スチームおじさんの第三篇「青春、涙の初デート編」
前置き:「はじめてのデートは、ただ甘くなかった」
※この作品は【NOTE創作大賞2025】エントリー作品です。
初デート。
それは誰しも、人生に一度は経験する甘く切ないイベントです。
しかし、この物語の主人公――スチームおじさんは、
IBS(過敏性腸症候群)という“見えない病”を抱えて、初めてのデートに挑みます。
恋がしたい。彼女の前では格好つけたい。
でも、お腹が痛い。トイレが怖い。
「この一歩が、人生を変えるかもしれない」
青春とは、苦しくて、恥ずかしくて、それでも愛おしいもの。
これは、“笑えるほど切ない”恋と勇気の物語です。
スチームおじさんにも、青春時代はあったのだ。 当時、友人からある女性を紹介された。 飲みの席で話していると、お互いに勉強している分野が近いこともあり、意気投合した。
「自分はこうなりたい」「私はこの分野に進みたい」――そんな夢を語り合ううちに、自然と彼女との距離が縮まっていった。
やがて、彼女から連絡先を教えてもらい、デートの約束を勝ち取ることができた。 デートのプランも練り、事前に下見にも足を運んだ。 デート用の服を新調するために、アルバイトのキツい肉体労働にも精を出した。
二人で映画を観に行くことを想定し、上映スケジュールも確認。 映画館の周辺にあるカフェやレストランもチェックした。
ここまでは、完璧だったと思う。 ――あとは、奴(IBS)次第であった。
ついにデート当日を迎えた。 髪型をセットして、新調した服に袖を通す。 ここまでなら、普通の男子がやることだが、俺には奴がいた。 そう、お腹の不調になることを恐れて、朝から何も食べなかった。
電車に乗り、目的地と約束の時間が迫るたびに、鼓動は早くなる。 その時、嫌な予感がした。 奴だ。奴が動き始めたんだ!
ゴゴゴロゴロー・・・あの音だ! 最悪だ!何で今日なんだ!今日だけはやめてくれ!――心の中で叫んでいた。
彼女と合流し、カフェで上演時間まで過ごすことになった。 コーヒーを一口含むと、奴が襲ってきた。 強烈な放屁感に襲われ、肛門に神経を集中させて漏れないように踏ん張る。 冷や汗も出ていたかもしれない。
まずい、このままだと漏れる――。 慌ててトイレに駆け込み、ありったけの力で放出するが、わずかしか出ない。 鏡を見て、「なんで今日なんだ……」と叫びたくなった。
テーブルに戻ると、「ごめん、お腹の調子が良くなくて、でも大丈夫」とごまかした。 もうこうなると、彼女の話が頭に入らない。
そして、上映の時を迎える。 彼女の隣に座り、コーラを飲みながらも、上映中は放屁感との戦いだった。 映画の内容はほとんど覚えていない。 全神経の7割を放屁を防ぐことに、残りの3割で彼女の会話と映画に集中するという、前代未聞のマルチタスク状態だった。
上映中に1、2度席を立った。おならが漏れそうだったからだ。 トイレの鏡を見て、泣きそうになった。 「俺は好きな人の隣にも座れないのか……」
上映が終わり、帰路に就く途中で彼女が言った。 「なんか楽しそうじゃないね」
その言葉が、まるでナイフのように胸に突き刺さった。
「違うんだ!俺だってあなたと一緒に笑ったり、悲しんだりしたいんだ!でも、腸がそれを許してくれないんだ!」 ――心の中でそう叫んでいた。
スチームおじさんは、「なんか今日はごめんね」とだけ、力なく伝えたのを覚えている。 映画館から最寄り駅に着いたとき、彼女は「今日はありがとう」と言って、バイバイした。 その背中は、遠ざかるにつれて人波に紛れ、まるで二度と手の届かない存在のように感じられた。
彼女からの連絡は――それ以後、なかった。
帰り道、ただただ、悔しくて、情けなくて、悲しくて涙が出た。
あとがき 〜誰かの、心のどこかで〜
笑ってもらえたなら嬉しい。
少しでも、共感してもらえたなら、なお嬉しい。
スチームおじさんの物語は、お腹が弱い男子の笑って泣ける青春ストーリーかもしれません。
でもその裏には、「誰にも言えない痛み」や「理解されづらい苦しみ」を抱えて生きている、
そんな人たちへのエールを込めています。
IBSでデートに集中できなかった人。
大事な場面で「奴」に邪魔された人。
「楽しそうじゃないね」と言われて、本当は一番楽しみたかった人。
あなたは、あなただけじゃない。
この物語が、そのことを伝える小さな灯りになれば――
書き手として、これ以上の喜びはありません。
ここまで読んでくれて、本当にありがとう。
そして、次回のスチームおじさんも、お楽しみに。
シリーズの作品も以下に紹介しております。ご興味があったら読んで見てください。
読んでくれてありがとう。感想もらえたら励みになります☺️
#創作大賞2025
#スチームおじさん
#笑えて泣ける
#初デートの思い出
#見えない病気
#IBS
