「夢の、そのまた夢」から「エントリー見送り」まで。BTSはグラミー賞をどう語ってきたのか
前回の記事では、「グラミー賞とはどんな賞なのか?」というテーマで、その制度や選考方法について調べてみました。
すると、次に気になったことがあります。
BTSは、これまでグラミー賞について何を語ってきたのだろう?
「昔からグラミー賞を目標にしていた」というイメージはありますが、実際には7〜8年にわたって何度もグラミーについて発言しており、その時々で言葉のニュアンスも少しずつ変化しています。
一方で、SNSやYouTubeでは発言の一部分だけが切り抜かれて紹介されることも多く、前後の文脈が抜けていたり、翻訳によって受ける印象が変わってしまったりするケースも少なくありません。
そこで今回は、できるだけ一次情報に近いものをもとに、BTSがグラミー賞について語ってきた言葉を時系列で整理してみることにしました。
今回確認した主な資料は、
グラミー公式インタビュー
グラミー公式サイト
Billboard
Rolling Stone
Esquire
AP通信
Reuters
Weverse Magazine
HYBE・BIGHIT公式コンテンツ
記者会見やライブ配信、コンサートでの本人発言
など。時系列で追っていくと、
2019年 初めてグラミー賞授賞式に参加し、「夢の、そのまた夢」と語った頃
2020年 Lil Nas Xの「Old Town Road」で合同パフォーマンスを披露し、「次は自分たちだけのステージに立ちたい」と目標を語った頃
2020年末 『Dynamite』で初めてノミネートされた頃
2021〜2022年 『Butter』で再挑戦し、受賞を目指していた頃
2026年 「音楽は地域や言語ではなく、音楽そのものとして聴かれるべき」としてグラミー賞へのエントリーを見送った現在
というように、BTSとグラミー賞の関係性が少しずつ変化していることが見えてきます。その変化を、できる限り本人たちの言葉を中心に振り返っていきたいと思います。
長くなりますが、いきましょう!
BTSとグラミー賞――本人たちの発言アーカイブ
2018年9月:グラミー・ミュージアムに初登場
BTSは2018年9月11日、ロサンゼルスのGRAMMY Museumで「A Conversation With BTS」に出演しました。
※『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』まさに「IDOL」の時期です。

この時点では、まだ音楽作品でグラミーにノミネートされた経験はありません。グラミー関連機関から、音楽制作や歌詞、ファンとの関係について本格的なインタビューを受けた最初期の出来事でした。
ただし、この公式映像で確認できる中心テーマは作曲過程や音楽的影響であり、「グラミーを受賞したい」という明確な言葉の一次記録として使うより、グラミーという機関に初めて音楽家として迎えられた時期として扱うのが安全です。
2019年2月:初めてグラミー授賞式へ
BTSは第61回グラミー賞で、韓国のグループとして初めてプレゼンターを務めました。

レッドカーペットでSUGAは、グラミーへの出席について、
「とても光栄です。夢の、そのまた夢のようです」
という趣旨で語りました。
RMも、
「音楽界最大の夜なので、僕たちにとって大きな意味があります」
と話しています。
この時点では、受賞以前に、その会場に参加できたこと自体を「夢以上の出来事」と捉えていたことが分かります。
授賞式のステージではRMが、
「また戻ってきます」
と宣言しました。
その後の2019年FESTAでも、メンバーはプレゼンターとして参加した経験を振り返っています。
2020年1月:今度は「自分たちのステージ」を望む
2020年のグラミー賞では、BTSはLil Nas Xらと合同ステージに参加しました。

これによって、韓国のアーティストとして初めてグラミーのパフォーマンスに加わりましたが、BTS単独のステージではありませんでした。
当時のレッドカーペット取材などでは、次の段階として、
「自分たちだけのパフォーマンスをしたい」
という希望を示しています。
ここで、目標が、
グラミーに出席する
プレゼンターを務める
グラミーのステージで演奏する
自分たちの曲で単独ステージに立つ
ノミネート・受賞する
と、少しずつ具体的になっていったと考えられます。
2020年9月:SUGA「音楽をする人なら目標にせずにはいられない」
2020年9月、SUGAはアメリカのラジオ番組のインタビューで、グラミーについて非常に明確に語っています。
「子どもの頃からアメリカの授賞式を見て育ったので、僕たちは皆、グラミーの重要性を知っています」
さらに、
「音楽をしている人なら、グラミー賞を見つめ、最終的な目標の一つにせずにはいられないと思います」
という趣旨の発言をしました。
これは、「なぜBTSがあれほどグラミーを望んでいたのか」を考えるうえで、かなり重要な発言です。
SUGAはグラミーを、単にアメリカで有名になるための賞ではなく、音楽家なら自然に意識する象徴的な到達点として捉えていました。
2020年11月:RM「ノミネートされ、できれば受賞したい」
初ノミネート発表直前、RMは『Esquire』のインタビューで、
「ノミネートされたいです。そして、できれば受賞もしたいです」
と率直に答えました。
『Esquire』の別記事では、数々のアメリカの音楽賞を受賞していたBTSにとっても、グラミーは「大きなもの」だったと説明されています。
つまり当時のBTSにとって、グラミーは単なる賞の一つではなく、世界的な成功を重ねた先にも残っていた、特別な目標でした。
2020年11月24日:初ノミネート決定
「Dynamite」がBest Pop Duo/Group Performanceにノミネートされました。
BTSは発表の瞬間を撮影した公式動画を公開し、飛び上がって喜ぶ姿を見せました。グラミー公式も、この候補入りをK-POPアーティストとして初のノミネートと説明しています。
AP通信も、BTSが数年前からグラミーへのノミネートを夢として語ってきて、それをついに実現したと報じています。
この時点で達成されたのは「受賞」ではなく、まず音楽作品そのものが候補として認められたことでした。
2021年3月:V「受賞できたら、もっと素晴らしい」
初ノミネート後、グラミー公式のインタビューでVは、
「今でも、自分たちがノミネートされてパフォーマンスすることが信じられません。受賞できたら、さらに素晴らしいと思います」
と語りました。ここからは、単に候補入りを喜ぶだけでなく、受賞への期待がはっきり表れています。
2021年3月:JUNG KOOK「僕たちだけでなく、多様性を求める人々にも意味がある」
同じグラミー公式インタビューで、JUNG KOOKは初ノミネートについて、
「韓国のポップアーティストとして初めてノミネートされたことは大きな名誉であり、これが始まりにすぎないことを願っています」
と述べました。さらに、
「受賞は僕たちだけでなく、音楽における多様性を追求する多くの人にとっても意味のあることになると思います」
と語っています。
これは非常に重要です。
この頃のグラミー賞は、BTS自身の夢だけでなく、
韓国のアーティスト
K-POP
英語を母語としない音楽家
多様性を求める人々
にとっての象徴的な意味を持つものとして語られています。
2021年3月:JUNG KOOK「グラミーで最高のステージを見せたい」
JUNG KOOKは2021年の目標について、
「グラミーで素晴らしいステージを披露し、自分たちにできることを続け、最高の姿を見せたいです」
と語りました。
この発言からは、受賞だけではなく、パフォーマーとして自分たちの実力を証明することも大きな目的だったと分かります。
実際、2021年には「Dynamite」で初めてBTS単独のグラミー・パフォーマンスを実現しました。

2021年:初受賞を逃した後
「Dynamite」は受賞を逃しましたが、BTSは授賞式後にファンへ感謝を伝えました。
報道では、SUGAが次を目指す趣旨のメッセージを投稿し、JUNG KOOKもARMYへの感謝と、これからも応えていく意思を示したとされています。
この段階では、落選によってグラミーへの関心を失ったわけではありません。
むしろ翌年、「Butter」で再び同じBest Pop Duo/Group Performance部門にノミネートされました。
2021年:SUGA「グラミー受賞は簡単ではない」
『Rolling Stone』関連のインタビューで、SUGAは、
「グラミーを受賞するのは簡単ではありません」
と認めたうえで、
「まだ挑戦し、乗り越えるものが残っていることをありがたく思います」
という趣旨を語りました。
ここには、グラミーを困難だからこそ挑戦する価値のある目標と見ていた姿勢が見えます。
2022年4月:2度目の受賞を逃す
2022年、「Butter」で再びBest Pop Duo/Group Performanceにノミネートされましたが、Doja CatとSZAの「Kiss Me More」が受賞しました。
BTSはこの年、スパイ映画風の「Butter」パフォーマンスを披露し、授賞式全体の大きな話題となりましたね。

しかし、受賞には至りませんでした。。
2022年4月:RM「僕たちはグラミーのためにラスベガスへ来たのではない」
グラミー直後に行われたラスベガス公演で、RMはARMYに向けて次のように話しました。
「僕たちはグラミーのためにラスベガスへ来たわけではありません」
そして、
「記録や肩書、成果、トロフィーも本当に大切です。でも、それが僕たちがすべてを始めた最初の理由ではありませんよね?」
と語りました。
さらに、
「この2時間、交流し、エネルギーを交わし、目を合わせ、一緒に歌い、踊ること。これがすべてです」
と述べています。
これは、グラミーに対する思いがなくなったというより、受賞できなかったことによってBTSやARMYの価値まで否定されるわけではないと確認する発言だったと読めます。
2022年:RM「人を驚かせる段階から、その先へ」
2022年のグラミー後、RMはWeverse Magazineのインタビューで、「Butter」のパフォーマンスについて、
「グラミーで披露した『Butter』のステージは、人々を驚かせたと思います」
としたうえで、
「今は、人を驚かせることを超えて、僕たちがこれからどのようなメッセージを伝えられるのかを、改めて考える時期だと思います」
と語っています。
さらに、
「これからBTSは世界に何を語るべきなのか」
「この時点で、BTSはどのような立場を取ったグループとして記憶されるべきなのか」
と、自分たちの方向性への問いを口にしています。
グラミーの舞台で「実力を証明する」という目標をある程度果たした後、RMの関心が、賞や驚きから、音楽で何を伝えるかへ移っていったことを示す発言です。
2026年2月:RM「グラミーは、以前の僕たちに必要だった目標」
再始動後の『GQ』インタビューでRMは、グラミーについて、
「グラミーは、過去に僕たちが達成できなかった目標の一つでした」
と振り返っています。
そして、7人が同じ方向を向いて進むために、当時グラミーが「北極星」のような共通目標として機能していたことを認めました。
一方で、
「でも今、一番大切なのは、僕たち7人が再び一緒にここにいて、世界中のファンに会いに行くことです」
と語っています。これは極めて重要な発言です。
RM自身が、
昔はグラミーが必要な目標だった
7人をまとめ、前に進ませる共通の北極星だった
しかし今の最優先事項は別にある
と説明しています。
2026年7月:グラミーへのエントリーを見送る
2026年7月29日、7人はそれぞれのInstagramで、2027年の第69回グラミー賞に作品を提出しないと発表しました。
共同声明では、
「今年、私たちはグラミー賞へのエントリーを行わないことを決めました」
としたうえで、
「音楽が地域や言語によって分けられるのではなく、音楽そのものとして聴かれ、愛されることを願っています」
と表明しました。
発表は、レコーディング・アカデミーがBest Asian Pop Music Performanceを新設した約1か月後に行われました。
BTS側は声明以上の詳細な説明をしていないため、
「アジアン・ポップ部門の新設だけが理由だった」とまでは公式には断定できません。しかし、地域・言語による分類への考えを明示したうえで応募を見送ったことは確認できます。
発言から見える変化
本人たちの発言だけを並べると、かなり明確な変化があります。
第1段階:グラミーは「夢の舞台」
2019年には、会場に参加できただけで「夢の、そのまた夢」と表現していました。まだ受賞以前に、グラミーという場所へ足を踏み入れること自体に大きな価値がありました。
第2段階:グラミーは「音楽家としての到達点」
2020年のSUGAの発言では、グラミーは音楽をする者なら自然に意識する最終目標の一つとして語られています。
第3段階:受賞は「BTSだけのものではない」
初ノミネート後、JUNG KOOKは、受賞が自分たちだけでなく、音楽における多様性を求める人々にも意味があると語りました。
この時期、BTSは自分たちの成功を、韓国やK-POP、非英語圏のアーティストの可能性とも重ねていたことが分かります。
第4段階:受賞よりも「なぜ音楽をするのか」へ
2022年、RMはトロフィーも大切だと認めながら、それがBTSを始めた最初の理由ではないと語りました。同時期には、人々を驚かせることより、どのようなメッセージを伝えるかを考える段階へ移ったとも話しています。
第5段階:グラミーは「かつて必要だった北極星」
2026年、RMは、グラミーが7人を一つの目標に向かわせる北極星だったことを認めつつ、現在の最優先事項は、7人で戻り、世界中のファンに会うことだと語りました。そして同年、BTSは地域や言語で音楽を分けることへの考えを示し、グラミーへのエントリーを見送りました。
発言を並べると見えてくるもの
今回、本人たちの発言だけを時系列で追ってみて感じたのは、BTSは一度もグラミー賞を軽く扱ったことがない、ということ。
最初は「夢」。
次に「音楽家としての目標」。
そして「韓国やアジアのアーティスト全体にとっての意味」。
さらに「賞よりも音楽を伝えたい理由」。
最後には「かつて必要だった目標」。
同じ「グラミー」という言葉でも、その意味は少しずつ変化していました。だからこそ今回の「エントリー見送り」という決断は、簡単ではなかったと思います。
次回は、ここまでの発言や歩みを踏まえながら、
「なぜBTSは、あれほどまでにグラミー賞を目指し続けたのか。」
「なぜ今、エントリーを見送るという選択をしたのか。」
私自身の考えを書いてみたいと思いますが、書く時間あるかな・・・
調査上の注意点
「BTSはグラミーについてこう言った」という投稿の中には、ファン翻訳、切り抜き動画、発言者が特定できない引用、複数の発言を一つにまとめた文章が相当数あります。
今回の整理では、できる限り、
グラミー公式
BTS・BIGHIT公式映像
本人インタビュー
GQ、Esquire、Rolling Stone
AP、Reuters
Weverse Magazine
授賞式・コンサートでの本人発言
を優先しました。
一方、2018~2022年のV LIVEや韓国語の記者会見には、現在検索で全文を確認しにくいものもあります。そのため、これは確認可能な主要発言を集めたアーカイブであり、BTSがグラミーという単語を発した全場面の完全一覧ではありません。ご了承ください!
