【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-78話 忍び寄る女神の影5-口に蜜あり腹に剣あり-
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駒葉高校の文化祭前日。不審物がないか巡回にあたっていた柊と鴇は、五麟の術と神術の発動方法について教え合うことになった。
「五麟は身体の内に秘めている守護獣の力を武器で生成して技を発動する。だから、神術のように印を結ぶ必要はないわ。実際、生成するのは武器ではなくて自分自身の身体でも良いのよ。麒麟や炎駒はそれが得意だったから、内裏での側仕えには適任だったの。狭い内裏で雷刀や雷針では戦いづらいし、私は自分自身の身体で技を生成することに長けていなかった……」
柊の言葉を受けて、鴇は腕を組んだ。何やら考え込んでいる様子だった。
「角端の藍眼や聳孤の樹海だって、武器は必要としていないんじゃないのかな」
「あの2人の術は幻術だから実際に攻撃を加えることはできないわ。それが麒麟や炎駒と異なる部分。でも、角端の藍眼は自分の身体を使って攻撃ができるけど、そんなことができるのはあの人だけよ。で、神官の場合は?」
柊から視線を向けられた鴇は一拍置いて話し始めた。
「神官の場合には言霊と印の組み合わせで神術を発動する。でも、印が必要なのは術式を展開するためであって、一々組む必要はないんだよ」
「それってつまりどういう……?」と、柊は困惑した声を上げた。
「ボクは身体の中に数百の術式を刻んでる。さっきキミは麒麟や炎駒が自分の体で技を生成すると言っていただろう?理屈としては同じだよ」
「でも、それは私達が守護獣を宿しているからこそだわ……。神官が自分の身体に術式を蓄えるなんて聞いたことがない……」
柊が眉間にしわを寄せて頭を悩ませていると、鴇はフッと笑った。
「印なしで神術を使い始めたのは有坂家でね。千年前に五麟がいなくなって、怨霊浄化の活動を本格化させたんだ。彼らは命がけで怨霊浄化にあたっていたから、必要に迫られたんだろう」
「芝山さんが言霊なしで防護術を発動したのは?」
柊は芝山の防護術発動シーンを思い浮かべながら言った。
「あれはもう一段階昇華させたものだと思うよ。ボク達は気づかなかったけど、言霊の代わりに技を発動するトリガーがあるんだ。あとの仕組みはボクの神術と同じさ」
「なるほど……こんな力があったら完全犯罪もできそうだわ」
ため息混じりに柊が言うと、鴇の顔が一層険しくなった。
「そう思うだろう?でも、現代に至るまで神官の中でこれを極めた人間はほとんどいない。どうしてか分かるかい?身体に術式を刻むのには神官の才能が問われることもあるけど、怨霊の浄化の現場に出ない神官にとって、この技を習得するための時間は無駄だということだよ。本当に腹ただしい」
「鴇さん……」
柊はかける言葉が見つからず、心配そうに鴇の方を見つめた。
「キミが憂れることはない。キミにはキミの役割があるだろう?ボクはそれを利用させてもらうだけだから。明日は校内で死人が出ないことを祈ってるよ」
「もう、そんな物騒な言葉を残していかないでよ」
足早にその場を去る鴇を見ながら、柊は小さくため息をついた。
――ブー……ブー……。
スマートフォンが振動したのに気づいた柊はメッセージを確認した。
「え?永遠……?」
『突然悪い。今日の夜、眞白と一緒にウチにメシを食べに来ないか?』
*
駒葉高校の校長室に呼ばれた芝山は、ノックをすると中から応答の声がしたので入室した。
ソファには校長と永遠・眞白の担任である青山大輔が腰をかけている。
「すみません。もっと早くご相談すればよかったのですが……どうぞおかけください」
校長に促され、芝山は「失礼します」と言って向かい側のソファに座った。
「1年3組の教室の入口に貼られているのを青山先生が今朝発見しまして……」
校長はビニール袋に入った紙を手渡した。紙には雑誌や新聞の切り抜きと見られる文字が羅列されている。
「『時は来た』ですか……」
芝山は神妙な面持ちで紙を眺めている。
「明日に控えた文化祭については私から警察に協力依頼をしていました。部下の数名がこちらの生徒ですので、トラブルがないように警戒を強化してほしいと……しかし、警察側から依頼を受けた訳ではありません……私を呼んだのは高校側の判断ということでしょうか」
「警察にはこの紙切れだけでは動けないと言われました。無理もありません。いたずらの可能性もあります。生徒たちはこの日を楽しみにしておりますので、安易な判断はしたくありません。ただし、何かが起きてからでは遅い。打てる手は打っておく必要があります。青山先生の助言もありまして、今回ご依頼をさせて頂くことにしました。私はその……視えないものでして、前回高校で起きたことも記憶が曖昧だったのですが、青山先生は視える方なので、前回の事象も鮮明に覚えていらっしゃってですね……」
校長は言いにくそうに言葉を紡いだ。
「なるほど……」と言いながら、芝山は青山を一目した。
「校長がおっしゃったのはおそらく入学式の翌日のことでしょうが、全て覚えていますよ。遠足、体育祭、オープンキャンパス、それにこの間のプールでの騒動……高校側で対応しているのは全て僕ですからね。あなたに依頼をするということは、僕達の生徒が動くことになるので躊躇していたのですが、こんな挑戦的な張り紙をされてしまったら共有するしかないと思いまして……あなた達に依頼をしていることは、僕と4組の担任の草薙先生、8組の担任の神崎先生しか知りません」
「お二方も視えるんですか」
「いや、視えませんよ。でも、担任である以上知っておいてもらう必要があるでしょう?だから入学式の翌日の面談の際は草薙先生に出てもらったんです。こういう記憶は忘れやすいとは言っても、強烈な印象が残っていれば思い出すきっかけにはなりますからね……それに駒葉市は古くから”そういうもの”が集まりやすいんです。東京都は公言しませんが、職員の採用の際に裏ではそういうところも配慮しています。面接官に神官を紛れ込ませて、式神を部屋の隅に立たせてたりとか……」
青山はそこまで言うと気まずそうな顔をして咳払いをした。話が切れたところで校長が口を開いた。
「明日と明後日ですが、こちらで青山先生と待機して頂き、有事の際は連携して貰えればと思います」
「分かりました」
「こちらにどなたか1名配置できますか?有事の際にあなたは現場に出られないと伺いましたので、僕と一緒に駆けつけてくれる人間がいると心強いです」
青山の要請に対して、芝山は心苦しそうな表情を浮かべた。
「すみませんが、明日の配置はすでに決まっておりまして……」
「全員こちらの任務にあたるのですか?」
「いえ、1名おりますが、強力な対象が出現した時に対処できないものでして……」
「他の方も配置されているのでしたら、生徒や一般客が避難する時間を作ってくださるだけで良いんです。その方の手配してもらえますか」
「……分かりました」
芝山は苦渋の決断といった様子で頷いた。
「本当に何事も起こらなければ良いんですけどね。僕もずっと楽しみにしていたので」
青山はそう言って芝山に微笑みかけた。
「明日はどうぞよろしくお願いします」
*
――ピンポーン
自分の部屋にいた永遠はリビングのインターホンに目をやると、そこには眞白と柊の姿が映っていた。2人の姿を確認した永遠は玄関のドアを開けた。
「あれ?2人で待ち合わせしてきたのか?」
「たまたま塾帰りの眞白と一緒になったのよ」
「そうだったのか。とりあえず中に入れよ」
永遠は眞白と柊をリビングに誘導した。
「永遠の家にお邪魔するの久しぶりな気がするわ」
「俺は遠足の時以来かな?今日いきなり家に来ないかって連絡来たから驚いたよ」
「そう言うなよ、明日はそれぞれ忙しくて話すヒマなさそうだったからさ」
「当日のアルバイトも含めると2人は特に忙しいし合わないのも無理ないよね」
眞白は納得した様子で頷いた。
「そこに座ってくれるか」と2人に声をかけると、永遠はキッチンに立ってフライパンに火を入れ始めた。
「お前らが来るタイミングが読めなかったから焼きそば作っておいた。定食だと待ち時間あるし」
「永遠の手作り?嬉しいな」
眞白が目を輝かせると、隣にいる柊も嬉しそうな表情を浮かべた。
「永遠は本当に器用よね」
「柊は料理壊滅的だもんな」
「言わないでよ、私だって最近は自分で作ることもあるんだから」
柊はむすっとしながら言い返した。
「例えば?」との永遠の問いに、柊は「納豆ご飯とインスタントのお味噌汁」と小さな声で答えた。
「それご飯しか炊いてなくね?」
「永遠、柊なりに頑張ってるんだから」
柊の殺気を感じて、すかさず眞白がフォローした。永遠が焼きそばの用意を終えると、眞白と柊をダイニングチェアに座らせた。
「「「いただきます」」」
眞白と柊が焼きそばを頬張って、「おいしい」と笑みを零すのを確かめてから永遠も箸をつけた。
「やっぱり永遠は料理上手だね」
「……悔しい」
「柊、料理は競争じゃねえからな?」
「……で、永遠が今日呼んだ理由をそろそろ教えてくれない?」
眞白が核心的な質問をすると、笑みを浮かべていた永遠は真剣な表情で箸を置いた。
【次話】79話 忍び寄る女神の影6-口に蜜あり腹に剣あり-
5/9(金)22:00頃更新
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