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現実のなかに見る光――映画『急に具合が悪くなる』と深く繋がるケア

前回に引き続き、映画『急に具合が悪くなる』とケアの世界の繋がりについてご紹介していく記事です。これまでの映画評原作評・そして前回の記事も、よろしければそれぞれお読みください。

前回の記事で、映画『急に具合が悪くなる』が突きつける重い現実の象徴としてご紹介した劇中劇。その演劇は作品の最終盤、まったく異なる色合いと意味合いを持ったものになります。マリー=ルーが施設長を務める介護施設で真理が行ったワークショップを経て、どんなことが起こるのか。ハチャメチャで光に満ちたその光景は、ぜひ映画を観て確かめてください。

真理の演劇ワークショップや最終盤の光景を見て思い出したのが「介護と演劇は相性がいい」ということ。そんな理念のもと、認知症や失語症など、様々な背景を持つ人々と一緒に演劇を作り、介護についてのワークショップを行っている劇団があります。

「OiBokkeShi」・相手の世界に飛び込むために

「老いと演劇」をテーマに活動を行っている岡山の劇団OiBokkeShi。
舞台俳優で、介護福祉士の菅原直樹さんが2014年に立ち上げました。
以下の公式サイトからワークショップの内容を見てみましょう。

「遊び」を使って身体を動かしつつ、その人の言動を否定したりせず、その人が見ている世界に飛び込み、「いまここを共に楽しむ」新しい関係を作る、そんなワークショップの数々。映画でもマリー=ルーが語っていたように、お年寄りがこれまでの人生で積み重ねてきた時間の一片が私たちの前に現れていると考えると、目の前に広がる世界も違って見えそうです。

目の前にいる人の「いまここ」を受け止めながら、プロでなければ気付けないような、相手の変化を見逃さず、寄り添うこと。そこに介護の奥深さがあるような気がしてなりません。そうしたケアの現場もご紹介させてください。

「宅老所よりあい」・一人のお年寄りのために

「宅老所よりあい」「第二宅老所よりあい」「よりあいの森」は、決まったスケジュールがなく、一人一人のお年寄りがそれまで築いてきた生活を大切にする介護を実践している場所です。

どうしてそんなことが可能なのか知りたくて、この専門書を読んでみました。

この本によると、「宅老所よりあい」は1991年、当時地域のなかで孤立していた92歳の一人のお年寄りのために、居場所を作ろうと始められたのだそうです。なので根底には、「一人のお年寄りのために」という理念があります。それでも利用者が増え、スタッフが増え、スタッフ間の認識のずれが露わになるなかで、そのずれを解消するために全職員参加で行われたこと。
それが、「読んで、見て、面白い」記録様式の開発でした。
そしてその記録様式をもとに、ミーティングが行われるようになったのです。

宅老所よりあいでは、その日の勤務者が終礼時に集まり、合議の下で記録をつける。終礼では、利用者別に印象に残ったその日の出来事を交換し、記録に残したい会話場面等(宅老所よりあいでは「トピックス」と称する)を選定する。選定された会話場面に相応しいタイトルを検討し、考察を行う。(中略)
具体的には、表7の記録様式を用いて、はじめに「内容」欄に当事者・家族・地域別にお年寄りの言葉や行為の事実を記入する。

「宅老所よりあい」解体新書  第4章 宅老所よりあいの記録とミーティング

ご本人がどんな言葉を発して、職員の声かけに対してどんな反応があったか。そこからどんな思いが読み取れるのか。ご家族は、地域の病院などはどんな意向なのか。そんな記録を毎日まとめて支援方針を決定し、週1回の会議で全職員で評価・共有する。こうした視点で積み上げられてゆくものは、単なるデータベースではなく、介護職員とお年寄り本人・ご家族との関係構築の記録でもあると思います。何に気付き、何を記録し、評価するのか。介護の現場の専門性が見て取れます。

ここまで、介護がいかに関わり合いのなかに新しい価値を見いだすもので、専門性があるかについてご紹介してきたと思います。とはいえ、映画でマリー=ルーが理想のケアについて悩んでいたように、人との責任ある関わりのなかで、落ち込むことも、手応えがないことも当然あるでしょう。働く人の思いに触れられるものを探していたとき、この本に出会いました。

「らせんの日々 ― 作家、福祉に出会う」

作家の安達茉莉子さんが、障害者支援施設や高齢者福祉施設など多様な分野の事業所を運営する社会福祉法人、南山城学園に滞在して書かれたエッセイ集。現場で働く人たちへのインタビューを通じて、「人を大切にすること」や「人との関わりのなかで働くこと」「福祉」について見つめています。

働く人が、どんなやりがいや楽しさを福祉に見いだしているか、どんな専門性があり、どんな関わりを心掛けているかといったことだけではなく、職場の心理的安全性や「人を大切にすること」について語られた部分がとても印象に残りました。

そもそも、全職員に敬語で話します。『○○くん、あれやっといて』とか絶対言わないです。みんなひとりの社会人なんですよね。僕が年長者とか上席だから、とかの理由で、簡単に指示をしていい存在じゃないんです。ひとりの社会人として、あなたのことを尊敬するからそう接します。

『らせんの日々 ― 作家、福祉に出会う』第9章 関係から降りないために

一人の人として尊敬し合い、うまくいかずに落ち込むときは励まし合いながら同じ目標に向かって歩いて行く。人との関係性において、映画も同じメッセージを伝えていると思います。

今年で創立61年を迎える南山城学園の慰霊碑には「この道は遠くとも」と刻まれているそうです。
そんなのできる訳ない、と言われることの多かった昔の時代にも「この道は遠くとも」と歩み続けた人がいたから、今の福祉があるのでしょう。

これから先もそうやって歩み続けた先に、新しい可能性が開けていくかもしれません。映画と現実の世界が交差していること、映画で描かれた世界が現実に根ざしていることを、感じていただけたら嬉しいです。


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