【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-87話 文化祭と女神の目的2-一葉落ちて天下の秋を知る-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
文化祭の最中、柊は大石華奈からの連絡を受け、3階の講義室に駆けつけた。しかし、そこで彼女を待っていたのは、血を流して倒れる幼馴染の永遠と、彼を襲撃したことをほのめかす華奈だった。華奈は柊の成長を促すため、自ら”試作品”と呼称する怨霊を召喚した。
「これは邪霊……なの?」
「もう一段階昇華した姿よ。あなた達が邪霊と呼んでいる私の下僕達が獣に近いなら、この子の知性は人間に近い」
『これハ、これハ、五麟ではないですカ。こんなところデお会いできるとハ』
人間の話し方と機械音が混ざったような歪な話し方に、柊は身の毛がよだった。
「邪霊はまだ内に宿る神官の存在を感じることができた。でもこの人は怨霊と同じ……霊の気配しか感じ取ることが出来ない。まさか魂が一体化してる……?」
「そう、より存在を近づけることで力を手にしたのよ。最も怨霊と同じ存在だから、浄化したら何も残らないけどね……そうだわ、柊ちゃん名前をつけてあげてよ」
「あなたは人の命を何だと思っているの……?!」
柊は荒い呼吸を繰り返し、吐き出す息が熱を帯びていた。
「ほら柊ちゃん、私と話している暇はないわよ」
華奈がそう警告した瞬間、黄虎が柊に向かって拳を振り抜いた。
――ドゴンッッ!
「うっ……!」
地面を揺らすような鈍い衝撃が響き、柊は瞬時に防護術を張り受け身を取っていたものの、邪悪な炎を宿した拳を受けて後方に吹き飛ばされた。力だけではなく焼き尽くすような炎の熱さに想像以上のダメージを食らっていた。
「ごふっ……」
その衝撃に、柊の口からごぽりと血が逆流し、地面に赤い染みを作った。
(防護術を張ったのに内臓にダメージが……あの炎の影響かしら……何発も食らっていられないわね)
「柊ちゃんは勘違いしているわ。柊ちゃんが繰り出しているその技は雷刀から繰り出されている訳でも、雷針から繰り出されている訳でもない。ただ媒介しているだけ。その事実に気づくべきよ」
「急に何を言って――」
柊がそこまで言いかけると、空に飛び上がっていた黄虎が拳を突き落とそうとしているのが見えた。
――ヒュン!
「くっ……!」
間一髪で躱し空に舞い上がった柊は、黄虎の様子を観察した。
「逃げてモ無駄ですヨ。あなたハ私ニ殺されル運命なのですかラ」
そう言いながら黄虎は血を吐き、左肩がボロっと崩れて消失していく。
(強すぎる力に身体が耐えられないんだわ……だから”試作品”……!)
「それだけの才能があるのに、どうしてこんなことを……!」
柊は奥歯を噛み締めた後、黄虎に向かって急転直下で降下し、雷針を斧のように振り抜いた。
「瓦釜雷鳴!!」
――バリバリバリバリ!!!
金属がぶつかるような激しい音が響き、攻撃は右手を切り落としたが、すぐに再生し、黄虎は平然としている。
「なんていう再生スピード……こんなの人間じゃ――……」
驚きと焦りが入り混じった柊の声に、華奈はけろっとした様子で答えた。
「その子は黒い炎を消しても止まらないわよ。止めたいなら心臓に灯る炎を消さないと」
華奈の言葉を聞いた瞬間、柊の肩が小刻みに震え、怒りをこらえきれないようだった。
「心臓に灯る炎は命の象徴ではないの……?その炎を消すということはこの人の命を浄化して消すということでしょう?」
「あら?アドバイスしてあげたのにそんな怖い顔をしないでよ」
華奈は心底楽しんでいるかのように微笑んだ。
(あの人を人間に戻すことはおそらくできない。だったら私にできることは――……)
柊は深く考えを巡らせた後、決意の表情で言霊を紡いだ。
「澄義、解放率を上げるわ。ついてきて」
柊がそう言うと、足元から現れた鋼鉄の靴が、まるで呼吸をするかのように膨張し、二回りも大きくなった。同時に、麒麟の痣は、密度を上げて全身へと稲妻のように広がり、見る見るうちに太く鮮明になっていく。そして、彼女の漆黒の髪は、まるで夜明けの空が黄金色に染まるように、眩い輝きを放ち始めた。
「柊ちゃんそれは一体何……?文献でも見たことがないわ……!」
華奈は見たこともない変化に目を丸くしながらも、嬉しそうに口角を釣り上げた。
『私ニ見掛け倒しガ通用するト思っているのですカ?』
黄虎は嘲笑うかのように低い声で言い放つ。
「それはお互いさまでしょ?」
柊は不敵な笑みを浮かべると、爆発的な速度で黄虎との距離を詰め、強化された雷を纏った蹴りを腹部に叩き込んだ。
――ドゴンッッ!
腹の底まで響くような重い衝撃音とともに、黄虎の巨体は初めてよろめいた。
『ヴッ……!』
これまでとは明らかに違う力に、優位を得た柊は、追い打ちをかけるように連続の蹴りを放つが、黄虎も動物的な反応で素早く腕を突き出し、辛うじて防御する。しかし、その衝撃で黄色の毛皮は受けた部分から焼け焦げ、土煙のように崩れていった。
「私ヲ舐めないデ頂きたイ!!!」
黄虎の目には赤い炎が宿る。怒りに震えるその拳が、雷の速度で柊へと襲いかかる。柊も負けじと雷を纏った 蹴撃で迎え撃ち、激しい打撃が空中で連続して交錯する。黄虎の硬い拳は打撃を受けるたびに、雷のエネルギーによって黒く焼け焦げ、粉塵のように崩れていった。
「私の拳ガ負けるなド……!」
ついに、黄虎の両腕は肘から先が完全に黒く焼け破壊され、以前のような力を失っていく。その様子に、黄虎は信じられないといった表情で低い声を漏らした。
「終わりよ――恵凰廻雷!」
――――バリバリバリバリ!!!
柊は空中に跳躍し、全身から極限まで高めた雷エネルギーを放出する。それは白く眩い光の奔流となり、黄虎の巨大な体を包み込んだ。黄虎は聖なる雷に体を焼かれ、再生速度さえも浄化スピードに凌駕されていく。
『ギャアァァァアアァ!』
断末魔の叫びが空気に響き渡り、次の瞬間には、黄虎の巨大な体は跡形もなく塵となって消え去った。
「――はぁ……はぁ……」
激しいエネルギー消費に、柊は肩を大きく上下させ、辛うじてその場に立っている。
「素晴らしいわ!柊ちゃん!あなたなら未知の領域に手が届きそうね!」
華奈は心から感嘆したように叫んだ。
「椛……」
(生気が足りない……椛を倒すことは難しい……でも、せめてこの異空間を壊せれば――居場所を知らせることができる)
今の柊に残された力は僅かだったが、その目には強い決意が宿っていた。
「約束したから……私が諦める訳にはいかない!!!」
力を振り絞り、柊は再び力強く宙を舞った。
「最大出力――雷霆裂破!」
バリバリバリバリ!!!……ドカァァーン!!
柊が放った雷撃に耐えきれず、異空間が消滅して元の教室に戻ってきた。しかし、その衝撃は凄まじく、防護術を張っていた華奈も無傷では済まなかった。左腕を庇うように立ち上がると、教室に張られていた結界も崩れて消えている。
「本当になんて子なの――……」
最大出力を放出した柊は、両足が上手く動かないのか、床を這うようにして永遠との距離を縮めていく。
「永遠――……」
永遠の結界に柊の手が触れた時、永遠がぴくりと体を震わせた。
「柊……?」
柊の呼びかけに、永遠が小さなうめき声を上げたが、体の痛みからか起き上がれずにいる。
「末恐ろしいわ……よほど大切な約束なのね。でもちょっと暴れすぎよ柊ちゃん。さすがに人が来てしまうわ。申し訳ないんだけど、今日の主役は五麟じゃないの。大切なゲストをお迎えするために、柊ちゃんと澄義に邪魔されちゃ困るのよ。だからしばらく大人しくしていてくれる?」
華奈の目は翡翠色に輝いている。
「澪さん――……」
柊は華奈の言葉を無視し、澪の名を呟いた。
(約束……守れなかった――……)
華奈は、そんな柊の様子を見て小さく息を吐いた。
「――羅刹翠雨。 」
――パアァァ……!
華奈が放った数多の翡翠の針が降り注ぐが、柊は青光に包まれ、その翡翠の雨を防いだ。
「どういうこと……?!」
華奈は、信じられないものを見るように目を見開いた。青光の中心には、青龍印が刻まれている。
「あれは青龍の……?!青龍が現れたなんて情報、どこにも……!」
華奈は警戒しながらもゆっくりと近づき、ぐったりしている柊の意識がないことを確認した。永遠も結界の中で再び気を失っている。
「さっきの防護術は一体なんだったのかしら……まぁ、良いわ。柊ちゃんも橘くんも重傷だし、これで邪魔はできないでしょう」
華奈は、自分の左腕から流れ出る血を冷ややかに見つめる。
「……にしても、入念に張っていた結界が壊れちゃったじゃない。左腕も力が入らないし、これじゃ即席の結界しか張れないわね……まぁ、目的を果たすには十分かしら」
そう言うと、華奈は片手で印を展開し始めた。
「天光万華」
――パァァァァ……
彼女が術式を展開すると、窓や壁の至るところに五芒星が浮かび上がる。光が収まると、講義室は再び静寂に包まれた。
「教室内で誰かがよほど暴れない限り気づかれないでしょう……そもそも感知能力が高い子は私の下僕と当てているし十分ね……さて」
華奈はそう言ってスマートフォンを取り出し、誰かに向けてメッセージを送った。
【次話】88話 文化祭と女神の目的3-一葉落ちて天下の秋を知る-
9月6日(土) 22:00頃更新
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