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【英国文豪、令和を歩く】第82回:TikTok scroll, lose control, one more clip and that’s the goal!

京都、三条通の界隈。明治時代から続くような、重厚な木造りのカッフェー。琥珀色の照明の下、二人の奇妙な連れが向かい合っている。一人は、華やかなスカーフを首に巻き、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを無造作に着こなし、パイプ代わりに手にしたペンを弄んでいる男、ドイルである

                                                                                                                           コナンドイル

ああ、失礼した。どうも私は、新しい言葉を聞くとすぐに古い事件の記憶と結びつけてしまう癖があってね。スマホアプリの『TikTok(ティックトック)』か。なるほど、現代の紳士淑女が片時も離さず持ち歩いている、あの魔法の石板(スマホ)の中で動く、ごく短い活動写真のことだね

ウィリアムシェイクスピア                                                                                                                    

そうよ、ドイル。でもただの活動写真じゃないわ。それは、世界中の人々がたった数十秒の舞台に命を懸ける、現代の巨大な円形劇場なの。ある者は道化師のように踊り、ある者は悲劇のヒロインのように涙を流す。観客は指先一つで、次の役者を舞台に呼び寄せることも、無慈悲に追い出すこともできる……。かつてのグローブ座の熱狂さえ、この速度には敵わないわ

十五秒から一分程度の断片……。ホームズなら、その断片の積み重ねから、投稿者の生活習慣や居住地をたちどころに割り出すだろうな。背景に映り込んだカーテンの模様や、窓の外の微かな騒音、あるいは指の動かし方一つからね。だが、私には少々、刺激が強すぎる。まるで、ベーカー街の霧の中で、一瞬だけ街灯に照らされては消えていく見知らぬ通行人の顔を、永遠に見せられているような気分だ

あら、その『一瞬』にこそ、真実が宿ることもあるのよ。着飾った長い芝居よりも、ふとした瞬間の表情や、計算されていない仕草に、その人の本性が現れるもの。TikTokは、いわば人生のハイライトだけを集めた、贅沢で残酷な詩集のようなものだわ

詩集か。だが、その詩を読み解く暇(いとま)もないほど、次から次へと新しい動画が流れてくる。観察(オブザベーション)ではなく、ただの消費になっているのではないかね? 私はやはり、一通の手紙の筆跡をじっくりと眺めたり、自転車でやってくる依頼者の泥の跳ね返りからその道程を推測したりする、あの静かな思考の時間の方が好きだよ

それはそうね。でも、あのアプリの恐ろしいところは、自分の好みを鏡のように映し出すことよ。あなたが一度でも『医学』や『冒険』の動画に目を留めれば、次からはそればかりが流れてくる。まるで、パックが魔法の媚薬をまぶしたように、あなたの視線を釘付けにして離さないの。これこそ、現代の魔法そのものだと思わない?

自分の興味があるものだけが、向こうからやってくる……。それは便利というより、一種の『精神の牢獄』のようにも聞こえるな。ホームズが『脳の屋根裏部屋には、必要な道具だけを整理して入れておくべきだ』と言っていたが、あんなアプリを使っていたら、屋根裏部屋はあっという間に、色とりどりのガラクタで溢れかえってしまうだろう。……だが、待てよ。もし犯人が、逃走中にうっかりダンス動画でも投稿してくれたら、事件解決は随分と早まりそうだがね

ふふ、名探偵がスマートフォンの画面をスクロールしながら、犯人の『いいね』の傾向を分析している姿なんて、それこそ最高の喜劇だわ。ドイル、あなたも一度、その『小さな舞台』に立ってみたら? きっと、新しい物語のインスピレーションが湧いてくるはずよ

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