【掌編小説】成長する物語
この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係が無いとまでは言えませんがそもそも実在かと言われるとそうでもないのですがとにかく創作文と感想文と宣伝文を兼ねたような兼ねてないような感じなので予めご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
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(読了目安4分/約2800字+言い訳)
プランBは常に持っておいた方が良い。何事にもプラス思考でないと、プライベートもビジネスも上手くいかないものだ。
今朝のオンラインでの商談はこちらが想像していた以上に先方が食いついた。是非一度詳しいお話を聞きたいと言われ、翌日にアポイントが取れたのだ。せっかくだから御社に伺いますとお伝えすると、これまた想像以上に喜んでもらえた。トントン拍子とはこのことだ。この商談を成功させるためなら、喜んで最終便に乗るさ。
新千歳空港からの最終便は二十一時三十分。まだ小一時間ある。先方へのお土産も買い終わりなんとかキャリーケースの中に収めると、please chargeと言い残しイヤホンの充電が切れてしまった。これから長時間のフライトだ。さすがに暇を持て余すだろう。
俺は空港内の本屋で文庫本を探した。できればミステリー系。読み応えのあるものが良い。平積みされた聞いたことのある作者とタイトルをざっと眺め、棚差しをじっくりと眺める。
推理小説も良いが有名なところはだいたい読んでいる。最近は予想外の展開も出尽くしていて、あまり新鮮な驚きを感じなくなってしまった。何か新しいものが良い。知らない作家の想像のつかない展開。
ふと目に留まったのは短いタイトルだ。黒い背表紙。『残夢』豆島圭。この捌玖文庫というのも知らないレーベルだ。だが帯に書かれている作家の名前は見覚えがあった。確か最近デビューした新人作家だ。ということはこの著者も最近デビューしたばかりの作家なのだろう。
背表紙のあらすじにざっと目を通し、そのままレジへ持って行く。もちろんハズレの可能性もある。だがこういうのが面白いと、かなり得した気分になれるのだ。おみくじで大吉を引くようなものだ。
レジの店員はバーコードが上手く読み取れないのか手打ちで入力し、手早くカバーをつけてくれた。あっという間に良い時間になってしまった。慌ててチェックインをして荷物を預けると、保安検査へ向かう。
ポケットの中身と腕時計を外し、PCを取り出したビジネスバッグをベルトコンベアーへ載せた。眠そうな顔をした小太りの検査員が、ゲートをくぐった俺にねっとりとした視線を投げる。
「ちょっとカバンの中を見せてくださいね」
返事を待たずに男はバッグに手を突っ込み、先ほどの本を取り出した。訝しそうにくるくるとひっくり返していたが、カバーを外してタイトルを見た途端、口角を上げる。
「失礼しました」
カゴとバッグを受け取り、PCを入れていると先ほどの検査員が近づきそっと囁く。
「その刑事、死にますよ」
俺は不快感を露わにしながら、そうですか、とだけ言い捨て足早にロビーへ向かった。
まだ一頁も読んでない本の壮大なネタバレだ。最悪な気分だ。ロビーで待ちながら読もうと思ったが、二、三頁読んだところでこの人物が死ぬのか考えると、すぐに閉じてスマホのネットニュースを眺める。機内でも読むつもりだったが、腕を組むとすぐにうとうとと眠りに落ちた。
アナウンスで目が覚めると、すっきりしていた。朝の商談後、昼食も夕食も取らずプレゼンを作ったのだ。疲れていたのだろう。気を取り直して購入した文庫を読み進める。警察もののミステリーだ。逮捕された女の言動が意味深なのだが、主人公の過去とも個人的に関係しているようにほのめかす。
ホテルにチェックインした後もしばらく読んでいたが、もう二時を回っている。明日のプレゼンに差し支えるため、半分くらい読み進めた本を枕もとに置き眠った。
翌朝、目が覚めてすぐに異変に気付いた。寝る前に置いた本は寸分違わず、そのままの位置にある。だが、その本の結末の三十頁くらいだろうか。袋とじになっていた。当然だが昨日はなっていなかった。中を覗こうとしたがこれではさすがに読めない。はさみかカッターがいる。いや、今はそれどころじゃない。俺は荷物をまとめホテルをチェックアウトをすると、先方の会社へ向かった。
プレゼンは上々だった。サンプルを持参したため話は早く、早速先方の社内で稟議を回した後に契約の運びとなる。担当者ともすっかり仲が良くなり、よろしければお昼でも、とお誘いいただく。快諾して広げていた書類をまとめ、PCをバッグへしまいながら、そうだ、と声が出る。
「すみませんが、はさみかカッターか貸していただけませんか」
俺は文庫本を取り出して、決してイヤらしい本じゃないんですよ、とおどけてみせる。
「珍しいですね。文庫で袋とじなんて」
物珍しそうに見る課長さんの横で、あ、と女性が声を上げる。
「それ、私も持ってます。開けちゃダメですよ。ちゃんと育てないと」
「育てる?」
「成長するんですよ、その本」
思わず課長さんと目を合わせ、首を傾げた。
「ええとなんていうか、植物みたいに」
彼女は自分のスマホを取り出しスクロールしているが、うーん無いな、と呟いた。
「すみません、うちの子の写真があればと思ったんですけどちょっと撮ってなかったみたいです。今度良ければ写真を送りますよ。とにかく、刃物なんて使って開けないでください。愛情を持って読書してくださいね」
場所を変え、食事をしながら続きの説明を聞いていたが、結局よくわからない。とにかく何度も繰り返し読んでいると、物語が成長し、発展していくらしい。
「でもこの主人公、死ぬんですよね」
ずっと気になっていたことを思い切ってぶつけると、彼女は首を傾げた。
「え、死なないと思いますよ。いや、うーん、あれってある意味死ぬっていうのかな。多分ですけど、育てる人にもよるんじゃないですかね」
「人によって話が変わるってことですか?」
「全く変わるってわけじゃないと思いますよ。ほら、小学校の時朝顔とか育てませんでした? 同じ朝顔でもたくさん花をつける子もいれば、枯らしそうになる子もいたじゃないですか。咲く花は一緒でも育てる人によって変わる部分もあるんじゃないかなと思って」
帰りのフライトで袋とじになっていない残りの部分を読み、寝る前に再度最初から読み始める。翌日目が覚めた時には、袋とじは膨らんでいた。明らかに頁が増えている。確かに成長している。だが袋とじのまま膨らんでも先は読めない。
やっぱり開けてしまおうかと考えながら、珈琲を入れてPCを立ち上げる。新着メールが届いていた。
「昨日は遠いところお越しくださりありがとうございました。お話していたうちの子です」
添付されている写真は柔らかそうなクッションの上に置かれた一冊の本。その本の後半部分ははち切れそうなほどに膨らんだ袋とじで、その隙間から頁が葉のように重なり溢れている。写真を拡大しても文字はぶれていて読めないが、ページ数が打たれているのが分かる。こうして少しずつ育つのをゆっくりと読み進めれば良いらしい。
俺は珈琲を手にソファへ座り、つぼみのような本を開く。成長する物語を優しく視線で撫で続ける。
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言い訳コーナーです。
ええと元をたどれば、こちらの読書泊なるもの。
ご存知でしょうか、読書泊。読書を目的とした旅をすることらしいです。旅先での暇つぶしとして本を持って行くことはありますが、読書するために旅をしたことはありません。読書するための珈琲代もケチって家に帰ってから読むような鳥です。でもたまーに喫茶店で本を読むとセキセイインコくらいにランクアップした気分になれます。それの宿泊バージョン。なんてセレブリティ。クジャクか。
この世の中にはそんなセレブもいるのかと感慨深く思っていたら、感想文が登場しました。
読書泊体験談。いるんだ、実際🐤
そんな旅先では、思いがけない出会いもあった。とある国の宿で、たまたま同室になった日本人と、文庫本をきっかけに話がはじまった。僕が読んでいた司馬遼󠄁太郎を彼が覗き込み「何を読んでるの?」と言う。そこから、歴史、文学や哲学の話を夜通し語り合い、最後にはお互いの本を交換して別れた。
えなにその素敵エピソード。ドラマじゃん。
こういうのを読むと俄然読書泊に興味が湧きまして、本を片手にどこか出かけようかとソワソワするものの、実際出かけたとてこんなドラマみたいなエピソードと出会えることはほぼありません。
なければ作ればいいじゃない、ということで書いたのが今回のお話でした。突然引用してびっくりさせてしまった、おかえりさん、真田正之さん、失礼いたしました。
なおここで取り上げている、捌玖文庫。
こちらは実際に存在する架空のレーベルです。
BOOTH「捌玖文庫」
https://mameshima.booth.pm/
豆島圭著『残夢』も実在します。

私も一冊持っていて育てていますがまだ袋とじになりません。愛情が足りてないのでしょうか。
まあなんにせよ、今回のお話の中で「本屋さんにこそっと置く」テロ行為を起こせたことが何より満足です。
豆島先生、勝手に使ってすみませんでした。手元にあったもので。ほんの出来心です。許してください。
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