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キリング・ミー・ソフトリー【小説】52_歩きで帰ろう


基本的には暇を持て余し、アルバイトで積極的に様々な時間帯のシフトへ入る。初めは失敗だらけで落ち込むも、要領が分かれば造作なかった。


「広瀬くん。夏休みが終わったら週3固定でどう?イケるかな?」
「はい!やります!」
「ありがとう。またテスト期間は休んでくれていいからね。ホント、広瀬くんは仕事熱心だよね。スタッフみんな助かるって褒めてたよ。」


認めたかのようなオーナーの一言が胸を突く。
ただの大学生には変わりなくとも、社会の一端を担う僅かな存在になったのだと感じ取る。
溢れ出る嬉しさとニヤニヤ笑いを抑えつつ退勤して、異常なまでに冷房の利いた店内を抜けるとムワッとした熱気に襲われた。



纏わり付く蒸し暑さで汗ばむ、こんな熱帯夜の必須アイテム。すかさず先程買った新商品のアイスをひと口。瞬く間に溶けてしまうので舐める余裕はない、でも、この帰り道が好きだったりする。


たまに横切る車、鳴き喚く蝉、月灯りに見守られ、星を点で繋ぎ名前をつけ、民家の漏れる声に耳を澄まし、干されたままの洗濯物、庭先へ落ちる水鉄砲の残骸と拉げたビニールプール、漂う生暖かい風。
今晩は父と長編映画を観る約束をしていた。


ついに形を成した自分達のバンドはコピーから始める。淳は
「ちーのハスキーボイスっていうか酒焼けみたいな声すごいでしょ。それ最大限に活かそうよ。」
と主張し、選曲ひとつとってもいかに〈エモい〉か否かが大切と捲し立てた。


こちらとしては一時的な流行に過ぎず、感情が揺さぶられる叫びに似た定義が曖昧で言い表せないものは避け、各々が持つ技術を使った正統派で攻めたいと意見が食い違う。


喧嘩が起こる寸前で南が
俺は2人とバンドやれるだけで幸せだよ。
と宥めて丸く収まり、温厚な彼をドラムに据えたのは正解だった。


実は密かにアコースティックギターを片手に曲作りを試みているが、オリジナル仮題が〈Lily〉即ち莉里さんだなんてぬかせば再び本気のバトルを繰り広げた結果、淳に殴られそう。
南さえいればへっちゃらだ。



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