澪に手を差し伸べると、澪は頷いて手を握りつつ立ち上がった。
「永遠はどうする?」
「俺、少し訓練してからにするわ。先に戻っててくれるか?」
「……分かった。澪さん、行きましょう」
柊と澪が修練場を後にすると、残っていた璃玖が永遠の前で足を止めた。
「ねぇ、あんなこと言われて悔しくないの?」
――『炎駒と聳弧は手を合わせるまでもない。弱いということを自覚しなよ』
永遠は鴇の言葉を思い出して拳を強く握りしめた。
「悔しいに決まってるだろ……!!!」
「じゃあ、強くならないとね」
璃玖は永遠の反応を見てニヤリと笑った。
*
夏休み明け最初のテスト後に間宮鴇が現れてから2週間が経った。駒葉高校では明後日の文化祭に向けて準備が佳境を迎えていた。今日と明日の2日間は準備のため授業が休みとなる。生徒達はクラスや部活動の催し物の準備に追われていた。
文化祭実行員の井上遥大が全体の統率を取っていたが、衣装やメイク、お化け屋敷の設計を担当する装飾係の作業の遅れが大きくなっていたこともあり、平沢美沙がリーダーとして陣頭指揮を取ることになった。
「ちょっと!ここのパーツがまだ出来てないじゃない!くっつけるのは早いわよ!あ、それはこっちに置いておいて!」
美沙の指示が1年3組に響き渡り、大石華奈と吉川葵は惑星のように美沙の周囲を行ったり来たりしている。
「平沢、悪いな。俺が上手く仕切れなかったばっかりに……」
「井上くん一人の責任じゃないわ。みんなが任せっきりにしてしまったのもいけないのよ。井上くんは塾の時間でしょう?後は任せて!」
井上が申し訳なさそうに教室を出ていくと、美沙はくるりとクラスメイト達の方に向き直った。
「今日時間が空いている人は悪いけど、装飾準備を一緒にやってくれると助かるわ!塾とかで帰宅時間が迫っている人は声をかけてくれる?」
「平沢めっちゃ張り切ってんな……」
「俺今日発売のゲームがあるから帰りたいんだけど……」
指示をされた男子生徒達が愚痴をこぼしている。
「帰りたい人は帰ってよくない?」
「みんな暇じゃないのに〜」
窓際では女子生徒達が気だるそうに話をしている。
(うちのクラス全然団結できてねぇな……本当に間に合うのかよ)
「ねっっむ……」
永遠は眠い目をこすりながら、お化け屋敷に使用するゲートを釘ととんかちを使って組み立てていた。
すると、接合する木々を固定して持っていた眞白に声をかけられた。
「永遠、寝ぼけながらやってたら自分の手を叩いちゃうよ。代わろうか?」
「悪い。代わってもらえるか?」
「アルバイト大変なの?」
「いや、バイトの方は落ち着いてるんだけど、トレーニングしてたら気づいたら連日朝になってて……」
「無理しすぎじゃない?何かあったの?」
眞白は心配そうに永遠のことを見つめた。
「いや、俺が実力不足なだけ……」
(黛がやった技、未だに習得できてねぇんだよな……もう2週間経つのに)
――――――――
「じゃあ、強くならないとね」
鴇と澪の決闘後、弱いと罵られた永遠に璃玖が言い放った。
「俺もついに第二解放を習得する時がきたってことか!?」
「それは時間がかかり過ぎるよ。それより炎駒はもっと炎をうまく使えるようになった方が良いって。今は朱槍から炎を出すだけでしょ」
「まあ、そうだな……って、前世の俺はそれ以外の使い方もしていたのか?」
なんで今まで五麟の誰かに聞かなかったんだろうと疑問に思いつつ、永遠は璃玖に尋ねた。
「もちろん。じゃなかったら太陽の覡の右腕になれないでしょ?とりあえず前世の炎駒がやってとこまではできるようになったら?」
「前世の俺はどこまで朱槍を使いこなしてたんだ?」
「武器に囚われすぎない方が良いよ……活発発地!」
――ドドドドドド!
璃玖が言霊を唱えると璃玖の周りの地面が隆起して、修練場の天井に手が届きそうな高さまでそびえ立った。
「は?!地面が……!」
「炎駒は自分の能力を知らなさすぎだよ」
璃玖が地面から飛び降りると、今度は着地地点の地面が隆起した。璃玖はその上にストンと降り立つと、高さがどんどん下がっていった。
「今、地響発動したか……?」
「発動しなくてもここまではできるよ。駒葉高校で初めて会った時に土の壁を出したじゃん。でも、あの時地響は発動してなかったでしょ?」
「確かに……」
頷く永遠に対し、璃玖は得意そうな顔をしている。
「さっき芝山サンがやったのはどういう仕組みなのか俺も分からないけど、言霊を唱えるタイプならアンタにもできるんじゃない?前世でやってたんだし」
「本当に俺やってたのか……?」
永遠の言葉を受け、璃玖は呆れた様子で大きなため息をついた。
「あのねぇ!内裏の中でそんな大きな槍持って歩ける訳ないでしょ?!あんな柄の長い武器を室内じゃ振り回せないし!たいていの護衛は朱槍なしで対応してたの!」
「そうなのか……?」
「とりあえず朱槍なしで発動する訓練したらいいよ。そしたら狭い室内でも対処できるから。じゃあ、俺は塾があるしもう行くから!」
「あの……ありがとな」
永遠が礼を言うと、つかつかと歩き出していた璃玖がピタリと止まって振り向いた。
「べ!別に俺はどうでも良かったけど!せいぜい頑張れば!?」
――――――
永遠は鴇が来てからの2週間、シェアハウスに泊まって訓練を重ねていた。その間は鴇が任務に入っていたのと、柊や澪が永遠の訓練を優先していたおかげで永遠は訓練に集中していたが、未だに習得できずにいた。
永遠の様子を見るや否や、「橘くん!体調が悪いの?!」と叫びながら心配そうに美沙が飛んできた。
「待てって、平沢……本当に大丈夫だから――」
永遠はそこまで言うと、見えた景色を確かめるために、窓を開けて身を乗り出した。
(プールに結界が張られている……もしかして怨霊!?)
「橘くんどうしたの?急に窓から身を乗り出して……!」
平沢が心配そうな顔で永遠のことを見つめるので、「大丈夫だって、なんでもねぇから」と答えた。
(やっぱりみんなには見えてないか――ん……?)
永遠の目には一瞬、眞白の瞳が結界を捉えていたように見えた。
「眞白、お前今――」
――ブー……ブー……。
永遠のスマートフォンが振動し、「永遠、スマホ鳴ってるよ……?」と眞白がスマホを見るように促した。画面には『本部長』の文字が見える。
「悪い、すぐに戻る――!」
永遠はそう言って教室を飛び出した。永遠が教室を飛び出して行った後も、眞白はじっとプールを見つめていた。そして、誰にも聞こえないような小さな声でこう呟いた。
「柊より先に永遠に悟られるなんて……思ってもみなかったよ」
眞白は踵を返すと、文化祭の準備に戻っていった。
【次話】74話 忍び寄る女神の影1-口に蜜あり腹に剣あり-
2/28(金)22:00頃更新
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