キリング・ミー・ソフトリー【小説】60_ 紺夜
子の刻。
長髪を緩く束ねた若者が港の前でしゃがみ込んで歌っていた。それはもうデタラメな英詞だが、やけに透き通った声だ。
「また知成はこんな時間に。近隣の迷惑。」
「うおっ、ビックリしたあ。ちーか。今、俺の美声をね、ちょっと聴かせてあげてんの。もしかしたら人魚ちゃんが潜んでるかもだし?一応アピールはしとくべき。」
喧しいわと押し退け隣に座り、向かう途中に自動販売機で購入したジュースを知成に渡す。
「あ、俺の分も?優しー!」
「こんくらいで何言ってんだよ。」
ここへ立ち寄ったのはいつ以来か。
大抵、単独で海岸に行っては夜を過ごしており状況が変わると不思議な感じがする。
落ち着かない筈が、彼は特別だった。
ややあって、知成が喋り始める。
「俺さあ。明るいキャラ作ったのこっち引っ越してからなんだわ。兎に角、見て欲しくてふざける的な。実際、まあ騒いでんの好き、楽しきゃオッケーなんだけど、ぶっちゃけ陰口叩いといて都合良く俺を使うっつーか、そういうヤツらも集まってくんのね。けど、ちーは違ったんだわ。俺にはなれねえ、絶対敵わんとか、救われた気がした。なあ、こんな嬉しいことある?あいつめっちゃすげえ、痺れた、何がなんでも仲良くなってやるって。未だにあれを超える衝撃にぶち当たれない。」
中学時代。第二次反抗期真っ只中、鋭く尖っていた頃の葬り去りたい黒歴史を掘り返され、俯いて答えた。
「あん時は別に友達じゃなかったけど、お前が努力してんのなんとなく分かってたから。」
「それ!そこがちーのヤバさ。しかも、ちーってずーっと俺に対しての態度変えたりしねえじゃん、いっつもなんだかんだ付き合う。どんっだけ俺がダサくてクズだろうがちゃんと見守って……うわっつらの綺麗事なしな関係だからマジ信じられる。んで、えっと、つまり。」
急かさずに次の言葉を待てば、涼風が隙間を吹き抜けていく。磯の香りが漂った。
「ちーは誰がなんて言おうと最強にかっけえよ、ディスったらぶっ飛ばす。俺はちーの親友になれて世界一幸せ。莉里さんに気持ち伝えんだろ?頑張れ。」
たまげたまま海に落ちかける。流石は腐れ縁、いちいち白状しなくともお見通しという訳だろう。
「ありがと、潔くフラれてくる。弟じゃない、俺もしっかり男なんだって意識させて、ダメならいっか?……簡単に諦められる恋じゃねえんだよな、これが!あーめんどくせー!でも、どっちにしろ言うしかなくね?」
知成と地べたに寝転がる決意の晩、憎たらしいぐらい満天の星や空も東京と結び付き、莉里さんも月に照らされて帰ったかも知れない。
出会い頭、知成が口ずさんだのはかなり親密な間柄で有名なバンドマンの友情を描いた曲。彼は2人の絆に強く憧れを抱き、自らと重ね合わせた。
いつの間にか本家宜しくデュエットさせられる。
やめろ、泣かせんなよ。
今までも、勿論この先も、一緒に生きよう。
不器用な知成が懸命に話した全てが勇気を送ってくれた。
