【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-75話 忍び寄る女神の影2-口に蜜あり腹に剣あり-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
駒葉高校の文化祭まで後2日、クラスの出し物の準備に奔走する美沙を励ますため、永遠は自分の家である定食屋たちばなに美沙を連れてきた。
――ガラッ
「ただいま〜」
「永遠、帰ってくる時はお店からじゃなくて裏手に回りなさいとあれほど……あら、お友達?」
永遠の母・陽子は美沙の存在に気づくと、驚きを隠せない様子で言った。
「初めまして!私、永遠くんと同じクラスの平沢美沙と言います!」
美沙は緊張で体を強張らせながら大きな声で挨拶した。
「明後日の文化祭の相談がしたくて連れてきたんだ」
「あらそうなの!せっかくだから夕飯食べて行ってね!店内が少し混み合ってるから、ウチのリビングに上がってもらったらどうかしら?」
陽子はいつになく興奮した様子だった。女っ気のない息子が女の子を連れて来たのが余程嬉しかったのだろう。
「え!永遠くんのお母様、本当にお構いなく!」
美沙があたふたしている中、永遠は「じゃあ、そうするわ。平沢こっち」と言って、美沙を手招きした。
裏手に回って玄関からリビングに入ると、中でくつろいでいた妹・千羽が飛び上がった。
「お兄ちゃんが柊ちゃん以外の女の子連れてきたー?!彼女?!?!」
「え?!」
美沙は嬉しそうに目を輝かせている。
「馬鹿!違うって!」
永遠は思わず赤面しながら叫んだ。
「初めまして。私、永遠くんと同じクラスの平沢美沙です。妹さんかしら」
「妹の千羽。ほら、挨拶しろって」
「美沙さん、こんばんは。お兄ちゃんが柊ちゃん以外の女の子を連れて来る日がくるなんて……!柊ちゃんに連絡しないと!」
千羽はニヤニヤしながらスマートフォンを操作し始めた。
「しなくて良いから!夕飯食べ終わったなら早く自分の部屋に行けよ」
「はいは〜い、行きますよ〜。じゃあ美沙さんごゆっくり♩」
千羽がリビングを後にし、ようやく静寂が訪れた。
「ったく、千羽のやつ……!ごめんな平沢。ここ座ってくれるか?」
永遠はリビングの椅子に美沙を座らせると、向かい側の席に自分も腰を掛けた。
「で、明日の準備なんだけどさ。準備を手伝ってくれることが確実な人間で間に合うかどうかを考えた方が良いと思う。部活に行くやつもいるし、部活で出し物をするからそっちの準備を手伝うやつもいる。眞白みたいに塾や他の用事で途中で帰るやつもいるだろ?準備を一緒にやってもらえたらラッキーくらいに思って、計算には入れない方が良い。平沢の中で、明日装飾係として準備を手伝ってくれそうなやつは何人いる?」
「葵はクラス優先で動いてくれると言ってたわ。華奈も部活の展示物の準備は終わったから、明日はクラスの準備を1日できるって。井上くんは明日塾が休みって言ってたけど、彼には全体を見てほしいし、正直あとは分からない」
美沙は気持ちが沈んでいる様子だったので、永遠は何とかして美沙のことをフォローしようと思った。
「井上は平沢の言う通り、全体を見てもらった方が良い。とすると、装飾係として動けるのは平沢と吉川と大石、それに俺だな。眞白も塾の時間までは準備を手伝えるはずだ。あと何が終わってないんだ?」
「衣装自体は準備していて、あとは血を描いたり少し破いたりしてお化け感を出したいと思ってるわ。ボディペイントは試しに葵と華奈と私でやってみたんだけど、クラスのみんなから評判良かったの。問題は教室内の装飾かしら。お墓や灯篭、日本家屋の障子は空き箱や段ボールで形は出来てるけど、ペンキは明日塗らないと。あとお札も文字は今日華奈に書いてもらったんだけど、血を描くのは明日乾いてからやろうと思ってたの……暗幕は全然張れてないわ」
「いや、すげぇよ。短期間でよくそこまでやったと思う。ってことは、後はひたすら塗るもの塗って乾かして、暗幕もろとも設置していけば良いんだな?じゃあ明日の午前は、とにかくみんなで塗るものを塗っていこう。ペンキを乾かすのに時間がかかるから、それまでに暗幕を張り終えればだいぶ見通しが立つな」
永遠に褒められて満更でもない表情を浮かべていた美沙だったが、ここで思い出したかのようにまた表情が暗くなった。
「でも、肝心な脅かす仕掛けが足りないと思うわ」
美沙の言葉を聞いて永遠が腕を組んだ。
「確か幽霊が墓から出て来たり、死角から火の玉が飛び出して来るんだったよな」
「そうなの。でも、どこでどうやって脅かすかは具体的には決まってないわ」
「……仕掛けは当日の脅かし役にそれぞれ任せよう。完成度は分からねぇけど、今日中に連絡しておけば何かしら考えるだろ。そもそも全体への指示は井上からするべきだから、悪ぃけど平沢から連絡しておいてくれるか?装飾係としては、とりあえず通路を作って教室中に暗幕を張らないと、お化け屋敷として成立しなくなる。まずは最低限のところを何とかするべきだな」
永遠が話している様子を美沙がじっと見つめているのに気づいて、「どうした平沢?」と声を掛けた。
「橘くんって結構計画的なのね。こんなに段取りが出来る人だなんて思ってなかったわ」
「最悪を考えておけば、それ以上はねぇからな」
「それもそうね……アドバイスありがとう!早速井上くんに連絡するわ」
そう言うと美沙はスマートフォンを取り出した。
「俺、平沢が連絡してくれてる間にちょっと夕飯もらってくるわ」
永遠が1階の定食屋に降りると、ちょうど夕飯の準備が出来たところだった。
「あら、永遠!良いところに!生姜焼きの準備できたから持って行ってちょうだい!」
「あぁ、サンキュー」
「永遠、お母さん応援してるからね!」と言いながら、陽子はガッツポーズをしている。
「だから平沢とはそういうんじゃねぇって!」
永遠は大声で否定したが母の誤解を解くのが面倒になり、そのまま2階に上がって行った。
「平沢、みんなに連絡できたか?」
「今送ったところよ!」
「良かった。じゃあ、夕飯冷めないうちに食っちまおうぜ」
永遠はテーブルの上に豚の生姜焼き定食を並べ始めた。
「すっごく美味しそう……!」
「悪ぃ、食べ物の好み聞いてなかった。食べれないものとかなかったか?」
「特に好き嫌いはないから大丈夫よ」
永遠に気遣われて、美沙は嬉しそうに答えた。
「なら良かった」
永遠が席について箸をつけたのを確かめると、美沙も一緒になって生姜焼きを食べ始めた。
「頂きます!……んん〜!美味し〜い!」
「そうか。親父も母さんも喜ぶよ」
永遠は安堵の声を上げた。
美沙は箸を進めながら、ふと視線を止めた。美沙の視線の先にはたくさんのトロフィーがあった。
【次話】76話 忍び寄る女神の影3-口に蜜あり腹に剣あり-
3/28(金)22:00頃更新
いいなと思ったら応援しよう!
ご覧頂きありがとうございます!頂いたサポートは文献の購入費用と物語後半に登場する場所の取材旅費に充てさせていただきます・・・!