#6 生成AIは誰が推進するのか|建設会社でAI活用を定着させる5つの視点
「生成AIのPoCでは、一定の効果が確認できた」
「利用ルールも整理した」
「では、これを誰が社内で広げていくのか」
生成AIの導入が進むと、次に出てくるのが推進体制の問題です。
最初は、情報システム部やDX担当者がAIサービスを調べ、PoCを進めることが多いと思います。
しかし、本番業務へ広げようとすると、それだけでは進みにくくなります。
例えば、生成AIを使って施工計画書の初稿を作るとします。
AIの仕組みを整えることは、ITやAIに詳しい人が支援できます。
一方で、
どの施工条件を重視するのか。
どの基準を参照するのか。
どの状態なら技術者が使えると判断するのか。
といったことは、実際の施工業務を知らなければ決められません。
逆に、現場だけでAI活用を進めると、現場ごとに異なるツールを使ったり、同じような検証を各部門で繰り返したりする可能性もあります。
つまり、生成AIの推進は、IT部門だけでも、現場だけでも完結しにくい活動です。
AI活用を定着させるには、業務部門、全社推進部門、経営・管理職が、それぞれの立場から関わる体制が重要になります。
では、建設会社ではどのように考えればよいのでしょうか。
1.AI推進を、情報システム部だけの仕事にしない
生成AIはIT技術なので、情報システム部やDX部門が担当するものだと考えやすいかもしれません。
もちろん、利用するサービスやシステム構成、セキュリティなど、技術側が担う役割は重要です。
しかし、AIが実際に扱うのは業務です。
例えば、過去施工資料を検索するAIでも、
何をもって「似た案件」と考えるのか。
どの資料を信頼するのか。
どの回答なら現場で使えるのか。
といった判断には、施工の知識が必要です。
設計、積算、営業、管理部門でも同じです。
AIの仕組みを知っていることと、その業務で何が正しいかを判断できることは別です。
そのため、情報システム部やDX部門が単独で進めるのではなく、対象業務を知る人が、業務要件の整理や評価に関わる必要があります。
2.一方で、現場任せにもしない
では、AI活用は各部門や現場へ任せればよいのでしょうか。
それも難しいところがあります。
生成AIは、個人や部門単位でも試しやすいため、それぞれの場所で活用が始まることがあります。
現場Aでは施工資料の検索。
現場Bでは議事録作成。
設計部では図書の整理。
営業部では提案書の作成。
個々の取り組みとしては有効でも、それぞれが独立して進むと、
似たような検証を何度も行う。
利用するAIやルールがばらばらになる。
ある部門で得られた知見が他部門へ伝わらない。
といったことが起こり得ます。
建設会社では、現場ごと、支店ごと、部門ごとに業務が分かれているため、特にこうした状態になりやすいと考えられます。
そこで全社側には、個別の取り組みを把握し、共通化できるものを整理しながら、得られた知見を他部門へつなげていく役割が求められます。
現場が業務課題を出し、全社側が共通化と横展開を支える。
どちらか一方ではなく、両方が関わることが重要です。
3.その業務で「何が正しいか」を判断する人を明確にする
生成AIの活用では、誰がAIをつくるか以上に、
誰が「この回答なら業務で使える」と判断するのか
が重要になります。
例えば施工計画書であれば、AI担当者が文章として問題ないと判断しても、施工技術者から見れば重要な条件が抜けているかもしれません。
積算であれば、数字が整っていても、実際の見積条件とは合っていない可能性があります。
AIは、会社や現場の暗黙の判断基準を最初から理解しているわけではありません。
だからこそ、対象業務を知る人が、
何を重視するのか。
どこは間違えてはいけないのか。
どこまでならAIに任せられるのか。
どの状態なら業務で利用できるのか。
を考える必要があります。
AI活用では、技術そのもの以上に、これまで人が暗黙的に行っていた判断を言葉にすることが重要になります。
そのため、対象業務ごとに、業務要件の整理や利用可否の判断を担う人を明確にしておくことが重要です。
4.経営と管理職の役割も曖昧にしない
AI活用というと、実務担当者やIT担当者の話になりやすいですが、経営や管理職にも役割があります。
経営には、会社としてAIをどの領域で活用していくのか、何を優先するのかといった方向性を示す役割があります。
管理職には、その方向性を実際の業務へつなげ、担当者が検討を進められる環境をつくる役割があります。
「AIを活用してみてください」と現場へ伝えるだけでは、通常業務を抱える社員にとっては優先順位を付けにくいこともあります。
一方で、経営側が具体的な業務や使い方まですべて決めてしまうと、現場の課題とずれる可能性があります。
重要なのは、経営がすべてを決めることではありません。
経営が方向性を示し、管理職が人や時間を確保し、業務担当者が具体的な使い方をつくる。
それぞれの役割がつながっていることが、継続的なAI活用には重要です。
5.「AI専門部署をつくること」を目的にしない
AI活用を推進するために、「AI推進室」や「AI CoE」のような専門組織を検討する会社もあります。
一定の規模になれば、そうした組織が有効な場合もあると思います。
一方で、すべての会社が最初から専任組織をつくる必要があるとは限りません。
特に、まだAI活用を始めたばかりであれば、組織名をつくることよりも、
業務側の判断を誰が担うのか。
技術やルールを誰が支えるのか。
全社として誰が方向性を判断するのか。
といった推進機能を誰が担うのかを明確にすることが重要です。
専任組織がなくても、既存の部門や担当者が役割を分担して進める方法はあります。
反対に、「AI推進組織」という名前だけをつくっても、業務部門との接点や判断する役割が曖昧であれば、活用は進みにくくなります。
重要なのは組織の名前ではなく、AI活用を継続して動かすための機能と役割があることです。
AI活用を支える3つの役割
ここまでの内容を整理すると、生成AIの推進には、大きく3つの役割が必要になります。
役割主な役割業務部門・現場業務課題を提示し、業務として使えるかを判断する全社推進・IT/DX部門技術・ルール・共通化・横展開を支える経営・管理職方向性や優先順位を示し、実行できる環境をつくる
会社の規模や組織構成によっては、一人が複数の役割を担うこともあります。
重要なのは、立派な組織図をつくることではなく、必要な役割が抜け落ちていないことです。
こうした役割のどこかが曖昧なままだと、PoCまでは進んでも、その後の本番化や社内への展開で止まりやすくなります。
生成AIの技術は、今後も変化し続けます。
そのため、最初から完璧な体制をつくるというより、実際のユースケースを通じて、会社としてAIの使い方や推進方法を学んでいくことになると思います。
生成AIの推進体制とは、「AIに詳しい人を集めること」ではなく、業務を知る人を中心に、技術、全社の仕組み、経営判断によって支えられる状態をつくることです。
AI活用を一部の担当者の取り組みで終わらせず、会社の業務として定着させるためには、誰がどの役割を担うのかを明確にすることが、重要な出発点になるのではないでしょうか。
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