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風の放課後に ― もうひとつの風

皆様、こんにちは!
アップルティーでございます!

本日より、心機一転──
風シリーズをお届けしてまいります。

これまでの「雨シリーズ」では、
しっとりと静かに心へ染み込む
BLを描いてきました。
そして今回の「風シリーズ」は、湿度ゼロ
軽やかに、爽やかに、読んだ人の胸を
ふっと撫でるような“風”を目指して
いきたいと思っています。

テーマは、今回も初恋
まっすぐで、透明で、
少し切なくて──
気づけば心をさらっていく、そんな物語。

それでは、新しい風のはじまりを。
どうぞ、お楽しみください──




『風の放課後に ― もうひとつの風 ―』

 秋は、音でわかる。
 擦れ合う木の葉。
 遠くで鳴るチャイム。
 乾いた風が校舎の隙間を抜ける音。

 美術室の窓を開けると、
 教室の匂いが一気に外へ連れ去られた。
 代わりに、少し冷たい風が入り込んでくる。
 机の上に広げたスケッチブックがめくれ、
 シャッと紙が鳴った。

 描いていたのは——彼。
 グラウンドで走る陸上部の陽向(ひなた)
 跳ねるような足運び、風を掴む背中、
 そして笑うと少年みたいに目尻が下がる横顔。

 自分でも驚くくらい、よく描けていた。

 絵は嘘をつけない。
 好きなものほど、線が迷わない。

「……この絵、、見られたくないな」

 そう呟いた瞬間だった。

 びゅう、と突風。

 手元の紙がふわりと浮き上がり、
 窓からひらりと抜けて——落ちた。

「あっ!」

 ベランダでも廊下でもない。
 よりにもよって——グラウンドへ。

 風に乗って落ちたスケッチは、運命みたいに、
 ちょうど陽向の足先の前で止まった。

 走るのをやめた陽向は、しゃがんで紙を拾った。
 ぱっと覗き込んだ瞬間、肩がわずかに揺れた。

 ——ばれた。

 目が合った。
 距離はあるのに、逃げられない。

 陽向は少し笑って、迷いなく
 校舎へ走ってくる。
 グラウンドからまっすぐ、
 美術室に向かって。

 階段を駆け上がる足音が聞こえる。
 心臓まで連れてこられるみたいに速くなる。

 そして「やあ」とでも言いたげな軽さで、
 美術室に入ってきた。


「これ、君の?」


 声は風よりやわらかい。

「……うん」

「俺の絵だよな?」

「……見ないでほしかった」


 すると陽向は、ふっと目を細めた。

「風に飛ばされたの、俺が拾ったんだ。
 つまり——これは風からのプレゼントってことで。」

「そんな都合いい風ある?」

「あるだろ。今日の俺、風になるって決めてたし。」

 さらりと言ったあと、いたずらっぽく笑う。

 ずるい。そんな顔されたら、何も言えない。

 風が二人の間を横切った。
 カーテンがばさりと膨らみ、光が揺れる。

「……うまいな。走ってるときの感じ、ちゃんとある」

「止まって見える絵なのに?」

「うん。走ってる音も、風も、ここにある気がする」

 その指先は、絵の中の陽向をそっとなぞった。
 くすぐったいのは紙じゃなくて心臓の方だ。

 ふと陽向がこちらを見る。

「ねえ、なんで俺を描いてたの?」

 直球すぎる。反則だ。
 言えない。言えないけど——

「……風が、描きやすいから」

「へえ。俺って風なんだ?」

「そう。急に来て…勝手にページめくって…いろいろ持ってく」

「ひどいな」


 そう言いながら、声は笑っていた。

 また一つ、風が吹いた。
 今度は優しい風だった。


 陽向は言った。

「じゃあさ、これからも描いてよ。
 俺、もっと風になるから」

 胸の奥がざわめく。
 名前を呼ぶ前に呼ばれてしまうような気持ち。

「……描いてもいい?」

「むしろ描いてほしい」

 さらりと返すところが陽向らしい。

 そのまま彼は、くるりと背を向けた。
 「そろそろ戻らないと顧問に怒られる」と笑って、
 グラウンドへ歩き出す。

 少しだけ迷って、思わず声が出た。

「——陽向!」

 本人も驚いたみたいに振り返る。
 風が彼の髪をはらって、夕陽が輪郭を光らせた。

 伝えたかったことなんて、何もまとまってなかった。

「……あのさ、」

「ん?」

「——今日の風、好きかも」

 数秒の沈黙。
 それからゆっくり、陽向が笑った。

「俺も。悪くないと思う」

 その声が、秋の空気の中で溶けるように残った。

 走り出す彼の背中を、しばらく追った。
 風と土と夕焼けの匂い。その全部がまざっていた。

 胸の中に、名前みたいな温度だけが残る。

 ——秋の放課後。
 風は冷えてきたはずなのに、ほかの季節よりずっと暖かい。

 それはきっと、風のせいじゃない。

 風が運んできた、君のせいだ。


風の放課後に_もう一つの風

最後に

いかがでしたでしょうか。
秋も深まり、風の冷たさが
季節の輪郭をなぞるようになってきましたね。

今回の物語の風は、
夕方のやわらかな風をイメージしました。
昼の温度をまだ指先に残しながら、
夜の気配をそっと連れてくる、あの穏やかな風です。

風には、いくつもの表情があります。
背中を押す追い風もあれば、
立ち止まらせる向かい風もある。
髪をくしゃりと乱して笑わせる日もあれば、
頬を刺してちょっと泣かせる日もある。

恋だってきっと、そうですよね。
優しく寄り添うだけじゃなく、
ときどき胸をぎゅっと締めつける。
でもそれでも、人は風の吹くほうへ進んでいく。
立ち止まって、また歩きだす。

この物語の中の風は──
誰かの背中を押す風でありたい。
迷った心をやさしく撫でてくれる風でありたい。
そして、まだ名前のつかない恋を、
そっと未来へ運んでくれる風でありたい。

皆さまの心にも、
そんなあたたかな風が吹きますように。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました🍃
まったね~~~♪

雨シリーズもよかったら、読んでみてね~~~♪


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