見出し画像

自分で育てたピーマンなら、食べてみたくなった日──「苦手」が、自分から溶けていった瞬間

息子は、かなりの偏食だ。
赤ちゃんの頃の哺乳瓶拒否に始まり、離乳食も口にした瞬間に「ベェ」と出してしまうタイプ。
小学生になった今も、野菜のほとんどを食べることができない。

まず、食べたことのない未知のものに対する心理的ハードルが、人一倍高い。
さらに「食感」のこだわりも強く、グニュグニュしたものや、シャリシャリしたものは、
その感触だけでまるごと受け付けない。

発達凸凹のある子にとって、食事はときに、私たちが想像する以上にハードな「挑戦」なのだといつも思わされていた。

誇らしさが、恐怖を上回った日

そんな息子が、小学校2年生のとき。
授業で、ピーマンを育てることになった。

よほど愛着が湧いたのだろう。毎日せっせと水をやり、大切に、
丁寧に、話しかけるようにして育てていたらしい。

そして、待ちに待った収穫の日。

息子が育てたピーマンは、他のお友達のものよりひときわ大きく、ツヤツヤと立派に実っていた。
先生からも「すごくいいピーマンができたね!」と褒めちぎられ、彼はそれが誇らしくて仕方がなかったようだ。

帰宅するなり、彼は輝くような笑顔で、思いもよらないことを口にした。

「ねぇママ。僕、このピーマン……食べてみる!」

幼稚園の頃は「ピーマンなんて絶対ムリ!」と、その存在すら拒絶していたのに。

「自分が愛情をかけて育てた」という自信と誇らしさが、長年彼を縛っていた「未知への恐怖」を、
ひょいと飛び越えさせた瞬間だった。

頑張って食べる姿から、本当の「好き」へ

その大きなピーマンを、ベーコンと一緒に炒めて食卓に出してみた。
息子は、ときどき苦そうな顔をしながらも、一生懸命にひと口、またひと口と運んでいく。
ようやく完食したとき、彼はなんとも言えない達成感に満ちた顔をして、

「うん……食べられた!」
と嬉しそうに笑った。
私も少し分けてもらったが、確かに息子の育てたピーマンは、瑞々しくてとても美味しかった。
それでも、ピーマン特有の苦味はしっかりと感じられた。

それからというもの、息子はときどきピーマンをリクエストするようになった。

最初の頃は、
「まだちょっと苦手だけど、頑張って克服しようとしている」
という、どこか決死の覚悟のような雰囲気だった。

けれど、食卓に並ぶ回数を重ねるごとに、彼の表情から強張りが消えていった。
ある日ふと気づいたときには、もう、彼はピーマンを「頑張って食べるもの」ではなく、
完全に「好きなもの」として食べていた。

今ではリクエストの頻度も上がり、出すとぺろっと平らげてしまう。

「克服」は、自分のタイミングでやってくる

大人はつい、栄養のことや将来のことを考えて、「頑張って食べなさい」と背中を押したくなってしまう。
けれど、“苦手”という壁は、誰かに無理やり押されて崩すものではなく、自分の内側から湧き出るタイミングで、
そっと越えていくものなんだ。

親にできることは、その「いつか」が来るまで、彼にとっての安心できる食卓を守り続けることだけなのかもしれない。

あの夏、西日に照らされたキッチンで、誇らしげにピーマンを頬張っていた息子の姿。
それは、私にとっても「偏食」という悩みが少しだけ軽くなった、忘れられない夏の記憶だ。

この記事の続き(おすすめ)
偏食やこだわりが強く、かつては哺乳瓶さえ拒否していた息子。そんな彼が「自分で食べてみたい」と思えるようになるまでには、長い試行錯誤がありました。彼の特性の正体に気づいた、あの日の記録を振り返ります
▶︎ 哺乳瓶拒否、寝ない、離乳食を食べない……。ただ「育てにくい子」だと思っていた、あの頃。


▶︎ 7ヶ月待った発達検査。その結果は、驚くほど『ぼんやり』していた


あわせて読んでほしいエピソード
「苦手」を自分のペースで乗り越えた体験は、彼の大きな自信になりました。
▶︎ 「これ、何の意味があるの?」——無意味だと思っていた療育が、線でつながった日


この連載のバックナンバーは、こちらのマガジンにまとめています。


#偏食
#野菜嫌い
#食育
#ピーマン
#子育ての気づき
#発達障害児
#低学年
#自己肯定感
#生存戦略


いいなと思ったら応援しよう!

あおい 読んでくださりありがとうございます。発達凸凹の息子との日々を書き残しています。もし私の記録が参考になったら、サポートで応援いただけると励みになります。いただいたチップは、息子と私の『未来の選択肢』を増やす資金として、大切に使わせていただきます。