【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-74話 忍び寄る女神の影1-口に蜜あり腹に剣あり-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
文化祭の準備中に怨霊の気配を感じ取った柊はプールサイドへと向かった。柊が到着するとすでに鴇の姿があった。
「索冥……遅かったね」
「相手は?」
「このプールの中のようだね。日中に出現する邪霊は油断できない。目撃者が出ないように結界を張らせてもらうよ」
柊が頷いたのを見て、鴇は素早く印を結んだ。
「一結杳然」
プールは結界によって閉ざされた空間になった。
「……その結界じゃ誰も入ってこれないわ。敵の出方も分からないのに」
「そんなの、キミとボクで浄化すれば良いだけだよ」
鴇の嬉々とした言い方に柊はため息を吐くと、アームカバーを外した。
「我、索冥と契りし守護獣――澄義よ。契約の名のもとに我に力を与えたまえ。第二解放……雷針!!!」
柊の言霊と共に右腕の痣が広がり、足元には鋼鉄の靴が出現する。そして、柊は勢いよく空へと舞い上がった。
「ワオ、それが第二解放か」
「……まずは地上に引きずり出すわ。迅雷風烈!」
柊は高速回転によって強風を巻き起こし、プールに雷を落としていく。
――バリバリバリバリッ!!!
プールに稲妻が降り注ぐと、大きな水しぶきを上げながら黒い炎を宿す赤鯨が飛び出してきた。
――ザァァァァ……――。
大量の水しぶきが2人に滴り落ちる。
「……出てきたね」
「クソッ!オ前ハ五麟ダナ?!俺ガ殺シテヤル!」
「キミじゃ無理だよ。キミには歴史の闇に堕ちてもらうから……じゃあね」
――ズバァァン!
鴇は鉤爪を構えると鯨を一刀両断した。
「一撃で……?!」
「索冥、覚えておくと良い。邪霊は黒い炎が出ているところが弱点なんだ。あそこの炎を消せば、中の人間と怨霊の繋がりが切れて戦闘不能になる。そうすると……」
――ドカァァァァァン!!!
鯨の体長も相まって、辺り一面を吹き飛ばすような大爆発が起こった。2人は咄嗟に防護術を使い、辛うじてダメージを防いだ。
柊がプールサイドに着地すると、爆発によって舞い上がった水しぶきが一気に降り注ぐ。
「……やっぱりね」
鴇が濡れた髪を掻き上げながら言った。
「いったいどういうこと?」
「炎を消すと繋がりが切れて戦闘不能になるといっただろう。どうやら戦闘不能になった邪霊は、自爆するように仕組まれているらしい」
「……”女神”は邪霊を兵器とでも思っているのかしら」
柊は怒りを滲ませながら静かに言った。
「邪霊になった神官は人間には戻れない。ボクからしたら自業自得だよ」
自業自得という言葉が柊に重くのしかかった。そんな柊の気持ちを鴇が知る由もなかった。
「……そういえば、もし五大神官が邪霊化していた場合には、あなたは戦って大丈夫なの?」
「邪霊化した時点で神官扱いされなくなるんだ……ボクにとっては好都合だよ。正当な理由で彼らを歴史の闇に堕とせるんだからね」
鴇はそう言うと口元を緩めた。その冷たい微笑みを見た柊は、思わず背筋が凍りついた。
「……この中だと連絡も取れないから、結界を解除するよ。一結杳然、解」
結界が解除されると、校庭での部活動の声や校内の喧騒が聞こえてきた。
「もう一つだけ聞いても良いかしら」
「なんだい?」
「先日の手合わせで、わざわざ澪さんに生霊について尋ねたのは何故?」
「彼なら知っているかなと思って」
鴇の白々しい口ぶりに、柊は苛立ちを覚えた。
「……あなたは鷲尾兼路が新たな生霊を生み出したと思っているのね。鷲尾澪が生かされ続けていたのは、生霊を生み出すために利用するつもりだったから?」
柊の言葉を聞いた鴇の口元が釣り上がった。
「キミは本当に期待以上だよ……で、それを角端に伝えないのは?」
「それは……」
鴇の言葉に柊が言い淀んだ。
「多分キミもボクと同じことを考えてるよ。おそらく鷲尾澪の代わりに生霊にされた人間がいる……でもそんなことを伝えたら、角端の精神が崩壊して戦力に数えられなくなる。今の状況で戦力ダウンは避けるべきだってね」
「私が恐れているのは、澪さんが”独り”で戦おうとしないかということだけよ。澪さんにはもっと自分を大切にして貰わないと……」
「この件はボクの方から角端に伝えるつもりはないよ。伝えるならキミから伝えれば?」
「……澪さんに気を遣っているの?」
「さあね?勝手に想像したら良いよ」
「――おーい!!!」
話し込む柊と鴇の元に、永遠が全速力でやって来た。
「2人共大丈夫かよ?!」
「炎駒、遅かったね……」
「お前ら、なんでそんなにびしょ濡れなんだよ」
永遠はYシャツが濡れて下着が透けている柊を気遣い、自分のYシャツを脱いで柊に被せた。
「あ、永遠ありがとう」
(良かった……中にTシャツ重ねておいて……こんな姿を誰かに見られたら、俺が澪さんに殺される……!)
永遠は笑顔を貼り付けたまま怒り狂う澪の姿を思い浮かべると、恐怖のあまり体を震わせた。
そんな永遠を横目で見つつ、鴇は「邪霊が自爆してね……結界を張っていたから、中でプールの水が暴発したんだよ」と言って、プールサイドに目をやった。
「おそらく姉小路家の神官だね。間宮家にあった資料で顔を見たことがある」
「それにしても、こんな昼間っから出現するなんていったい……」
「何にせよ神官が怨霊に堕ちるなんて論外だよ。同情の余地もない。そういう奴らは全員ボクが浄化しようと思ってる……じゃあ後始末はよろしく」
鴇がプールから立ち去るのと入れ替わりで入江がやって来た。
「やっほ〜!もうすぐ警察が来て現場検証入るからね☆って、柊ちゃん……それは早く着替えた方が良いかも」
「え?」
「ほ、ほら!他の生徒に目撃されちゃうとあれだしさ!車に予備の正服積んであるから、とりあえず着替えて来なよ!」
入江は柊と校舎の間に立つと、柊の方に向き直って着替えるように促した。
「……?分かりました」
柊は状況が飲み込めない様子だったが、大人しく入江の指示に従った。
「永遠くんがYシャツ貸してあげてなかったら危なかったね。柊ちゃんってば自覚なさすぎ……」
「ごほん。それはともかく、こんな真っ昼間の高校に邪霊が現れるなんて……」
永遠は咳払いをした後、話を本題に戻した。
「うーん、もしかして警戒させたいのかな?」
「は?それってどういう……?」
「ほら、明後日から文化祭があるでしょ。もしかすると、今日の邪霊の出現は予告なんじゃないかなーって」
入江が腕を組みながら答えた。
「文化祭でたくさんの人が駒葉高校に出入りする。生気を集めたい怨霊や邪霊にとってはうってつけっすね……」
「体育祭の件を踏まえて、佐奈田さん経由で警視庁にも依頼しているから、警備体制はバッチリだよ☆当日は俺はもちろん、澪くん、璃玖くんにも駒葉高校に行ってもらうから。永遠くんと柊ちゃんと鴇くんは初めての文化祭なんだし、状況が状況だけど少しでも楽しんでね」
「ありがとうございます……!俺達が文化祭を楽しめるのは入江さん達のおかげっすね」
入江の気遣いで、永遠は張りつめていた気持ちが少し楽になったのがわかった。入江にお礼の言葉を伝えると、「このくらいどうってことないって♪」と言って微笑んだ。
*
事後処理を終えて1年3組に戻ってきた永遠だったが、すでにクラスメイトの姿はなかった。永遠がスマートフォンを確認すると、眞白からメッセージが来ていた。
【塾があるから先に帰るね。明日少し話せるかな?】
眞白から改めて話がしたいと言われる時はたいてい大事な話がある時なので、永遠は少し顔を強張らせながらメッセージに返信をした。
【分かった。準備の合間にタイミングを見計らって話そう】
――ガラッ!
「あれ?橘くん!もう下校時間は過ぎてるわよ?」
大量の黒い布を抱えた美沙が教室に現れた。
「荷物も置いたままだし戻ってきた。そういう平沢こそ、まだ下準備終わってねぇのな」
「本当よね……もう文化祭は明後日なのに……」
いつも元気な美沙にしては珍しく疲労感が強く、永遠は心配せずにはいられなかった。
「なぁ、平沢が大丈夫だったら、うちの定食屋でメシ食べていかねぇか?」
「え?」
美沙は思いがけない提案に驚きを隠せなかった。
「今日はもう作業は難しいけど、明日どうするか決めてみんなに連絡しておいた方がスムーズじゃねぇか?もちろん無理にとは言わねぇけど」
「うちの両親は海外転勤で家にいないから、兄と二人暮らしなの。でも兄も今日はアルバイトで遅くなるって言ってたから、家に帰っても私だけ……で、でも、急に橘くんのお家の定食屋さんに行くなんて迷惑じゃ……」
うろたえる美沙に対し、永遠はニカッと笑った。
「平沢には世話になってるんだから気にするなって!よし、じゃあ行くか!」
そう言うと、永遠と美沙は1年3組の教室を後にした。
【次話】75話 忍び寄る女神の影2-口に蜜あり腹に剣あり-
3/14(金)22:00頃更新
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