noteを書き始めたら、なぜか早起きになった話
私はもともと、早起きが得意だったわけではありません。
ところがnoteを書き始めてから、明らかに朝起きる時間が早くなりました。
目覚ましを変えたわけでも、早寝早起きを目標にしたわけでもありません。「朝活をしよう」と気合いを入れた記憶もありません。
それなのに朝になると目が覚める。
理由はなんとなく分かっています。
昨日の記事は読まれただろうか。スキは増えただろうか。コメントは来ているだろうか。そして今日は何を書こうか。
早起きしたくなったのではなく、朝起きてやりたいことができたのです。
これ、マーケティング的にも結構おもしろい現象なのではないかと思いました。
ドーパミンが関係している?
最初に思いついたのは、ドーパミンでした。
noteの反応は毎日一定ではありません。たくさん読まれる日もあれば、ほとんど読まれない日もある。投稿してみないと分かりません。
だから「今日はどうなっているだろう」と確認したくなる。
ただ、ここで「スキがつくとドーパミンが出るから早起きになった」と説明すると、少し雑です。
ドーパミンは単純な「快楽物質」としてだけ働いているわけではありません。Wolfram Schultzらの研究では、ドーパミン神経は、実際に得られた報酬と予測していた報酬の差である「報酬予測誤差」と深く関係することが示されています。
つまり、予想より良かった、予想と違った、といった経験を通じて、次の行動を学習していく仕組みに関わっています。
私の脳内で実際に何が起きているかを測定したわけではないので、noteによってドーパミンがどう変化したかは分かりません。
ただ少なくとも、
「朝になった」 →「昨日の記事の結果が分かる」 →「結果を見る」 →「次の記事を書きたくなる」
というフィードバックのある行動が繰り返されるようになったことは事実です。
早起きそのものより、この構造の方が重要なのかもしれません。
早起きの習慣を作ったわけではなかった
習慣形成の研究では、同じような状況で行動を繰り返すことによって、状況と行動の結びつきが強くなっていくと考えられています。
私の場合なら「朝」という状況に対して、「noteを見る」「記事を書く」という行動が徐々に結びついていった可能性があります。
ここがおもしろいところです。
私は、
「毎朝早く起きる」
という習慣を作ろうとしたわけではありません。
むしろ、
「記事の結果を見たい」 「昨日思いついた続きを書きたい」 「次の仮説を試したい」
という目的が先にでき、そのために朝起きるようになりました。
習慣を直接作ったのではなく、行動したくなる理由を作った結果、習慣らしきものが後からついてきた。
私にはそのように見えます。
もちろん、これだけで早起きの一般法則とは言えません。睡眠時間や生活リズムなど、ほかの要因もあります。
それでも、自分の行動が変わった理由を考える材料としては興味深い現象です。
「早起きを売るマーケター」なら、何を売るか
ここからマーケティングに置き換えて考えてみます。
仮に私たちが「早起き」を売るマーケターだったとします。
普通に考えると、
「朝5時に起きると生産性が上がります」 「早起きを習慣にしましょう」 「朝活を始めましょう」
と訴えたくなります。
でも、私の行動はそれでは変わりませんでした。
私を早起きさせたのは、早起きのメリットではありません。
朝にやりたいことができたことでした。
だとすると、早起きを売るマーケターが考えるべきなのは、「どうすれば早く起きてもらえるか」だけではないのかもしれません。
「朝起きたくなる理由は何か」を考える。
ここまで抽象化すると、他の商品にも応用できます。
売りたい行動ではなく、行動が起きる状況を考える
たとえば、朝にコーヒーを飲んでほしいブランドがあるとします。
「毎朝うちのコーヒーを飲んでください」
と言っても、それは企業側の都合です。
そこで、「朝、仕事を始めるとき」「通勤途中に少し目を覚ましたいとき」「朝食と一緒に何か飲みたいとき」といった状況を考えてみます。
Ehrenberg-Bass Instituteでは、こうしたカテゴリーを想起する手がかりをCategory Entry Points(CEP)と呼びます。時間帯、場所、目的、感情などもCEPになり得ます。
するとマーケターの仕事が変わります。
たとえば「仕事を始める朝」というCEPとブランドを結びつける広告を継続的に出す。
通勤途中にそのブランドを思い出せるクリエイティブを使う。
そして実際に欲しくなったとき、駅の自販機やコンビニですぐ買えるようにする。売場ではいつもの色やパッケージですぐ見つけられるようにする。
これは「毎日買えばポイントが貯まるから習慣化させる」とは少し違います。
買う頻度を直接操作しようとするのではなく、ブランドを思い出す状況を増やし、その瞬間に簡単に買えるようにする。
Mental AvailabilityとPhysical Availabilityを高めるという、エビデンスベースド・マーケティングの考え方にも近づきます。
人を動かしたいなら、行動だけを見ない
マーケターは、つい「顧客に何をしてほしいか」から考えます。
アプリを開いてほしい。商品を買ってほしい。店舗に来てほしい。サービスを使ってほしい。
もちろん、事業として必要な視点です。
でも、その行動は企業が欲しいだけで、顧客自身が欲しいとは限りません。
私は早起きが欲しかったわけではありません。
noteを書きたかった。
昨日の記事の結果を知りたかった。
次の仮説を試したかった。
その結果として、早起きするようになりました。
だから顧客行動を変えたいとき、一度問いをひっくり返してみる価値がありそうです。
「どうすればこの行動をしてもらえるか」ではなく、
「どんな状況なら、この行動を本人が取りたくなるだろうか」
そして、その状況で自社の商品が思い出され、簡単に買える状態をつくる。
マーケティングとは、人を無理やり動かす技術ではなく、人が自然に動く状況を見つけ、その中に商品を置く仕事なのかもしれません。
少なくとも、私を早起きさせるには、その方が効果的でした。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。 事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。 このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
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自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
https://note.com/baokcg69/n/n371e049e5e99
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参考URL
Wolfram Schultz, Dopamine reward prediction-error signalling: a two-component response https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26865020/
Wolfram Schultz, Dopamine reward prediction error coding https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27069377/
Benjamin Gardner et al., Making health habitual: the psychology of 'habit-formation' and general practice https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3505409/
Stojanovic et al., Context Stability in Habit Building Increases Automaticity and Goal Attainment https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9226889/
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science, Category Entry Points: The Last Two Strategic Pitfalls Unraveled https://marketingscience.info/news-and-insights/category-entry-points-the-last-two-strategic-pitfalls-unraveled
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science, Open-access reports https://marketingscience.info/open-access-knowledge/open-access-reports
